記録102 友好条約の改正について
フォーゲルザウゲ伯爵家領邦の実権は、ハータ嬢が握るところとなった。悪しき簒奪者バルバナーシュ・フォーゲルザウゲが領外に逃亡した今、ハータ嬢が遠からず女伯として伯爵位を襲爵するのは明らかである。
さて。
先の戦争において、フォーゲルザウゲ伯爵家と自由カオラクサの友好条約は破棄されている。そのままにしておくのもおさまりが悪いため、これを再締結しようという話が進んでいるのだが……どうも、面倒な話になってきている。
わたしの立場としては、以前の友好条約をそのまま踏襲すればいいだけに思えるのだが、自由カオラクサ参事会の老人たちの一部は、条約の改正を強く主張している。つまり、ハータ嬢は自由カオラクサによる保護があったおかげで復権できたのであり、その対価を条約改正の形で払うべきだというのだと、そういう主張である。
確かに、条約を自由カオラクサにとって有利な形に改正することは可能であろう。しかし、ここで目先の利益を取りに行くことが、果たして本当に自由カオラクサのためになるのだろうか? 結局のところ、バルバナーシュがそうしたように、条約というものは破棄できるものだ。不平等な条約を押し付けたとしても、向こう側がそれを守らなければ、意味がないのではないか。
どうも、参事会の老人たちは、此度の戦争の終結を戦勝として捉えており、のぼせ上っているように見える。自分たちは勝利者になったのだから、分捕り品を獲得する権利があると、そう思っているかのようだ。
確かにこの自由カオラクサは勝利したともいえるが、その相手はあくまで簒奪者バルバナーシュに対してであり、ハータ嬢によって治められるフォーゲルザウゲ伯爵家領邦に対して何かを要求するのは、筋が通らないようにみえるが……
浮かれ切っている参事会の老人たちは、好き勝手なことを言い出している。賠償金の請求とか、領地の割譲だとか、そういう話だけならまだしも、中には到底実現不可能な案まで飛び出す始末だ。
自由カオラクサ執政がハータ嬢を娶り、フォーゲルザウゲ伯爵家領邦を共同統治する──と老人のひとりが言い出したときには、わたしは呆れて閉口するしかなかった。戦争の結果美女を手中に収めるだなんて、古代の英雄伝説じゃあるまいに!




