第109話 兄上、後は頼みましたよ
※アラン視点です。
「アラン様!」
「セバス、どうした!?」
兄上が、義姉上や父上、お祖父さま、大叔父さまと共に王城へ乗り込んでいた頃。
リスタット辺境伯領では、王都から派遣された王国騎士団を相手に、領内の騎士と協力貴族から編成された特別防衛部隊が防衛戦を繰り広げていた。
武に秀でた貴族家の私兵と我が家の騎士たちを前に、王国騎士団は我が領へ一歩たりとも踏み入れられていない。
それでも万が一に備え、領民には避難用シェルターへの退避を指示している。
そんな戦況の指揮を執る僕のもとへ、汗を滲ませたセバスが駆け込んでくる。
「まさか、防衛線が突破されたのか!?」
作戦指揮を執っている大広間の奥に陣取っていた僕が思わず立ち上がると、周囲にいた騎士たちも緊張した面持ちでセバスを見つめる。
父上と兄上が以前、おっしゃっていた。
王国騎士団は、我々辺境伯領の騎士たちに比べて実戦経験も練度も足りない。
協力してくれている貴族たちの私兵だけでも、十分に防げるだろう、と。
それは僕自身も理解している。
それでも、万が一ということはある。
――やっぱり、父上にも辺境領に残ってもらった方がよかったのでは……。
そんな弱気が一瞬、頭を過ったが、すぐさま振り払う。
『私たちが帰る場所を頼んだぞ』
あの日、現当主の父上からこの場所を託された。
そして、兄上は今、次期国王として、父上や義姉上、お祖父さま、大叔父上と共に王都で戦っている。
ならば、僕は次期当主として、何としてもこの地を守らなければならない。
父上と兄上が、これまで守り続けてきたこの辺境の地を。
そのために、かつての大戦で、お祖父さまの右腕として戦場を駆け抜けたセバスが僕の傍にいる。
――『国防』を担ってきた家の者が、戦場で弱気になってはいけない。
作戦指揮を執っている大広間に緊張が走る中、セバスは険しい表情のまま、小さく首を横に振った。
「いえ。防衛線は突破されておりません」
「では、何があった!?」
まさか、王都の制圧部隊が返り討ちに遭ったとか……!?
最悪の可能性が頭を過った時、僅かに目を輝かせたセバスが口を開いた。
「先程、王都にいる伝令から『現王家並びにバリストン公爵家を全員捕縛した』との報告が入りました!」
「っ!」
その言葉を聞いた瞬間、息が止まった。
「それって……まさか!」
「はい」
セバスが、満面の笑みを浮かべる。
「我々の勝利でございます、アラン坊ちゃま!」
「「「うおおおおおおおおっ!!」」」
その瞬間、大広間にいた騎士と文官たちから一斉に歓声が上がった。
誰もが拳を突き上げ、互いの肩を叩き合う。
その光景を眺めながら、僕もようやく実感した。
――終わった。
長きに渡って、お祖父さまや大叔父さま、父上が練ってきた計画。
そして、兄上と義姉上が命懸けで挑んだ賭け。
その全てが、ようやく『成功』という形で実を結んだ。
けれど――。
「アラン坊ちゃま」
「分かっている」
歓喜に沸く騎士たちを見渡しながら、僕は気を引き締める。
まだ、終わってはいない。
王国騎士団がここにいる以上、最後まで気を抜くわけにはいかない。
――次期当主として、ここで敵の戦意を挫き、早々にお帰りいただこう。
そう思ったけれど――僕が想定していた以上に、敵の心は脆かった。
『アラン様、報告です!』
「どうした?」
通信魔法が付与された魔道具から聞こえてきた伝令の声に、それまで祝勝ムードに包まれていた大広間が一気に静まり返る。
『交戦中だった王国騎士団が、突然、撤退を開始しました!』
どうやら、敵側は王都のことが耳に入ったらしい。
となると、王国騎士団はこれ以上、戦うつもりがないということか。
ならば……。
動揺した伝令の声を聞き、セバスと顔を見合わせた僕は、すぐさま魔道具の前へ歩み寄った。
「分かった。では、全部隊に深追いはするなと伝えろ」
『よろしいのですか? 再び攻めてくる可能性もあるかもしれません』
確かに、その可能性はゼロではない。
けれど――。
「大丈夫だ。なにせ、彼らにはもう戦う理由がない」
『それは……まさか!』
「あぁ。先程、王都から現王族とバリストン公爵家が全員捕縛されたと報告が入った。だから、彼らが掲げていた大義名分など存在しない」
――王国騎士団が、命懸けで辺境伯領を攻める理由など、もうどこにもないのだ。
辺境伯家が日夜戦っている魔物とは違い、彼らには戦うべき相手を選ぶだけの理性がある。
何より、彼らは王国に仕える騎士だ。
王族と公爵家が捕らえられた今、意味のない戦いを続ける理由など、もうない。
『分かりました! 今すぐ、全部隊に伝令いたします!』
「頼んだ」
通信を切った僕は、大きく息を吐いた。
そして、振り返って、文官と騎士たちに向かって声を張り上げた。
「皆、ここまで本当によく頑張った! 我々の勝利だ!」
「「「うおおおおおおっ!!」」」
再び、大広間が歓声に包まれる。
その声を聞きながら、僕はふっと笑った。
――今頃、制圧部隊の拠点にしている屋敷で待機している母上も、アンナと一緒に喜んでいるだろう。
特にアンナは、義姉上の遠征に従者として最後まで同行していた。
それどころか、『私も一緒に戦います!』と志願したらしい。
……本当に、義姉上が大好きなのだな。
「アラン坊ちゃま」
「あぁ、分かっている」
まだ、事後処理が残っている。
セバスの声に頷いた僕は、次期当主として歓喜に沸く騎士たちへ命じた。
「皆、これから事後処理だ! 現地で戦ってくれた者たちが戻ってくる前に、出来る限り片付けるぞ!」
「「「「「はっ!」」」」」
威勢の良い返事が響く。
それを聞き届けた僕は、もう一度大きく息を吐くと窓の外へ視線を向けた。
我らの勝利を祝福するように、澄み渡った空がどこまでも広がっている。
ふと、懐かしい記憶を思い出した。
『俺は、カーラじゃないと嫌だ!』
普段は聞き分けの良い兄上が、珍しく父上と激しく言い争ったあの日からずっと、義姉上を自分の妻にするために奔走していた。
本来なら、王族の婚約者になった時点で諦めてもおかしくなかった。
けれど――兄上は、決して諦めなかった。
それだけ、義姉上は兄上にとって、どうしても諦められない人だったのだろう。
だから、義姉上が兄上の婚約者に決まった報告に来た兄上の笑顔は、今でも忘れられない。
あの時の兄上は、本当に嬉しそうだった。
まるで――ようやく、自分が望んだ未来を掴んだかのように。
その兄上が今、義姉上と共に王都で戦い……勝利した。
「セバス」
「はい」
「王都側の伝令に、こちらの状況を報告してくれ」
「かしこまりました、坊ちゃま」
「セバス、僕は坊ちゃまじゃないよ」
――もう、次期当主なのだから。
クスリと笑った僕は、再び窓の外を見上げる。
「兄上。これからは、義姉上と共に、この国の未来を頼みます」
――兄上なら、きっとこの国を変えてくれる。
義姉上が辺境伯家に来て間もない頃、兄上の話を聞いて、そう思った。
けれど、今なら確信を持って言える。
――兄上は義姉上と共に、この国の未来を変える。
だから……
「僕は、兄上の臣下として――そして、リスタット辺境伯家の次期当主として、この国を支えますので」
――どうか、義姉上と共に、この国の未来を良き方向に導いてください。
そして……末永く幸せであってください。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、今回からエピローグ話となります。
カーラたちが王城で大暴れしていた裏で、リスタット辺境伯家の次期当主として、リスタット辺境伯領を守っていたアラン。
そんな彼は、吉報を聞いて一安心していましたね!
(個人的に、アンナの話が出来て良かったです。なにせ、第三章では全くと言っていいほど出していなかったのでw)
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




