第1話 お義姉さま、婚約者を交換してください!
短編からの長編です!
「お義姉さま! 私と婚約者を交換してください!」
「……はっ?」
3年間の学園生活を無事に終えて数日後の、ある穏やかな昼下がり。
住み慣れた別邸で自分の淹れた紅茶を楽しんでいた私――カーラ・バリストンは、ノックもなしに部屋へ入ってきた義妹の言葉に、一瞬では理解出来ず、思わず淑女らしからぬ間の抜けた声を漏らした。
「……コホン。ごめんなさい、アリシア。もう一度言ってもらえるかしら?」
婚約者との結婚式を一週間後に控えたこのタイミングで、『婚約者を交換してほしい』だなんて無茶苦茶なお願いが聞こえた気がするのだけれど……
軽く咳払いをして気を取り直した私に、我が物顔で部屋へ入ってきたアリシアは、私が座るソファーの向かいへ腰を下ろすと、瞳を輝かせながら声を弾ませた。
「ですから、『婚約者を交換してください』と申し上げたのです!」
「幻聴ではないのね」
「はい! だって、私の方がフィリップ様のこと好きですし! 魔力ゼロのお義姉さまより、聖女である私の方がフィリップ様の妻に相応しいに決まっています!」
「『魔力ゼロ』より『聖女』の方が相応しい、ね……」
王命で定められた婚約を、『魔力ゼロ』より『聖女』の方が相応しいという至極単純な理由で変えられるわけがないじゃない。
本当、それを平然と言える神経は、どこから来ているのかしら。
貴族としてあるまじき、義妹のワガママに、『また始まった』とばかりに深くため息をついた時、静かだった廊下が急にざわつく。
「ん? 何かあったのかしら?」
近づいてくる足音と使用人が誰かを引き止める声に眉を顰めた時、僅かに開いていた扉が、大きく開け放たれる。
「アリシア!」
「っ!?」
――その声に、思わず耳を疑った。
視線の先には、金髪碧眼の美しい青年……私の婚約者が立っていた。
どうして、第一王子がここに?
「フィリップさまぁ~!」
満面の笑みでソファーから立ち上がったアリシアが、部屋に入ってきたフィリップ様に何の躊躇いもなく抱きつく。
――殿下の婚約者である私の目の前で。
「アリシア! 婚約者のいる殿方に、なんてはしたない真似を……!」
「黙れ」
「っ!」
久しぶりに向けられた凍てつく視線に息を飲む。
――この視線は慣れたと思ったのに。
そんな私から視線を逸らしたフィリップ様は、嬉しそうに抱きついてきたアリシアを名残惜しそうに離すと、今まで一度も婚約者に向けたことがない満面の笑みでとんでもないことを口にした。
「アリシア、聞いてくれ! 父上が、僕たちの婚約を認めてくださったんだ!」
「えっ?」
――何を言っているの?
私とフィリップ様は、十年前に王命で婚約したはずなのに。
そう思ったのに。
フィリップ様と共に現れた騎士も使用人も、誰一人としてその言葉を否定しなかった。
――本当に、叶ってしまったのね。
その瞬間、私は悟った。
十年間。
未来の王妃になるために積み上げた全てが。
たった一人のワガママによって音を立てて崩れ落ちたのだと。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
今日から『ワガママ義妹』の長編が始まります!
長編では、短編で描けなかったカーラと婚約者のイチャイチャや、カーラとアリシアの『交換』の真相が描かれます!
どうぞお楽しみに!
※大幅改稿をしました。よろしくお願いします。
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