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39.ガラムダ荒原~準備編~

 ギルドの掲示板で依頼書を確認した後、ショウはリンネを引き連れて移動した。場所は、ランデルに到着した時に偶然入った喫茶店である。理由は言わずもがな、朝食をとるためだ。


「ショウよ。彼奴(あやつ)は何者じゃ。かなりの魔力を感じたぞ」


 席に案内されて早々、リンネが険し気な表情を向けてきた。つまり、ノエルが余程強いということだろう。表情だけでなく、張りつめた雰囲気からも察することができる。


「この国で五本指に入る冒険者で、元バラデュール公爵家のお嬢様だ」

「何じゃ、バラデュール公爵家とは」

「貴族――平たく言うと、この国のお偉いさんだ。代々王家に仕える家臣……とはちょっと違うかもしれないが、そんな感じのものだと思ってくれればいい。ちなみに、彼女のご尊父はフィネル・バラデュール。この国の軍事をすべて司る将軍だ」

「ほぉ~」


 リンネが感嘆を表すように頷く。それからメニューを手に取った。さらに、機嫌良さそうに鼻歌を歌い始める。


「ちなみに、ノエルの魔力はどの程度だったんだ」

「今の妾の半分と言ったところかの」

「そうか」


 リンネを尻目に、考えを巡らせていく。国内五本指に入るような冒険者と比べても、リンネが圧倒的な魔力を保有していることが分かったからだ。


 ――バラデュール家は騎士の系譜だったはず。ということは、魔力量を比較する対象としては微妙か……。


 そう思うと疑問が浮かんでくる。国内トップクラスの魔法使いと比較するとどうなのだろうかと。勇者(レヴァン)と比較するとどうなのだろうかと。また、四魔将とは一体どれほどのものだろうかと。


 だが何よりも、街に入る前に確認しなければならなかったことが浮かんできてしまった。


「……リンネ。お前の魔力は他人から感じるともの凄い量に感じられるんじゃないのか。というか魔族なのにどうして街に入れる。結界が張ってあるはずなんだが」

「感知できぬように『感知阻害(ジャミング)』をかけておる。余程の者でない限り、妾の魔力量も、魔族だということもわかるまい。結界も同様じゃ。適当に誤魔化しておる」


 安堵(あんど)する。リンネがちゃんと物事を考えて行動してくれていてよかったと。


「そんなくだらぬ事より、ショウよ。このフレンチトーストとは如何(いか)なる食べ物なのじゃ。今日はこれにしようと考えておるのじゃが」

「……まったく、お前の脳内はいつも食べ物の事ばかりで羨ましい」

「失礼なことを言うでない! 妾だって色々考えておるのじゃ」

「食べ物を調査しないといけないもんな」


 リンネが頬を膨らませる。学ばない奴め、と思いながらリンネの頬を指で押してやった。すると、「むぅぅぅぅ」と唸り始める。その姿を見ながら、表面上は笑みを浮かべ、(ニーナ)でないことを悲しむのだった。



 ◇◆◇



 朝食を済ませた後、ショウは冒険者達が利用する商店街――ランデルでもっとも有名な『ミレット』と呼ばれる商店街を訪れていた。ガラムダ荒原へ行くにあたり、必要なものを(そろ)える必要があったからだ。


「ショウよ。今から何をするのじゃ」

「荒野を移動することになるから、歩きやすい靴に変えようと思ってな。あと、お前が喜びそうなものを借りないとならない」

「ほう。して、それは何なのじゃ」

「楽しみは取っておくものだろう。今は黙って付いてこい」


 そう言ってから、楽し気にするリンネを連れてしばらく歩く。そして、大型の冒険用具店の中に入った。


「おお。何やらわからぬが、色々な物があるのう」


 リンネが興味津々と言うように辺りを見回す。それもそのはずだ。店内には様々な冒険用具が陳列されている。野営用のテントや寝袋。ロープやナイフといった小物。乾物などの携帯食料。おそらく、どれもこれもリンネが知らない物だろう。


「……あっちだな」


 天井から下げられているプレートを確認し、靴が陳列されている場所まで移動する。さらにお目当ての物を探した。


 すると、すぐに目的のものが見つかる。見た目は何の変哲もない靴だ。今履いている靴と大差ない。だが、れっきとした魔道具なのだ。


「これだ」

「ふむ。一見ただの靴と変わらぬようじゃが、何かあるのじゃろう」

「もちろん」


 靴を裏返し、土踏まず辺りに描いてある魔法陣を指さす。


「この靴はな、魔力を込めると『エアークッション』ができるように作られている」

「何じゃ、エアークッションとは」

「口で言うより履いてみた方が早い。ちょっと待ってろ」


 リンネの足のサイズに合っている物を探す。


 ちなみに、なぜリンネの足のサイズがわかるかというと、アイリスが採寸してくれたからだ。リンネを巻き尺の刑に処した際に、足の大きさまで測っていてくれたのである。


「こいつを履け。そして、魔力を込めて少し歩き回ってみろ」


 言った通り、リンネが靴を履く。さらに辺りを歩き回った。すると、驚いたような表情を向けてくる。


「この靴を生み出した者は天才なのじゃ! これなら足がまったく疲れぬではないか」

「だろう。と言っても、俺も初めてだがな。さて……」


 足のサイズに合わせた靴を手に取る。そして履いてみた。


 魔力を込めて少し歩き回ってみると、今まで履いていた靴とまったく異なることがわかる。靴の裏が地面に着く際に、風を踏みしめるような感触が伝わってくるのだ。


 そのため足が地面につかず、結果として疲れにくいのだと理解する。着地の際の衝撃が、体に伝わってこないからだ。


「リンネ、靴の大きさは問題ないか」

「そうじゃのう……少しばかり足先が大きい気がするのじゃが」

「なら調整してもらうか」


 店員を呼んで、リンネ共々サイズを調整してもらうのだった。




 その後――。




 靴といくらかの冒険用具を購入し、店を出てからしばらく歩く。その間、リンネは嬉しそうな表情ではしゃぎ回っていた。


 よほど靴が気に入ったのだろう。靴に魔力を込め、エアークッションをバネ代わりにして高く跳躍(ちょうやく)して遊んでいる。本音を言うなら落ち着いてほしかったが、小さな頃の(ニーナ)彷彿(ほうふつ)とさせられたため、声をかけるのがはばかられてしまった。


「――さて、着いたぞ」


 いつの間にか到着していた厩舎(きゅうしゃ)を前に、リンネに声をかける。リンネの目が点のようになった後、見つめ返されてしまった。


「これは店なのか? 何やら今までとは見てくれが異なっておるが」

「違って当たり前だ。生き物を扱う店だからな。まぁ、入ればわかる」


 中に入る。色とりどりの大型鳥類が並んでいた。


 鳥達の見た目は、大柄な割に愛くるしいものである。細い足に短い翼。聞こえてくる「キュ~」という鳴き声が拍車をかけていた。


「おおおおっ? なんじゃ、この鳥たちは」

「『ルピア』だ。見た目に反して体力と脚力があってな。荒野や砂漠を走る際に、よく乗り物として利用される」

「ほう。そうなると、先ほど借りると言っておったのは……」

「もちろんルピアのことだ」


 リンネが目を輝かせる。きっと、乗り回している姿を想像しているのだろう。


「先に言っておくが、お前に運転はさせんからな」

「なぜじゃ!」

「意外と扱いが難しいんだよ。借りものだから、万が一があると弁償しないといけなくなるからな」


 反論が返ってこない。それどころかリンネの表情が硬くなる。間違いなく『弁償』という言葉がトラウマになっているのだろう。やや動きがぎこちない。


「いらっしゃい」


 店主と思わしき男性が声をかけてくる。やや年の取った感じが、ベテランの飼育者である証拠に思えた。


「ルピアを一羽貸していただけませんか」

「毎度あり。好きなのを選んでいいよ」

「わかりました。リンネ、会計している内に、好きなヤツを一羽選んでおけ」


 リンネが足を弾ませ、並んでいるルピアを見に行く。その後ろ姿を確認してから、料金説明を受け、会計を進めるのだった。


 それからしばらくして――。


 会計を済ませ、リンネの様子を見に行く。リンネが自身の髪の色と同じ、全身が真紅のルピアの前で固まっていた。


「そいつがいいのか」

「うむ。妾の髪と同じ色なのじゃ。良いであろう」


 リンネが嬉しそうに笑うと、ルピアが人懐っこい感じで「キュ~」と鳴く。どうやら気に入られているようだ。


「そうだな」


 相槌(あいづち)を打った後、店主を呼ぶ。そして、リンネの選んだルピアを借りるのだった。

次回は12/19(土)です。

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