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記録130 人間の迷惑について


 元より狼女は、フォーゲルザウゲ伯爵家の居城に宿泊もしていなければ、襲爵式にも出席していなかった。(それはひとえに、彼女が魔女であるからだ)

 彼女の任務は、あくまでも旅路における護衛役であり、領都においては彼女は城下の旅籠に宿をとり、待機していたのだ。

 そんな狼女が、城下町で、何やら男たちともめ事を起こしていた──その相手方を見たとき、わたしは胆が冷える思いがした。よりによってその連中の装いには紋章が付されていた! その紋章は、襲爵式の来賓の一人である貴族派の伯爵家のものであり、つまるところ、よりによって狼女は、この中立地帯であるフォーゲルザウゲ伯爵家領都において、貴族派伯爵の家来たちと事を構えようとしていたのだ。

 男たちは剣の柄に手をかけた。群衆の悲鳴が上がる。

 狼女は鼻で笑ってみせた。


 わたしとアデーラは間一髪のところで両者の間に割って入った。相手方の連中は不服そうであったが、しぶしぶと引き下がっていった。

 すっかり騒ぎになり、しかもわたし自身も人目を集めてしまったことから、わたしたちは、狼女が宿をとる旅籠へと退避を余儀なくされた。

「余計なことをしてくれたな、執政殿」と狼女はあざ笑うようにいった。臨戦態勢の興奮が冷めやらないのか、目がぎらつき、普段よりも饒舌だった。「あのまま向こうに先に手を出させていたら、こっちは正当防衛の大義名分ができたんだ」

「馬鹿なことを言うよな。あんな大人数相手に」

「物の数じゃない。しょせんは非魔術師(カタギ)だ」

 わたしは驚いて、改めて彼女の顔を見た。強がっているのでもなく、冗談を言っている風でもなかった。実際に、あの連中全員を相手にして一方的に勝てるのだと、狼女は認識しているらしかった。

「執政殿だって知っているだろう。『非魔術師(カタギ)にできることは魔術師にもできるが、魔術師にできることは非魔術師(カタギ)にはできない』というやつだ」

「そんなことを言うもんじゃない! ……そもそも、仮にきみがあいつらに勝てたとしても、大問題になるぞ。一体どれだけの人間に迷惑がかかると思っているんだ」

「人間の迷惑なんて知ったことじゃない。ふざけたことを言う賢しらな連中には、その身体に分からせてやる必要がある。大怪我をさせてやらなきゃ、愚かな連中はいつまでもふざけたままなんだ」

 狼女は、まったく悪びれていなかった。



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