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34.得られた情報は

 酒場での仕事を終えたショウは、店長との賃金交渉を終えた後、リンネと共に宿へと戻った。そして昨日に引き続き、魔力のコントロールを練習している。日々の積み上げこそが上達に繋がると考えているからだ。


「はぁ……ダメだ。全然うまくいかない」


 手のひらに浮かぶ光球を見つめる。白く輝くそれは、思い通りに色が変わらず、ただ白く光り輝くだけ。まさにため息を()くしかないだろう。


 ――すぐにできるようになるとは思わないが、できないとへこむな……。


 弱音を吐露(とろ)しつつ、『(ライト)』を握りつぶす。すると、待っていたと言わんばかりにリンネが口を開いた。


「ショウよ、見るがよい! これが妾の稼いだ(かね)ぞ」

「はいはい。わかったわかった」


 適当にあしらいながら、先ほどから何度も喜ぶリンネを見て笑みをこぼす。自身が初めてお金を稼いだ時のことを思い浮かべ、懐かしさを感じるのだった。


「無駄遣いはするなよ」

「わかって――。……ショウよ。一つ相談があるのじゃが」

「なんだ、いきなり」

「この金を預かってくれんかのう」

「またどうして」

「妾は金をよく知らぬ。どういう仕組みなのかも知らぬし、成り立ちも知らぬ。このような状態で金を扱おうとしても、うまく扱える気がせぬのじゃ」


 リンネの考えを聞いて、知らないというのはこういうことなのだろう、と判断する。その上で、小難しいことを考えているな、と小さく苦笑いをこぼした。


「失敗してもいいから、一度使ってみる方がいいと思うぞ。その方が勉強になるし、早く理解できる」

「そうかもしれぬのじゃが、その……少々怖いのじゃ。金が引き金で戦争になることもあるのであろう」


 不安そうな瞳でリンネが覗き込んでくる。エルフの森で言った言葉を思い出し、「あ~」と声を出しながら頬をかいた。


「……わかった。お前がちゃんと金について理解できるまでは、俺が預かろう」

「うむ。任せるのじゃ」


 リンネが微笑んでくる。その表情が、信頼を表しているように感じられ、どこかこそばゆくなるのだった。


「そうじゃ。話が変わるのじゃが、情報収集の方は上手くいっておるのか? 得に何かしているようには見えなかったのじゃが」

「今はまだ動く意味がない。情報を持った人物が来店していないからな」

「ほう。どうしてそのようなことがわかるのじゃ」

胸元(ここらへん)にアクセサリが付いていただろ。魔道院の職員は、国から役職を示すバッジをつけて働くのがルールだ。だから、位の高い人物かどうかは一目でわかる」


 納得したようにリンネが頷く。


「位の高い人物が来たときは伝えるから、引き続き頼むぞ」

「わかったのじゃ。……じゃが、何だか気が引けるのう。サキュバスの瞳を使うというのは……」

「仕方がないだろう。職員を魅了して、情報を持った人物が引っ張り出せるまでは我慢してくれ」


 極力優しい言葉でなだめたが、リンネの顔は不満げだ。


「もっと良い方法はなかったのか」

「……考えたが、いい案が思いつかなかった。俺が死んだことになっている以上、魔道院――いや、国が運営する機関の中には入れない。身分証明なんかで生きていることを知られるわけにはいかないからな。そうなると、外で接触するしかない。しかも偶然を装ってだ」


 言葉を返すと、リンネが少しの間考え込むようなそぶりを見せる。


「忍び込むというのは……ダメじゃな。封印を管理しておるのだから、何があるかわからぬ。失敗すると大惨事じゃ。まだ危険を(おか)すには早かろう」

「その通りだ。……すまんな、負担をかける」

「よい。妾が望む情報を引き出すためじゃ」

「そうか。……さて、明日も働くんだ。そろそろ寝るぞ」


 一度、大きく体を伸ばす。


「うむ。おやすみなのじゃ」

「ああ。おやすみ」


 ベッドに転がり、明かりを落とすのだった。



 ◇◆◇



 翌日以降。ショウとリンネは、来店した魔道院の職員の中で、最も位が高い人物に絞り接触を続けていく。成果は順調そのもので、連日のように魔道院の職員が酒場に訪れ、徐々に位を上げていくことに成功した。


 その結果に、ショウは時間はかかるだろうが望む人物を引っ張り出せるだろう、と試算する。後は計画を進めていくだけと考え、どこか気を抜いていたのだった。


 しかし、働き始めてから十日後。魔道院から貸し切り予約の要望が入り、店長がそれを承諾した。そして蓋を開けてみると……。


「まさかこんなことになろうとは……」


 ショウはやや顔を引きつらせながら、酒場で騒ぐ面々を見つめる。あまりにも錚々(そうそう)たる顔ぶれが並んでいるからだ。


 ――あの人はランデル法務院長。そっちはランデル魔工学院長。……見るまでもないな、幹部勢ぞろい。というか、まさかランデル魔道院長まで出張ってくるとは……。


 想像以上の事態に、リンネの魅了がいかに強力なものかを思い知りつつ、頭の中を切り替えていく。間違いなく望む情報を握っている人物――ランデル魔道院長がこの場にいるからだ。


「リンネ、注文のあった赤ワインだ。どさくさに紛れてお(しゃく)してこい。特に、あの白金のバッジを付けたランデル魔道院長に対してな」

「わかったのじゃ」


 歩くたびに胸を揺らすリンネを見送り、厨房から出てきた料理を手に持つ。そして、普段通りの業務に戻った。


 注文を受け、配膳し、要望があれば答える。

 お酒を運び、食器を下げて綺麗に洗う。


 そうしつつも、リンネとランデル魔道院長の接触が多くなるようにフォローしていく。




 こうして、三時間ほど経過した頃――。


「いい感じに酔っているな」


 盛り上がりつつも、どこかぐったりとした魔道院の職員たちを見て、ショウは小さく呟く。さらに、ランデル魔道院長の動きを見逃すまいと、気を張り始めた。


 それから程なくして。


 ――この時を待っていた。


 ランデル魔道院長が席を立ち、トイレの方へ向かっていく。その動きを確認してから、リンネとアイコンタクトを取った。


 リンネがランデル魔道院長の(うし)ろに続いていく。後は手筈(てはず)通り、魔法で眠らせて、『記憶接続(メモリアコネクト)』を使って情報を引き抜いてくれるだろう。そう考え、さりげなくトイレの入り口に清掃中の立て札を置いてから仕事に戻った。


「こちら、お下げしますね」


 宴もたけなわといった雰囲気の中、食器を片付けつつ、トイレの方を気にする。リンネがうまく情報を引き抜けたが気になるからだ。


「すみません。トイレを使いたいのですが」

「申し訳ありません。少々汚いことになっておりまして……もうしばらくだけお待ちください」


 時々質問をしてくる魔道院の職員に謝りながら、そろそろ引き伸ばしできないと思った頃。


「お客様。大丈夫なのかじゃ」


 リンネが魔道院長を支えながら、トイレの方から出てくる。さらに、小さく頷いてみせた。


 ――成功したようだな。


 判断すると同時にトイレを解放する。トイレ待ちをしていた職員たちが一斉に動き出すのだった。




 その後、つつがなく仕事を終わらせる――。


「今日もお疲れ様。はい、本日の給料だ」


 控室にいるショウの前に、店長が小さな給料袋を持って現れた。適当に事情を話し、『預金(フォーリオ)』ではなく現金払いにしてもらったからだ。


「ありがとうございます。……店長、すみません。実家の方から連絡があって、地元に戻らないといけなくなりました」

「そうなのかい。いい働きっぷりだったんだが……」

「申し訳ありません」


 ショウはリンネと共に頭を下げる。その様子を見る店長が、「仕方ないね」と呟き、酒場を辞めることになった。


 そして、最後の着替えを終え、二人は酒場の外に出る。同時に、二人の顔つきが変わった。


「リンネ。情報は引き出せたか」

「……引き出せるには引き出せた。じゃが、とんでもないことになっておる」

「どういうことだ」

「盗み出された。封印が施された魔法石が盗み出されてしまっておるのじゃ」

「――ッ!」


 ショウは驚愕(きょうがく)で表情を歪ませることになるのだった。


次回は12/9(水)です。

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