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灰雪の王冠 1

マキリは幼馴染みのイフンケと凍えるダンジョンの1層まで上がってきていた。

白鼬人ワームステーラアーミン族』は小さくすばしこい種族で、2人は一族に伝わる抜け道やモンスターを避ける様々なコツや道具を知っていたり、持っていたりした。


『資格のある大人以外はダンジョンの外に出ないこと』


それが一族の掟だった。だから2人は試しに出てみることを思い付いた。


「もうすぐじょこ! ほらっ、気温が上がってきたろ? あの光、本物の日の光じゃないか? すげぇじょこ! 大人達は外なんて普通で大したことない、なんて言うけど、やっぱ全然違うじょこ! 行こう、マキリ。『暑気避(しょきよ)け』の守り、ちゃんと装備しないとダメじょこ?」


「イフンケ、ごめん」


マキリは凍えた雪まみれの廊下を駆けていた手足がすくんでいた。


「やっぱり、危ないと思うんじょこ。ほら、オイラ達ってこの辺りだと珍しい種族だし、『毛皮を取る人達』がいるって・・」


「マキリ! 臆病じょこ? そんなんじゃ郷を守れないじょこっ? 俺は強くなるじょこ! 英雄みたいになって、皆を守るっ。これはその第一歩じょこ。マキリは郷で大人しくしてるじょこっ!」


「イフンケ! ほんとに危ないじょこ、この間も4層の西の郷の人がっ!」


走り去った勇敢なイフンケはそれきり戻らず、それから数日後、捜索に出た大人達はダンジョンの外の森で皮を剥がされ、棄てられ、野獣やモンスターに漁られた状態の遺体で発見された。

蘇生は失敗しイフンケはロストした。

蘇生を担当した人間の僧侶は「この子の魂が苦痛の多いこの体から離れ、戻らなかった」と話していた。


以来、マキリは東の郷で一番鍛練し、しかし外に出ることは恐れ、子供ではなくなってもダンジョンから出ることはなかった。



灰雪(はいゆき)の王冠』は強力な氷の属性を持つ装飾品。スエリア領南部のダンジョン『エウデェリ氷穴(ひょうけつ)』で産出された秘宝だ。


装備者に強力な魔力、氷の魔術の奥義を与えるが、資格無き者が手に取ると魂を囚われる20年前に失われた『封印指定』の呪いの魔法道具。


それが1年程前のエウデェリ氷穴地下3層の限定的な変動に伴い、東エリアに再出現っ!

ギルドが正式な対応をする前に密売業者や宝物荒らし、好事家に雇われた者、あるいはダンジョン内生活者達が次々と灰雪の王冠を手にし、しかしその性質からいずれも魂を囚われ王冠の傀儡として自滅していったと推定されてる! ヤバっ。


ギルドは常に人手不足だったが先延ばしにしておくのも限界だったらしく、たらい回し・・もとい! 厳正の審議の結果っ、俺達『ジュウエモン隊』が対応することとなったワケだっ!



そんなこんなでームステーラアーミン族、通称『オコジョ族』のテリトリーに一番近いダンジョン内野営地で、食後のコーヒーを飲んでいた。

この魔除けの野営地はオコジョ族達が管理しているはずだが、連中は小型種族だからか横穴の中の凍った建屋の部屋はめ~ちゃコンパクトだった。


「オコジョ達から再三、討伐要請と回収要請は来てるのに1年放置、ってのも薄情な話だぜ?」


「『ダンジョン内生活者』は税金納めてないからなぁ」


「ねぇ、オコジョの郷に寄るならもう節約しなくていいよね? チョコ食べない?」


「3階に降りてきてからは通信石が繋がり易くなりましたけどぉ・・あれ? 文字化けしてますぅ?」


ラクスミが何気に確認した通信石の表示は意味不明の文になっていた。


「設備不良か? ダンジョン内吹雪のせいか? う~ん、一応、着いてすぐ動ける準備と、途中、雑魚っぽいモンスターがいても戦闘は避けてこうぜ? 温存だ」


「了解!」


6時間は休むつもりだったが、10分程度食休みが済んだら、ラクスミのヒールと魔法石の欠片で無理くり全快して出発だな。

こりゃ、いいことになってないぜ?



エウデェリ氷穴地下3層東エリアの一角にワームステーラアーミン族の郷はあった。

流浪のワームステーラアーミン族が集まり百数十年程前にエウデェリ氷穴内に郷を形成した。とされている。


その郷が約2時間前から襲われていた。

吹雪の紛れて現れた襲撃者は氷属性の下級巨人『アイストロール』の群れ。

魔除けの城壁は取り囲まれ、一部は破壊されて侵入を許している。

体長1メートル20センチ前後しかないワームステーラアーミン族達に対し、体長4メートルを越えるアイストロール達はただ歩き回るだけでも脅威であった。


「くそっ、通信石の復旧はまだじょこっ?!」


「ダメだっ、予備の『通信塔(つうしんとう)』でも上手く繋がらないっ! この吹雪に『冠の主(かんむりのあるじ)』の呪いが掛かってるじょこっ」


「じょこぉっ、だから領主にもっと献金しておけと!」


「ギルドに支援要請したのを察せられたんじゃないじょこか??」


「もうおしまいじょこっ!」


ワームステーラアーミン達は混乱の極みだだった。そんな中、


「皆っ、諦めてはダメじょこっ!!」


格闘士(かくとうし)の装備をしたワームステーラアーミンが毅然と構え、1体のアイストロールの凍えた腹をスキル『爆拳(ばくけん)突き』で撃ち抜いて倒した。


「マキリ!」


ワームステーラアーミン族の格闘士マキリは同胞達を鼓舞した。


「必死でダンジョンの中のこの郷を守ってきた先祖に申し訳ないじょこっ!」


ワームステーラアーミン達は顔を見合せ、武器を手に立ち上がった。


「俺達もやるじょこっ!」


「じょこおぉーーっっ!!」


小さなワームステーラアーミン達は攻勢に転じたていった。


吹雪の中、ワームステーラアーミン達はよく戦った。

それでも、アイストロール群れとの戦力差は覆し難く、城壁が壊され続け、次々と増援が円錐型の建物が特徴的な郷の中へと侵入し、マキリを中心としたワームステーラアーミン達達は地母神の寺院前に追い詰められていた。


「くっ・・皆は寺院の隠し通路から2層に行くじょこ。また新しい郷を造るのは大変でも、きっと上手くいくじょこ!」


「マキリは?!」


「オイラは時間を稼ぐっ。皆が数を減らしてくれたから、随分楽になったじょこ?」


疲弊したマキリが笑い掛けると、他のワームステーラアーミン達は皆、泣いた。


「マキリ・・っっ」


「すまねぇじょこっ」


「お前は郷の英雄じょこおっっ」


大きく構えたマキリ以外のワームステーラアーミン達が泣きながら寺院内に下がろうとし、アイストロール達が雄叫びを上げて襲い掛かろうとしたその時っ!


「イケメンっ、『ファイアボール×5』!」


「忍者っぽいっ、『サンダーボルト×2』!」


「よっし、エンチャントマナ!」


「ヒールでぇす!」


いずれも近くに残っていた円錐型の建物の屋根の上から、テオの放った火球とルペサリタの放った電撃が、前列のアイストロール達を粉砕して進撃を止めた。

ジュウエモンは火属性の『ヒートロングソード』に魔力を上乗せし、ラクスミはマキリの体力を遠隔で回復させた。


「じょこっ? 貴方達はっ!」


「へへっ、お前も中々の英雄だったようだがよぉ?『真の英雄』つーのは遅れて」


「ウバァーッ!」


「ンババーッ!!」


激怒した残りのアイストロール達が『投擲』や『氷のブレス』でジュウエモン達を襲い、乗っていた建物の屋根を破壊されながら一同は慌てて近くの屋根に飛び乗って回避した。


「ちょっ、今いい感じで口上する所だろうがよっ?!」


こうしてなし崩し気味に、ジュウエモン達のワームステーラアーミン郷での戦いは始まったのであった。

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