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記録103 戦死者について


 今日、戦死者たちの埋葬が行われた。わたしも自由都市執政として、その埋葬に立ち会った。

 その時になって、わたしは急に恐ろしくなってきた。厳かで重々しい恐怖というよりも、赤子のような狂乱が胸にこみ上げてきて、発作的に叫び出しそうになっていた。

 戦争の最中にあっては、死への恐怖は鈍麻していた。執政という立場であるため、自由カオラクサに防衛に関する日々の損害は常に報告されていた。そこにおいては、人の死というのは書類の上の数字に過ぎなかった──いや、この日記を書いていて思いだしたが、初めて戦死者が出たあの日、その数字を見たわたしは息苦しくなるのを感じていた。その日の朝までは生きていた人間がその日の夜には死んでいるということを考えると、恐ろしかったのだ。けれど、戦争が続く中において、いつしかその感情を忘れていた。兵士の戦死というのを、消費財の損耗と同じように考え、帳面上の数字として考えるようになっていた。

 戦争が終わった今になって、わたしは死への恐怖を思いだした。墓地まで運ばれ、並んだ棺を見て、その中に収められた兵士の死体を連想した。

 死んだらすべてが終わりだ。古き教えにあるような死後の救いなんてものは、存在しない。

 怒りも湧いてきた。どうして戦争なんてものを始めたんだ! ──戦争が始まるまでは、わたしは冷静に、貴族派諸侯の行動原理を理解していたと思う。要は権力闘争の話であり、戦争の費用が、予想される利得を上回ったために、行動を起こしたのだろう。いまわたしは、奴らを軽蔑する。兵士の命を費用だとみなすその思い上がりが貴族という立場から来るものであるのならば、貴族派諸侯を悪とみなすことにためらいはない。

 そしてわたしは、自分自身のこの自由都市執政という立場についても、途方がないものに思えた。もしかしたら、自由都市執政がなにか他の方策を考え付いていたのなら、兵士たちは死なずに済んだのかもしれない。道義的な意味においては……

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