第27話 僕は信じている(後編)
※フォールの弟アラン視点です。
「せっかくカーラがこちらに来たんだ。この際、賭けをしようじゃないか」
「賭け、ですか?」
ほら、やっぱり。
ろくでもないことを考えている。
兄上に慣れきった部下達が呆れ顔を浮かべる中、兄上は得意げに話を続ける。。
「義姉のものを根こそぎ奪った女が、王太子妃……『未来の国母』という地位を得て満足するとは思うか?」
「それは、思うんじゃないですか?」
『未来の国母』なんて地位、この国の令嬢なら誰もが夢見るもの。
それを手に入れたのなら、満足するはずだ。
「まぁ、普通はそう思うよな」
「普通は?」
その瞬間、背筋に冷たい何かが走った。
――嫌な予感がする。それも、途轍もなく。
天変地異をひっくり返すようなことが起きる予感が。
兄上の悪い笑みが深くなる。
「アリシア嬢は……あの女は『カーラ・バリストン』という人間が自分にはないものを『持っている』という理由だけで奪っているから、奪ったもの自体に興味関心もない」
「なんと幼稚な……」
「そして今、周囲から『可愛い聖女』とチヤホヤされているお陰か『我慢』というものをしなくなった」
「そのせいで、彼女に泣かされた令嬢が後を絶たないようですが」
人心掌握に長けている我が国の聖女様は、気に入らないことがあれば、周囲を扇動してその場にいた人を貶めるらしい。
これで、『聖女』と名乗っているのだから頭の痛い話だ。
「そんな女が『王太子妃』という立場の現実を見て、耐えきれると思うか?」
「それは、お得意の人心掌握を使えば……」
「そんな甘い立場だと思うか?」
「っ!」
部屋の温度が一気に下がった。
兄上は……いや、辺境伯家の携わる全ての者は知っているはずだ。
この十年、元第一王子の婚約者だった義姉上がどんな日々を送っていたかを。
……『無能王子』と言っても過言ではない婚約者のために、彼女がどれだけ心身削っていたかを。
自分の机にカップを置いた僕は、深々と頭を下げる。
「失言でした。申し訳ありません、兄上」
「構わない。ただ、それをカーラの前で言うなよ」
「分かっております」
部屋で見た義姉上を思い出し、拳を握った僕は顔を上げると、兄上が言わんとしていることを口にする。
「つまり、兄上は『王太子妃』という立場の現実を知ったあの女が、我慢出来ず二度目の婚約者交換を仕掛けてくると?」
「そういうことだ」
『そんな馬鹿なことがありえるのか?』とまともな考えを持つ貴族なら誰でもそう思うだろう。
『婚約者交換』自体、前代未聞のことだというのに。
だが、『奪うこと』に快感を覚え、『我慢』も貴族としての常識も知らない、人心掌握に長けたあの女ならやりかねないと思う。
「応じるのですか?」
「馬鹿を言え。誰が応じるか」
「となると、こちらが拒否した場合、あの女に甘い公爵家と王家が動いて……あっ」
その時、僕は兄上の言う『賭け』の意味をようやく理解してニヤリと笑う。
「確かに、賭けですね」
あの女がここに来れば、僕たちは大義名分を得る。
だが、来なければ、僕たちは反逆者として国に対して牙を剥くことになる。
賭けと言えば賭けだ。
「あとは、どのタイミングで来るかですね」
「そうだな。俺の予想では、あの女は俺とカーラの結婚式の一週間前に来る」
「それでは、まるであの時の再現ではありませんか」
『婚約者交換』という誰もが耳を疑うようなことが起こったあの時と同じ。
「だが、あの女なら同じことをするに違いない」
「あれで『聖女』とは笑えますね」
「……まぁ、実力だけは本物なのだが」
「そう、ですね……」
一瞬で数多の魔物を屠り、魔物に汚染された土地を浄化する『聖女』の力は、この国の者なら誰も知っている。
その強大な力は今、王都にしか使われていない。
理由は単純。
聖女自身が、王都を出ることを望んでいないから。
本当、よく『聖女』なんて名乗れている。
「では、父上とお祖父さまと叔父上にそのように進言しますか?」
「そうだな。まぁ、あの叔父上なら乗ってくれると思うが」
「でしょうね」
あの叔父上なら、きっと……
楽しそうに笑う兄上に、僕は小さく笑みを零す。
この兄上なら、きっとこの国を変えてくれる。
――あの義姉上となら、必ず。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、前後編に及んだアラン視点のお話、いかがでしたでしょうか?
腹黒で毒舌な彼と、そんな弟を持つ兄の会話。
不穏すぎますよね(笑)
さて、これからどうなるかはお楽しみに!
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