記録101 此度のこの地での戦争について
ずいぶんひさしぶりに、日記を書く。これまでの日々の忙しさに忙殺されて、満足に睡眠をとる暇もない状態では、落ち着いてその日を振り返ることもできなかった。見返してみれば、最後に日記を書いていたのが開戦直後であるから、さもありなんという感じである。
いま、バルバナーシュ・フォーゲルザウゲ率いるフォーゲルザウゲ伯爵家領邦軍との戦争が終結した。先のことは分からないが、一旦の平和が訪れたことになる。
長い戦いだった。──もっとも後世の歴史の上では、客観的にはさほど長期にわたる戦争とはみなされないだろう。それでも、その渦中にいた一人の人間としては、此度の戦争は果てしのないものに思えた。
領邦軍による包囲攻撃は凄惨であった。あの攻撃を耐えしのぐことたできたのは、自由カオラクサ市民たちの献身的協力によるものに他ならない。中でも組合員からなる組合軍の活躍は目覚ましく、彼らはまさしくこの戦争における英雄であった。
……まあ、これだけでなく、ほかにも重要な点はいくつもあるが、あえて省略し、ここでは簡潔な記述にしておこう。
戦争の最中、フォーゲルザウゲ伯爵家領邦では民衆反乱が発生し、ハータ・フォーゲルザウゲ嬢はその機を逃さなかった。彼女は僅かな護衛のみを引き連れて包囲を突破し、伯爵家領邦の領都へと入り、兄であるバルバナーシュと対決した──彼女は勝利した。
その劇的な勝利の勢いそのままに、ハータ嬢は共和派と貴族派を相手取り、両派の対立におけるフォーゲルザウゲ伯爵家領邦の中立を認めさせた。卓越した外交手腕というほかがない。
さて。
わたしが自由カオラクサの執政に選出されてから、常に一つの最重要課題が存在していた。自由カオラクサが貴族派領邦に包囲されていたという点である。それがいま、解決されたわけだ。
いわば貴族派の海に浮かぶ絶海の孤島だったのが、ハータ嬢の復権により、いまや自由カオラクサは中立地帯の抱擁の中にいる──危機は遠のいた!
無論、これですべてが終わったわけではない。相変わらず共和派と貴族派はせめぎあっている。この根本原因が残存している以上、またいつこの自由カオラクサやフォーゲルザウゲ伯爵家領邦がその争いの矢面に立たされるとも分からないのだ。それに、自由カオラクサ内部でもまた新たな問題が持ち上がり……
いや、止しておこう。少なくとも、此度のこの地での戦争は終結した。いまはそれでいいじゃないか。
わたしは寝る。眠らせてくれ。




