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33.情報収集開始

 翌日のお昼頃。ショウは宿屋のベッドに座り、お手製の地図広げていた。


 地図の中心には『ランデル魔道院』と書かれていて、周辺には丸印と二重丸印のマークがいくつか書き込まれている。マークの位置に特に規則性はなく、四方八方に点在していた。


「ショウよ。酒場の位置なぞ調べて何の意味があったのじゃ?」


 リンネが不思議そうな顔をしながら地図を覗き込んでくる。小首をかしげる姿は、どことなく納得いかないと言っているようにとらえることができた。


「説明する前に、『沈黙する風の部屋(サイレントルーム)』を張ってくれ。誰かに聞かれると困るからな」

「……よくわからぬが――『沈黙する風の部屋(サイレントルーム)』」


 部屋の中に風が吹き、薄緑の膜につつまれる。隣の部屋や、廊下の外からの音がまったく聞こえなくなった。


「よし、説明を始めるぞ。まず俺たちがここに来た目的は何だ」

「この地におる魔族たちを集めることじゃろ。あと、デュランの情報を集めて、封印を解除することじゃ」

「その通り。そして前者――魔族を集めることに関しては目処が付いている。魔族が生息している地域を回ればいいだけだからな。だが、後者に関しては一切情報がない。つまり方針すら立っていない状態だ」

「ふむ。要は先に情報を集め、どう行動していくかを決めたいわけじゃな」


 頷いて返す。


「じゃあどう情報収集すれば目的に辿(たど)り着けるかという話だ。四魔将の封印に関する情報なんて簡単には出てこない。おそらく機密情報だろうからな」

「そうじゃろうな。では、どうやって情報を収集するのじゃ」

「心の(すき)を突く。人は常に気を張っていられない生き物だからな」


 リンネが「ほぉ」と呟く。さらに、興味深そうな表情で見つめてきた。


「魔道院を管理しているのは人だ。そして、管理している人の中には必ず封印に関して情報を握っている人物がいる。おそらくごく少数だろうがな」

「つまり、情報を握っている人物から情報を聞き出そうと言うのじゃな」

「そうだ。だが、俺たちが会おうと思っても会えないだろう。それに会ったところで封印に関する情報を口外するとは考えにくい」

「ならばどうするのじゃ」

「その答えが酒場だ。働き終わった後、魔道院の職員が息抜きに酒を飲んだところを狙う。このタイミングなら、うまいこと誤魔化して情報を引き抜けるからな」


 地図を指さす。


「丸印は酒場。二重丸印は酒場かつ、人手を募集しているところだ。つまり、二重丸印のどこかかで働きながら機会を待てばいい」

「なるほど。じゃが、そう都合よくはいかんじゃろう。情報を持った人物が訪れるとは限らんからのう」


 リンネが言い終えたところで、にやりと笑って見せる。


「都合よくいくようにするのがお前の役目だ。むしろお前にしかできないと言っていい」


 リンネの表情がキョトンとした表情で固まってしまうのだった。



 ◇◆◇



 魔道院にほど近いところにある酒場。仕事帰りと思われる人が集まるそこで、ショウはウェイターとして働いていた。


「お待たせしました。こちら、『羊肉の炙り焼き(ローストマトン)』になります」


 非常に慣れた手つきで配膳する。さらに、客席に付属している呼び鈴への反応も素早い。お客の注文スピードや、盛り上がり具合などを観察し、常に予測しながら働いているからだ。


 また、たどたどしく働くリンネへのフォローも忘れない。汁物や飲み物といった零れやすいものを率先して運び、負担の軽減を買って出ている。それもこれも、リンネに重要な役割を任せてあるからだ。


 カランカラン。


 入り口のドアが開き、ベルが鳴る。そして、紺色のローブを羽織った人達が中に入ってきた。


 ――あのバッジ。来たか。


 彼らが胸元に付けているバッジを見て、ショウはリンネにアイコンタクトを送る。なぜなら、彼らこそが魔道院の職員だからだ。


「いらっしゃいませなのじゃ」


 リンネが魔道院の職員たちの方へ駆け寄っていく。さらに、とびっきりの笑顔を向けて礼をした。その際、ショウには男性職員の視線がリンネの胸元に釘付けであるように見える。明らかに鼻の下を伸ばしていたからだ。


「何名様なのじゃ」

「十名です」

「ならばこちらへどうぞなのじゃ」


 リンネが角のテーブル席に案内していく。その姿を見ながら、ショウは第一段階成功と考え、仕事をこなしつつ、少し前の出来事に思いを馳せるのであった。




 二時間ほど前――。


 ショウはリンネを連れて、二重丸印のついた酒場の一つを訪れていた。街で評判を集めたところ、非常に評判がよかったため、働くことができないかと考えたからだ。


「すみません。求人が出ていたのですが、働かせていただけないでしょうか」

「本当かい! いやー助かるよ。ちょうど前任者が辞めたところだったんだ。すぐに中に入ってくれ。軽く面接させてもらうよ」


 間がよかったらしく、店長に案内されて控室に入る。掃除が行き届いていて、清潔感を感じることができた。


 ――店先も綺麗だったし、場所も申し分ない。ここなら間違いなく魔道院の職員が立ち寄るはずだ。


 評価を下しつつ、店長の質問に答えていく。氏名。働ける時間帯。過去に経験があるかどうか。といった簡単なものだ。


「ショウ君。リンネさん。今から働いてもらってもいいかな」

「構いません。むしろ願ったり叶ったりです。では、細かい賃金規定は仕事が終わってからにしましょう。もうすぐ営業時間になりますので」

「いやー本当にありがとう。制服はそこのロッカーにあるから、着替えたらさっそく頼むよ」


 店長がそう言って、控室から出ていく。急ではあるが、思い通りに事が進められたため、満足するのだった。


 その後、リンネの着替えを見ないように配慮して、部屋を出て着替える。そして、リンネが着替え終わったことを確認してから控室の中に戻った。


 リンネが頬を赤らめながら、自身の姿を何度も確認している。制服がやや小さいのか、胸のラインがハッキリと浮き出ていた。


「ショウよ。本当にこんな服で働くのか?」

「この店の正装な以上、そうする他ないだろう。それに、似合っているんだから気にする必要はない」

「じゃ、じゃが。なんだか恥ずかしいのじゃ。この服で人前に出るのは嫌なのじゃ」

「駄々をこねるな。ほれ、行くぞ」


 控室を出ようとするが、リンネが付いてこない。余程ウェイトレス服がお気に召さないようだ。


「はぁ……リンネ。時計の借りを返したくはないのか」

「どういうことじゃ」

「その姿でちゃんと働けば、いくらか金が手に入る。まだ細かい話をする前だが、時計の分くらいは十分に返せるはずだ」


 リンネの表情が赤みが抜け、一気に真剣なものに変化していく。


「すまぬ、ショウよ。わがままを言うてしもうた。せっかく機会をもらったというのに。……妾は何をすればよいのじゃ。初めて故、(つたな)いところもあろうが、精一杯務める。じゃから、何をすればよいか教えてほしい」

「よし。なら付いてこい。一番大事な作業を任せるから、絶対に失敗するなよ」

「うむ。必ずや期待に応えてみせるぞ」


 気合十分といったリンネが、小さくガッツポーズを作る。その意気込みを利用するようで悪い気もしたが、情報収集のためだ、と心の中で呟くのだった。




 ――さて、そろそろか。


 過去を思い出すのをやめ、ショウは時計を確認する。魔道院の職員が来店してから、そろそろ二時間が経過しようとしていた。


「ショウよ。アイスはまだできておらぬかの」

「まだ――いや、ちょうどできたみたいだ。ほれ、持っていけ」

「うむ」


 リンネが小さな容器に入れられたアイスを、魔道院の職員たちがいる卓に運んでいく。その時の男性職員たちの表情は、傍から見てもだらしないもので、もはやリンネに夢中なことがうかがえた。


「予定通りいったな」


 小さく呟き、額を拭う。魔道院の職員たちへの配膳は、必ずリンネが行うことになるよう調整していたからだ。


 ――後は最後の一押しさえうまくいけば、その内望む人物を引っ張り出せるはずだ。


 腹黒い計算をしつつ、魔道院の職員たちが勘定を切り出すのを待つ。そして、ほんの少し後、その時がやって来た。


「ご勘定を~お願いしま~す!」


 魔道院の職員たちが立ち上がる。いくらか酔っているようで、若干足元がおぼつかない。


「リンネ、行ってこい。教えた通りにな」

「わかっておる。任せるがよい」


 リンネが職員たちの下に行き、出入り口際のレジカウンターに案内する。


「これで~お願いしま~す」

「かしこまりましたなのじゃ」


 男性職員が差し出した預金(フォーリオ)カードを受け取り、リンネが支払い用の魔法陣にかざした。そして、男性職員を見上げるようにして覗き込む。


「お支払いをお願いするのじゃ」

「あ、ああ。――『預金(フォーリオ)』」

「お支払い、ありがとうございますなのじゃ。また来てくれると、妾は嬉しいのう。できれば、今度来るときはもっと偉い人と一緒がよいのじゃ。それで、たくさん盛り上がっていってほしいのじゃ」


 職員が生唾(なまつば)()みながら頷く。


「妾との約束じゃからな。絶対に破ってはダメなのじゃからな」


 念押しされた職員が、浮いた様子で再度頷いた。それに対し、リンネが笑顔を返す。その後、職員はふらついた足のまま店を後にするのだった。

次回は12/7(月)です。

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