0013・カレンからの依頼
「ところで何で受付嬢なの? ギルドマスターってギルドで一番偉いんだから、普通は受付なんてしないと思うんだけど。私の知識が間違ってる?」
そうミクは話しかけるが、現在カレンは何やら手紙を書いているようで「少し待って」という返事があった。なのでミクは適当に待ち、ガントレットを手に出して弄り始める。結局、無骨な物にしたようだ。
カレンは書き終わった手紙を封筒に入れ、フェルメテが持って来た蝋を使って封蝋を施す。彼女には王国から正式に認められた家紋と印章があり、エスティオル家の家紋と印章は侯爵と同じレベルと認められている。
「よし、これで終わり。私が受付嬢をしているのは昔、流行り病の時に臨時で入ったのが理由よ。ギルドマスターの執務室に居たのでは見えない物が見えるから、今も続けているというだけね。馬鹿も分かりやすいし」
「ふーん。偉い奴の前では殊勝にしているクズが居るって事。……やっぱり、そうなんだ。私としてはそういう奴を食べるから、野放しにしてくれても良いんだけど……」
「建前としては指導しなきゃいけないのよ。まあ、腐った連中は食べてくれて良いんだけど、コッソリとお願いね。流石にバレたら擁護出来ないわ。それと【スキル】は使うのも使われるのも気をつけなさい。勘付かれる事があるから」
「それは知ってる。アイツらにその辺は散々叩き込まれたから大丈夫。それよりも、さっき書いていたそれは何?」
「これは子爵への手紙よ。普通、辺境を治めるのは辺境伯なんだけど、ここは<魔境>が近いという意味の辺境だからね。その関係で子爵が治めているの。王国でも一、二を争う武闘派の貴族よ。頭がちょっと足りないけど、アレのお膝元で豚がやらかしたからね」
「その手紙を私が子爵とやらの所まで届ける。それが仕事?」
「そうよ。ここはロンダ王国の南西の端。<魔境>に最も近い場所。魔境というのは<大森林><大地の裂け目><天を貫く山>、この三つを纏めて<魔境>と呼ぶの。大森林の先に、大地の裂け目と天を貫く山があるわ」
「へー。今のところ私には関係無いけど、美味しい魔物が居るなら行って食べておこうっと。食べるとソイツの形を生み出せるし、使い勝手の良さそうな奴とか居るとありがたい」
「何か聞こえたけど、聞かなかった事にするわ。それより続きね。ここバルクスの町から北に行くとサキラ村があるの。それなりに大きな村だけど、そこから北東に行くと領都クベリオがあるわ。そこの子爵に届けてほしいのよ。ただし、絶対に子爵本人に渡して頂戴」
「………もしかして、クソ豚とかいう奴が奪いに来る?」
「正解。あのクソ豚ならそれぐらいするわ。一応クソ豚はここバルクスの町の代官なのよ、居ないけどね。今は領都に戻されてるんだけど、どうやらそれで怪しまれていないのだと思うわ。まさか<死壊のグード>を使っているとは思わなかったけれど」
「そういえば盗賊どもが、「アロマット商会に雇われるから、ケツを犯されて殺されるんだ」とか言ってたんだけど、アロマット商会って何?」
「……成る程、そういう事だったのね。早く教えてほしかったけど、言っても無駄かぁ……。アロマット商会というのは領都にある大きな商会で、この町に荷を運んでくる最大手。そして、クソ豚と懇意にしているギテルモ商会と対立しているわ」
「つまりクソ豚という奴は、裏からお金を貰って盗賊に命じてる? で、<死壊のグード>とかいう奴が手先だった。そういえば娼婦も居たの忘れてた。これ……食べた娼婦の服」
「ミク……貴女なんて物を持って………これ、<淫蕩の宴>のマークじゃないの。貴女が食べたのは娼婦であり裏組織の奴よ。この刺繍は間違いないわ。こんな田舎にまで侵食してくるなんて、鬱陶しい奴等ね!」
「ミク様。<淫蕩の宴>というのは、悪魔族であるサキュバスがトップの裏組織でございます。かつて主に何度も手を出してきた事がある人物で、<淫母フェルーシャ>と呼ばれる者が首魁です」
「そうなんだ。サキュバスっていうのがよく分からないけど、食べれば済むだろうから、特に大した相手でも無さそう」
「いや、アイツは魅了の……ミクには効かないわね。そもそも性欲も快楽も無いんだし。更に言えば、男性の姿も女性の姿も幻のようなものだもの。そういえばミクの男性の姿って良かったわ。思っていた以上に素敵だったの///」
「私もでございます///。ワイルドな風貌でありながら美しく、グッと厚い胸板に抱き締められて囁かれると、自分が女であったのを強く思い出しました。心の中では「早く抱いて!」と逸っていたくらいでございます」
「ええ、分かるわ。アレもアレで反則よねえ……美の化身のような女性の姿と、美しくワイルドな男性の姿。片方は私でも魅了されてしまうほど美しく、片方は耳元であの声を囁かれると唯の女にされてしまう。完全に反則よ」
「でも触手使ってた時が一番悦んでたけど?」
「「………」」
どうやら都合の悪い言葉は聞こえない事にしたようだ。その割には顔が真っ赤になっているので、昨夜の痴態を思い出してしまったのだろう。主従揃ってアレである。
カレンは「ゴホンッ」と咳払いをすると、ミクに手紙を渡して届けるのを頼む。報酬は銀貨5枚。手紙を届ける依頼としては高額だが、子爵本人に手渡しという難易度を考えての値段になっている。
依頼書に関しては、ギルドでカレンが作っておいてくれるらしく、ミクは手紙を運べばいいだけの様だ。その事を聞いた時、執事のオルドラスが朝食が出来たと呼びに来た。ミクを見た後に照れてすぐ視線を外し、部屋を出て行ったが。
「何あれ? ……私なにかしたっけ? 特に変な事はしてなかったと思うけど」
「仕方ないわよ。女性の姿の貴女を抱き、男性の姿の貴方に抱かれ、触手で滅茶苦茶にされたもの。オルドラスとしては衝撃的な一夜だったでしょうね。男性の姿の時が一番悦んでいた気がするのが、何とも微妙だけど……」
「でも仕方がありません。男女どちらの姿でも惹き付けられてしまいます。それほどまでにお美しいのですから、私達が群がってしまうのも仕方なき事。美の女神が作り上げられたのですから」
主従は喜んでおり当然だと思っているようだが、神の名が出た瞬間ゲンナリするミクだった。
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優雅に美しく朝食を終えたミクは、カレンの屋敷を辞して町中を歩いていく。現在は町の入り口に向かっているのだが、相変わらず町の人達が見惚れている。とはいえ、今までよりも注目されているようだ。
何故ならぶつかっても喧嘩にならず、見惚れ続けている者も居るほどである。ミクは気にもせずに歩き、入り口の門番に登録証を差し出す。にも関わらず、何故か門番は受け取ろうとしなかった。
「??? ……登録証、見なくていいの?」
「……えっ!? あ、ああ。ちょっと待って」
登録証を確認して返した後も、ミクに見惚れ続けている門番。初めて町に来た時と同じ門番であるにも関わらず、初めての時より酷くなっている。いったい彼に何があったのだろうか?。
ミクは少々疑問に思ったものの、その疑問を放り投げてバルクスの町を出た。最初に目指すのはサキラ村である。ここは農業が盛んであり、カレンは伝えなかったが村としては非常に大きい村だ。
景色を眺めながらゆっくりと歩いて進むつもりのようだが、この怪物の旅路に平穏など有る訳が無い。そんな事とは露知らず、暢気にテクテク歩いて行くミクであった。
男性時のミクの声=ワイルド系イケボ(低音)
音の神と性愛の神が監修した自信作という、割とどうでもいい裏設定があります




