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22話 討伐準備計画 概要

 1階は賑わっていた。ハニカと一段階成長した鬼平が、バナナの叩き売りの如く、独特の口上を述べならが、客であるプレイヤーにアームレットを販売している。


「買った!」


「お兄さん、気風が良いね!末はギルマスか、勇者だね。はい、お代の植物の種子と交換だよ。次の入荷は未定だから、また来てね。バイバイ」


 最後の一つを購入したプレイヤーは、意匠案と持参した石を鬼平に差し出し、仕上げを施してもらっている。


「おじさんお帰り。わたし頑張っちゃった。もうお腹がペコペコだから、ご飯を作って欲しいな」


「留守番ありがとう。直ぐに昼食の用意をするから、何があったのか教えてくれるか?」


 鮎飯と塩焼き、天ぷらの鮎尽くしと、五平餅に2種類の餡としてピーナッツバターと蜂蜜たっぷりの木の芽味を用意した。綺麗に平らげたハニカは、目覚めてから何をしていたのか教えてくれる。


「あのね、わたし土地が欲しいの」


 飲み屋のお姉さんの様な事を言いだして、俺は絶句する。しかし、よくよく聞いてみると、ハニカは純粋に蜂蜜を作ってみたくなったとのこと。漫画雑誌を指さして、会話を続ける。


「姉さんから挑戦状が届いたの。ケンカだと勝てる気がしないけど、味勝負なら何とかなるかな。素材が大事だって「たかちゃん」も言ってるし。だから、わたしも蜂蜜を作ってみたい!図鑑で見たけど、花の種類が違うと、味も違うんでしょ?折角なら広い所で、ブドウやマスカットとか色々な種を植えて、蜂さんに使って欲しいな」


「だから、アームレットの代金が植物の種子だったのか?」


 ハニカの見せてくれたのは、天才少女パティシエール高倍(たかべ)たか子の成長物語で、オーバーリアクションを取る審査員が、如何に食材選びが大事かを、滔々と述べる漫画のワンシーンだ。鬼平と相談して、アームレットの代金は種子との交換に限定したので、行列などの大きな混乱には陥らなかったようだ。材料は高山石を浴槽に成形する際に見つけた鉄鉱石を使ったらしい。


「わたし一人だとノドグロちゃんのところに行くのに時間が掛かるし、勝手に出かけてもいいか、おじさんに相談するのが先かもなって、鬼平兄にも言われたから」


「いい子にはお土産があるぞ」


 俺はほぼ新品のドローンを取り出し、機体に手をかけた。しかし、半壊の物から分解することにした。精密機器を扱うなら、九十九商店のクリーンルームで行う方が無難だろう。


「アンナが来る迄、ドローンの分解を手伝ってくれるか?」


 7機のドローンから5つのメイン基板を分離できた。正常に作動するのはこれぐらいで、残りの部品は何処か破損している。念のための部品取りとして保管しておくことにした。アンナが合流したので、2階のワークステーションを取り囲むように座り、今後の予定を相談する。


「初めて食べたけど、美味しいね」


 アンナは俺が用意したお茶請けの五平餅に齧り付く。一人で工房に現れたことからアビゲイルとの話し合いは無事終わったのだろう。会議に参加してもらうために、双子鬼にも昼休憩を取ってもらっている。「また酒をお願いっス」と言いならが、鮎に手を伸ばす。


 温泉の順番待ちの行列を解消するために、ハニカの発案で番号札を配布する方法に変更した。繁忙時間のナイトメアモードの前後以外なら、多少の待ち時間もお客さんに協力して貰えるようだ。


「今月末の2月29日が決戦に相応しいと俺は思う。肉の日、そして、4年に一度のうるう年だから、ヤマタノオロチ討伐にはまたとない好機」


「戦闘にはあまり関係ないと思うけど、兄さんはどうしておいら達も会議に呼んだの?」


 頷く鬼平に俺は語り掛ける。


「今のままでは戦力が足りず勝てないと俺は踏んでる。そこで鬼助には、1点頼みたい。人が集まれば、情報も集まるから、湯上りにお客さんが利用できる歓談室の開設を頼む。必要な部材が有れば、何時でも言ってくれ。 


 鬼平には新素材の開発と研究に付き合ってもらう予定だ。新たな部材を手に入れるまでは、成長したことによって獲得した真球度の精度を高めて欲しい。二人とも忙しいと思うけど、宜しく頼む。何か聞きたいことはある?」


 首を振った双子鬼は立ち上がり、それぞれの持ち場に戻った。俺はアンナとハニカに向き合い、白地図を壁に投影して話を続ける。


「紫色と白色の箇所があるけど、違いは分かる?」


 ハニカが手を挙げる。


「はい、蜂蜜の産地です」


「惜しい!生産量1位の長野県は大正解」


「ウランが無茶した所かな?」


 アンナがある意味正解を言い当ててしまった。俺は咳払いをして説明をする。


「ナイトメアモードを解放した所だ。しかし、長野以外は限定的にしか紫に着色されていません。どうにかして繋げてみたいと思う」


「どうして?」とアンナとハニカの声が揃ったので、憶測と俺の勝手な拘りを主張する。


「何だか気になる。進行に全く無関係なら、わざわざ白地図を用意して色分けする必要性が低い。飛び地は行き来できるように、整備するのが定石だから」


 歴史ゲームなら、という言葉を俺は飲み込んだ。ハニカは家族だが、神格NPCではないので、アイデンティティが揺らぐような会話はまだ出来ない。アンナにも俺の意図が通じたのか、ハニカを案ずるように目を伏せた。


「わたしは遊びに行けるなら、いつでもどこでもいいよ。おじさんの夢の世界にもまた行きたいし、ノドグロちゃんともまた会いたいな」


「ハニカ、ラーテル様にお供えするのを忘れていたから、お願いできる?俺はアンナと少し話をしたいから、下で待ってて欲しい。終わったら九十九商店に行って、その後は土地探しもしよう」


 ハニカを見送ると、俺とアンナは時間の使い方を相談し始める。


「ゲーム内時間で25日後だから、現実では25時間後の1月3日15時まで。今が2日の11時32分。8時間睡眠と食事とかを考慮して2時間で計10時間。ログインし続けても15日しかないから、余りのんびり出来ないけど、ヤマタノオロチ討伐まではアンナに付き合って欲しい」


「ウランはどうしてそこまでの必死なの?納得できる理由が無いと、私はそこまで時間を費やせないよ。今は正月休みだから問題ないけど、ずっと同じペースでは付き合い切れないと思う。単位も取らないといけないし」


 アンナは言葉を選びながらも、ハッキリと意思表示をしてくれた。現実でも誠実な人柄なのだろう。


「最後のモラトリアムのつもりで、俺は正月休みと有給を使って一ヶ月の長期連休を取った。この期間を全力で楽しみたい。社会的なペルソナを脱ぎ捨て、ウランという一人の冒険者として、見たこともない景色を新たな仲間と目指したい・・・って大人になり切れない自分探しの旅だけどね」


「新しい自分を見つけるってこと?私を形作っているのは、周りの環境も含めてって部分は理解できるけど、敢えてゲームに拘るのが不思議な気がするな」


「俺はゲームが好きで、一番手っ取り早いってのが本音だ。時間加速装置があるから、1年強を過ごせる。それに、現実と比べると、精神的にも肉体的にも制約が少ないから、無茶しても怪我する心配もないし」


「ハニカちゃんの事はどうするの?」


 アンナは少しだけ声のボリュームを落とした。


「まだ決めてない。って言うか決められない。只のNPCだとか、誰かの打ち込んだコードだって割り切れない。俺にとっては、ハニカもテイムモンスターのジュラやサトイモ、ラーテルも大切な仲間で、共に過ごす時間が増えれば増える程、切り離せない存在になっていくと思う。そういうアンナは咲夜達についてどう思う?」


「私も困惑してる。乙女ゲーはパズルゲームに通じるところがあって、最適解の行動を選択することが攻略上重要なんだ。けど、あの子たちは、自我があるように私が指示していない行動も取るから、画面の中の王子様とは違うみたい。まるで・・・」


「まるで本当の人間みたい?アップデート後にハニカを現実世界に呼んだら、あの子が欲しがったのが、金属細工と少女漫画月刊誌だよ。珍しい組み合わせだから、驚いたよ。どんな教師データを使えば、そんな選択をするAIを組めるのか」


「私も早く一緒に外出したいから、頑張って強くならなきゃいけないな」


 会議を開催した核心の話題が出たので、俺はここぞとばかりに後押しと提案をすることにした。


「ヤマタノオロチ討伐を2月29日に設定したのは、前回の特日1月29日はナイトメアモード中のデスペナルティが、通常のキャラロストから経験値ペナルティへと格下げされたことが一番の要因だ。今回を逃すと、次回の特日がやってくるのが、ゲーム内時間の2033年5月の新月か、2034年8月の満月の前夜祭まで、待たなければいけないと俺が考えたからだ」


「ウラン、あなた本気なのね。そこまで先を見据えての発言なら、私もやれることは協力するわ。それで、戦闘に向かない私は、どうすれば良い?」


「アンナの担当はガチャでスサノオ様の回収を頼みたい。アンナを引き強だと見込んでのお願いだ」


 予想外のリクエストにアンナは笑い出してしまった。至って真剣な俺は言葉を続ける。


「伝承通りならスサノオ様が討伐するはずだが、それではレイドの意味が無い。だからと言って、レジェ級の防具に偽装することを楽しんでいる今のスサノオ様だけでは、不安しかない。せめてユニーク級まで統合してもらうには、後9体集めないといけないから、アンナの剛腕と強運だけが頼りだ。


 俺も付き合いたいが、情報収集と人材のスカウト、俺自身も含めた仲間の強化が喫緊の課題だから、ガチャ迄は手が回らないと思う。一番の問題は、俺が不運を自覚していること。物欲センサーが発動しているので、普段よりもデバフ状態だろう」


「ガチャに使う通貨については心配無用だから。代わりに、ウランには、私達のアイテムも作って欲しいな」


「それぐらいなら何時でも歓迎さ。手元に部材が無かったり、スキルの必要なアイテムの場合は、応相談ってことで。そろそろハニカが焦れる頃だから、移動しようか?」




 俺達は九十九商店にやってきた。ハニカとアンナを初めて連れてきたので、興味津々のようだ。心なしか店員であるオートマタの態度が冷たい気がする。


「この機体の全長とトルクスキャンをお願いします」


 美品のドローンを取り出し、カウンターに載せた。クリーンルームでの作業場代と、特殊工具、特にリベット外しが必要なので、諸々で5万エン支払った。リベットは再利用出来ないので、別途3万エンで3Dプリントしてもらった。


「アンナごめん。早速分解に取り掛かりたいから、待っててもらえる?ハニカ、手伝い頼むぞ!測定したいものがあればこれで試して」


 俺は2万エンをアンナに強引に手渡し、クリーンルームへと移動した。


 <レアスキル:リバースエンジニアリング(小型航空機)を獲得しました。初達成者の為、レジェンダリースキルに昇格します>


 良し!調子に乗って、俺は破損したドローンから回収したメイン回路を分解したが、今度はスキルを獲得できなかった。念のために2つ目も試す。何も変化はない。半導体を解析するには、スキル不足を告げるアナウンスが流れる。


 <施設レベルが不足しています。解析スキルはクエストにより獲得できます>


 愕然としている俺とは対照的に、ハニカはドローンに乗りたいと言い出した。攻撃手段の兵装品を取り外し、ハニカの操縦席とヘルメット、遠隔と自操のコントロールデバイスを組み上げた。重量バランスの調整に少し手間取ったが、一応形にはなったので、農園候補を探す名目で、管理組合事務所に向かった。俺とハニカは、初号機のテストフライトをしたくてうずうずしている。暴走を危惧したアンナが、交渉役を買って出たのは賢明な判断のはずだった。


次回 討伐準備計画 素材編 です。

投稿は5月12日午前8時予定です。

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