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【長編】この度、ワガママ義妹と婚約者を交換することになりました  作者: 温故知新
第二章 愛しい君を溺愛させて!

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第25話 アラン・リスタット

 コンコンコン――。



「はい」

「失礼致します」

「ん?」



 この声、どう考えてもセバスではないわよね。


 セバスが帰ってきたと思い返事をすると、ブロンドの髪とサファイアのように美しい瞳を持つ、整った顔立ちの貴公子が、トレイを持ってメイド長のレイラと一緒に入ってきた。



「おはようございます、兄上。レイラと共に遅めの朝食をお持ちしました」

「アラン様!」



 兄上?


 ということは、この方が……


 慌てて貴公子に駆け寄ったアンナとは対照的に、フォール様が優しく微笑みかける。



「おはよう、アラン。わざわざすまないな」

「いえいえ、それよりも――」



 冷や汗を掻くアンナにトレイを渡した貴公子は、フォール様の隣に立つとベッドから出られない私に向かって、洗練された所作で深々と頭を下げる。



「ご無沙汰して……いや、この場合は初めましての方がよろしいですね。兄上の婚約者として会うのは初めてですから」

「は、はぁ」



 なぜかしら、この方もどこかで見覚えが……



「では、改めまして。初めまして、カーラ・バリストン嬢。僕の名前はアラン・リスタットと申します。ご挨拶が遅れてしまい、大変申し訳ございません」



 あぁ、この美しい方が、王都で『リスタット辺境伯家の次男は、この国でも有数の貴公子』と噂されていると有名な方ね。


 彼の話は、色々あって社交が全く出来ていない私の耳にも入ってきていた。


 確か私より三つ年上で、現在は辺境伯家の文官として働きつつ、領地経営や視察などで多忙な兄に代わり、ご両親と共に社交をされているのよね。


 ……全て、私を虐げる義妹や使用人たちから聞いた話だけど。


 顔を上げて人の好い笑みを浮かべるアラン様に、なぜか少し不機嫌そうなフォール様。


 急にどうしたのかしら?


 そんな彼を不思議に思いつつ、アラン様に視線を戻した私は淑女らしく優雅に頭を下げる。



「お初にお目にかかります。アラン・リスタット辺境伯子息様。バリストン公爵家長女、カーラ・バリストンでございます。このような形でのご挨拶となってしまい、大変申し訳ございません」

「構いません。カーラ様のことは、兄上から伺っておりますので」

「そうでしたか」



 フォール様、何から何まで本当にありがとうございます。


 前の婚約者なら、こういった根回しは全て私がしていた。



「ですが改めて……この度、義妹アリシアに代わってフォール様の婚約者となりました。どうぞよろしくお願い致します」

「こちらこそ、よろしくお願い致します」



 すると、アラン様がじっと私の顔を見つめる。



「どうかされましたか?」



 なにか変な顔でもしていたかしら?


 そう思って小首を傾げようとした時、アラン様がフッと笑みを零す。



「いえ。兄上からの話は聞いておりましたが……噂とは随分違う方なのだなと」

「っ!」



 アラン様の素直な感想が、私の心臓を冷たく掴んだ。


 やっぱり、ご存じだったのね。


 当然よね。


 『聖女を虐める悪女』という噂が、辺境にまで届いていないはずがない。



「アラン!」

「失礼致しました、兄上。カーラ様、不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございませんでした」

「い、いえ……」



 あれ?


 今の、私に対しての蔑みではなかったの?


 静かに眉を吊り上げるフォール様と戸惑う私に対し、深々と謝罪したアラン様は、顔を上げるとまじまじと私を見つめる。



「あ、あの……」

「なるほど。確かに、誰にでも媚びを売る性悪女よりも、カーラ様の方が兄上の隣に相応しいですね。見目麗しいご令嬢を前にしても全く浮かれない兄上が、婚約者がカーラ様に決まった途端、柄にもなく浮かれた理由がよく分かりました」

「えっ?」

「アラン、顔が近いから離れろ」

「あっ、これは失礼致しました」

「は、はぁ」  



『性悪女』って、もしかしなくてもアリシアのこと?


 それに、『柄にもなく浮かれていた』って……


 アラン様の話を聞いて、今だけフォール様の顔が見られなくなり、顔も急に熱くなった。


 そんな私をよそに、小さく咳払いをしたフォール様が不機嫌そうにアラン様に話しかける。



「アラン。カーラの分の朝食を持って来てくれたことには感謝するが、用が済んだならさっさと仕事へ戻れ」

「それを言うなら兄上も戻るべきです」

「は? 俺は婚約者としてカーラの傍に……」

「王都にいる両親と、隠居中の祖父母から『婚約者は来たのか?』という連絡に対し、まだ返事されていませんよね?」

「うっ!」



 アラン様に詰め寄られ、言葉を詰まらせたフォール様。


 どうやら、目が覚めた私のためにわざわざ仕事を投げ出して来てくださったらしい。


 フォール様のお仕事の邪魔をしてしまい、物凄く申し訳なく思った私は、顔を引き攣らせているフォール様の背中を押す。



「フォール様。私のことは大丈夫ですから、お仕事に戻られてください」

「カーラ、そういうことではないのだが……はぁ、分かった。仕事に戻ろう」

「はい。お仕事、頑張ってください!」



 次期辺境伯当主として、この豊かな土地に住む人々のために。



「うっ! カーラのその可愛らしい笑顔で『頑張って』と言われて心底嬉しい反面、本気で頑張れると思ってしまう自分がとても悔しい」

「はいはい、兄上、愛しい婚約者様から『頑張って』って応援されたのですから行きますよ」

「い、愛しい!?」



 い、愛しいだなんて……そんなこと言われたの、初めてだわ!


 義妹が日常茶飯事のように言われていた『愛しい』という言葉を言われ、思わず狼狽えてしまった時、背後に控えるアンナとレイラに指示を出していたアラン様が私の方を見た。



「カーラ様」

「は、はい」

「僕は、あなた様が兄上の婚約者として来てくださったこと、心の底から嬉しく思っております」

「アラン様……」

「さぁ、行きますよ。兄上」

「わ、分かっている! だから俺からカーラを引き離そうとするな!」



 アラン様って、誰もが見惚れる貴公子に見えて、実はかなり腹黒なのかしら?


 すると、深くため息をついたフォール様が椅子から立ち上がった。



「カーラ、落ち着いたら話を聞かせてくれないか?」

「話、ですか?」

「あぁ。君がどうやってこの屋敷まで来たのかを」

「っ!」



 脳裏に蘇る、ここに来るまでの旅路。


 一体、どこまで話せばいいのかしら。


 その時、頭上に大きく温かな手が乗った。



「ひとまず、今は心身共に休めて欲しい。いいな?」

「わ、分かりました……!」



 うぅっ、至近距離であんな風に優しく微笑まれてしまったら、拒否なんて出来るはずがないわ!



「兄上」

「分かっている。それじゃあ、行ってくる」

「は、はい。行ってらっしゃいませ」

「うっ、カーラから『行ってらっしゃいませ』って言われる日が来るなんて……!」

「兄上!」

「分かっている!!」



 ――私、婚約者様からこんな風に甘やかしてもらうなんて初めてだから、どうしたら良いか分からないわ!


 アラン様と共にフォール様が部屋を出て行った後、胃に優しい温かな朝食を食べ、薬を飲んだ私は、久しぶりにぐっすりと眠りについた。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


というわけで、新キャラのアラン登場です!


実は、短編に出そうと思っていましたが、色々あって登場出来なかったキャラの一人です!


貴公子然としているけど、実は腹黒?


そんな彼が良い感じでかき回してくれたお陰で、カーラとフォールの距離感が少しだけ縮まった気がしますよね!


そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!

(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)


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