記録96 必然について
なにやら、フォーゲルザウゲ伯爵家領邦のみならず、他の貴族派諸侯たちがも兵を動員しはじめているとのことだ。その規模は前例のないものであり、もはや隠すこともできない。
当然、この知らせを受けて、共和派も即座に対応を見せた。共和政府は軍を動かし、境界線上へと向かわせている。また、軍だけでなく特務魔術師の実戦投入も画策しているという噂もささやかれており、これについては内外からの激しい反応を引き起こした。共和政府が掲げる魔術の戦争利用については、道徳的に許されることでないと考える者はいまだに多くいる。
これまで、政治的な軋轢はありながらも、なんとか表向きには均衡をを保っていた共和派と貴族派であるが、いよいよそれが破局する時が近づいてきているわけだ。一度戦端が開かれてしまえば、西と東に塗り分けられたいまの勢力図がきれいにそのまま残るとは到底思えない。このオルゴニア帝国は、共和派と貴族派、それに種々の独立勢力が入り乱れる混乱の中に叩き込まれることになるだろう。
これは、前もって予見されていたことである。オルゴニア皇帝があの無残な最期を迎えたあの時から、物事がこのまま収まるわけがないと予見されていた。このオルゴニア帝国における王権の消失。共和派はその王権の消失が永遠となることを願い、一方で貴族派は新たな王権を作り出すことを願った。根本的に、両者は相いれない。衝突は必然である。
わたしがこの自由都市執政という立場に担ぎ上げられたのも、この共和派と貴族派による内戦に備えてのことだったのだ。
果たして、わたしはこれまでに、やるべきことをやってこれただろうか? ……わたしには、それは分からない。いまこの時代に生きる誰にだって、わからないことだろう。結果が全てである以上、いまの時点ではわかりえない。──しかし、全てが終わった後ならば、誰にとっても明白な形で、それがわかることだろう。




