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14話 五右衛門を助けろ

 図書館でヤマタノオロチに関する伝承について調べた。待機部屋で検索することもできるが、なるべく本から自身で重要ワードをピックアップするようにしている。まあ、職業病だろう。


 スサノオ、酒、クシナダヒメなど関連ワードをメモし終わったので、バックパックの中で鼻歌を歌っているハニカに桃太郎の児童書を読み聞かせると、読書に興味を持ったのか他の話もせがまれた。デジタル日本昔話第一巻を購入して分福茶釜を一緒に読んでいると天目に到着する。


 「こんにちは」


 「いらっしゃい、ウラン君。その子がハニカ君か?はじめまして」


 「こんにちは!お目目、痛くない?」


 「私は大丈夫。ウラン君と話があるからあっちで遊んで待っててね」


 ニュートンのゆりかごを筆頭に様々な知育オモチャが展示されている。ハニカが気に入ってのは無限ループでレール状のパズルだ。


 「よく無事だったね」


 「はい、何とか桃太郎パークから帰還できました」


 「私はヤマタノオロチの事を言ったつもりだけど、コミュニケーションはなかなか難しいね。それで、今日はどんな要件かな?」


 「防具が壊れてしまったので修理をお願いします。近接武器も入手したのでアップグレード出来るか確認もしたいです」


 ジュラに貰った最後の鱗と炭素鋼ワイヤーに料金1万エンを支払って修理してもらった中隊長の軽装鎧を受け取った。


 「属性ソケット(レア)を追加しておいたよ。鉤爪の強化には部材が足りないから10万エン必要だけどどうする?因みに刃物か動物の爪を使うかで特効分岐するから慎重にね」


 「それなら止めておきます。天目様が言及されたのでヤマタノオロチに関して伺ってもいいですか?」


 「どうぞ」


 「神格モンスターのヤマタノオロチとのレイドでは特別酒とスサノオという人物が必要みたいです。フレンドの装備に牛頭天王という防具があるのですがやはり無関係ではありませんよね?」


 「アイツは」


 一瞬、隻眼だと思われていた眼に怒りを孕んだ光が映し出された。


 「私とスサノオの関係性については知っているね。祖母の弟だから私にとっては大叔父に当たるけどゲームの世界でもやりたい放題みたいだね。まさか防具の真似事までしているとは。スサノオ本人のいたずらかはまだ解りかねますが、一度そのフレンドさんにお会いしたいですね。特別酒についてですが、出雲地方のお酒が一種類有れば後は不問みたいですね」


 「あ、ありがとうございました。本日はこの辺で失礼します。さあ、ハニカ行くぞ」


 「わたし、これ欲しいな」


 被害を被ったいたずらの数々を思い出したのか天目はブツブツ呟いていたが、ハニカの一言で平静を取り戻したので知育玩具を購入して店を後にした。


 



 タグ付けしてもらった兵庫県の生産エリアbeekeepingのえいぴさんはNPCだった。広大な土地に養蜂の為の巣箱が規則性を持って並べられている。やじろべえのオモチャを爪先に乗せながら「どうして落ちないの?不思議」とハニカは遊んでいたが、今は目の前に広がる大好物の蜂の子に狂喜乱舞だ。勝手に手を出さないように言い聞かせてから店主のえいぴさんに声を掛ける。


 「イッチーさんに紹介いただいたウランと言います。こんにちは」


 「はい、連絡はもろってます」


 心配事でもあるのか俯き気味に挨拶をする中年男性えいぴさんは、手笛を吹くとテイムモンスターのハミングバードを呼び寄せて俺達に引き合わせてくれた。


 「この子はミツオシエのノドグロ、あ、魚のノドグロとは無関係です。悪しからず」


 先手を打たれて会話の糸口を失ってしまった。まごまごしている俺とは正反対に人見知りのハニカはノドグロと忽ち仲良くなる。


 「ミツオシエと穴熊は共生関係にあるので種族の壁を越えて仲良くなります。ノドグロはミツバチ達とも上手くやれるので、テイム出来たのは僥倖でした。はい」


 「一般エリアにテイムモンスターを同行することも出来るのですね。知りませんでした」


 「この後来客があるのでご用件を早くお願いします」


 「蜂蜜を定期購入したいのですが、売っていただけないでしょうか?」


 会話を中断するようにハニカと遊んでいたノドグロが甲高い警告音を発し始めるとえいぴさんの顔は強張り始める。


 「えいぴさんよ、いい加減組合に入りなはれ」


 ガラの悪いNPC達が軽トラの荷台に乗って大挙してきた。俺はえいぴさんを庇うように立ちふさがり「先客は俺だから済むまで待つよう」に申し出る。


 「にいさん、誰?余所者は黙っといてんか?蜂蜜卸売組合の話に首突っ込んでタダで済むと思ったら大間違いやで、いてまうど!」


 悪態をつくNPCはえいぴさんには猫撫で声で勧誘する。


 「あんさんがわしらの組合に入ればこの業界は寡占状態でウハウハの左うちわじゃ。カミさんや子供たちの為にも少しは贅沢さしたりーな」


 住居兼作業場の小屋から状況を見守るえいぴの家族だろう3人は、俺と目が合うと縋るように見つめてきた。


特定のアイテムや一部食品はプレイヤーによるRMTリアルマネートレードを防ぐためにNPCのみの専売制になっているので、悪徳商人が市場を牛耳ってしまってはゲームの進行に影響を及ぼす。特に蜂蜜、酒、煙草は嗜好品扱いで、バフ効果が高くNPCの販売価格次第で戦闘難易度も左右する重要アイテムだ。


 <クエスト五右衛門を助けろが発動しました。えいぴを助けますか?悪徳商人に加担しますか?>


 えいぴを助けるとコマンド選択すると俺は商人たちに取り囲まれた。


 「にいさん、プレイヤーやろ。ここでうちらに攻撃するとペナルティやぞ」


 簀巻き(すまき)にされた俺は乱暴にトラックの荷台へ投げ飛ばされた。丁度荷台の縁で絶妙なバランスでユラユラと揺れていると警戒態勢を取っていたハニカが遊びと勘違いして尋ねてくる。


 「うわー!やじろべえだ。おじさん楽しい?楽しい?わたしもやりたい」


 悪徳商人が扱いに困ったのか逡巡しゅんじゅんしながらハニカを簀巻きにして、優しく荷台の上に下ろす。


 「えいぴさん、ほなまた。今度来たら答えを聞かせてもらいます」





 天井からの水滴で目が覚めると、俺達は牢屋に居た。ハニカはやじろべえごっこに飽きたのか簀巻きを解いて辺りを探索している。湿度が高くジメジメしている室内は潮とえた匂いが充満しており中々の牢屋感だ。


 「やっと気が付いたかい?俺は五右衛門だ」


 ドットの粗いどちらかというとカタカナの名前が似合いそうな五右衛門は、紫煙をくゆらせ黄金の煙管をカンカンと打ち付け巻物に三角と記入している。火皿に別の刻みたばこを詰めてひと吸いすると、今度は丸に書き込み何かの調査をしているようだ。


 「オレはケチな盗賊なんだが、ある日鑑定のスキルがあるために攫われた。ここの環境は最悪で直ぐにでも逃げ出したいが、偶に入荷する極上品を鑑定するためだけに敢えて留まっている。お前たちは見た所プレイヤーのようだが何やらかした?」


 「俺はウランでこの子がハニカです。蜂蜜を売ってもらおうと養蜂家を訪ねたらつかまってしまって。抵抗しようにもどの程度の攻撃でどれだけのペナルティが有るのか不明なので手出しが出来ませんでした」


 「蜂蜜というとえいぴさんのところだろ。あそこのは絶品だ。確か」


 五右衛門は甘味の巻物を広げ花丸の印を俺達に見せてくれた。


 「こんなところで出会ったのも何かの縁だ。ここから俺を出してくれたら便宜を図ってやってもいいぜ。但し、オレはハッキリ言って弱いし、過去に何度逃げ出しても気付くとここに舞い戻っているからやり過ぎるなよ。以前3人組に助けられたのは良いが、舞い戻ると悪徳商人がやられた腹いせにシケモク、チャンポン酒、粗悪品の蜂蜜を毎日鑑定させられて流石に参ったぜ」


 クエストなので、関係するNPCは何度もプレイヤーの選択に付き合わされる。他のゲームと違うのは、NPCがぼんやりと過去を記憶していることとクエスト達成条件によって五右衛門の性能に差が出ることだ。


 「ウランおじさん、ハニカはレールのパズルで遊びたいな。作って」


 ハニカは牢屋の錆びた鉄棒を握ると帯電した爪で電気分解して錆びを落とした。ピカピカの金属棒を切断して俺に渡す。


 「ウラン、やられた行動の範囲ならやり返しても攻撃判定にならないから心配するな」


 俺は投げ飛ばされて簀巻きにされたので、パズルで遊ぶにはちょうどいいかもしれない。玉は悪徳商人たちだがな。


 「よし、一緒に作ろうか」


まずはレールの為にありったけの金属棒をさび落としした。簀巻きの材料に干からびた皮を使うがこのままでは上手く転がらないから、ハニカに頼んで鉄粉を皮に凝着してもらい半球状に変形する。ハニカの知育オモチャを参考に、牢屋だった空間が巨大パズル場に早変わり。後は玉の中身を調達するだけだ。


「おい、うるせえぞ!何してやがる」


階段を降りて確認に来た商人の手下は、様変わりした牢屋を見て体を翻し仲間を呼ぼうとするが、俺が投げ飛ばすとハニカがスタンバっていた半球にスッポリ嵌り蓋をした。簀巻きの形状が違うが攻撃判定が出ないでの、玉をパズルの開始位置に投げ飛ばす。


よーいドンとハニカと一緒に玉をスタート位置からリリースする。


「うわー」


摩擦係数を極限まで小さくしたレールは3度のループを終えても玉の勢いを落とさない。4度目のループを許してやる代わりに仲間を呼び出させた。手下は前後不覚になりながら悪徳商人を呼び出す。現れたのは丁度5人なのでニュートンのゆりかごにピッタリだ。


カチンカチンと鉄球がぶつかるたびにえずく様子が窺える。


 「えいぴさんの家族には手を出すな。分かったか?」


 俺は返事が聞こえるまで振幅が一定以下にならないように時々金属球に力を加えると、漸く観念したようだ。真ん中の玉に入っていたリーダー格で和装の越後屋顔の商人が怯えながら約束する。


 「分かった。これからはえいぴさんには一切手出ししない。だからもう許してくれ」


 「ウラン、やり過ぎだ。オレの次回ループの事も考慮してくれ」


 俺は五右衛門に手を引かれ、自らボールに入ってパズルを楽しんでいたハニカを呼び寄せると港の倉庫を後にしてbeekeepingに戻った。


 「お世話になりました。これで誰にも邪魔されずに蜂蜜づくりに専念できます」


 えいぴ一家にお礼を兼ねて食事に招かれ蜂蜜尽くしを堪能した。特に気に入ったのはナッツとドライフルーツの蜂蜜漬けだ。ノドグロとの別れを名残惜しそうにしていたハニカを説得して蜂蜜の定期購入契約を済まし前払い1年分6万エンを払った。土産に特製ローヤルゼリーを貰って養蜂場を後にする。


 <クエスト五右衛門を助けろをクリアしました。五右衛門が被ダメージゼロクリアにより、盗賊に加え、斥候、手配のスキルを有した状態の協力NPCとして登録されます。同一パーティー内で3人以上出現させるとドッペルゲンガーにより五右衛門を消失しますのでご注意ください>


 「用が無ければオレは旅に出るけど?」


 「また捕まるぞ」


 「いや、ウランのオレはもう捕まらない。ただ、クエスト未開放のプレイヤーの数だけまだ捕まっているオレがいて、助けられたオレらとも意識を共有できるだけだ」


 「何だか損な役どころだな」


 「まあな。しかし、今回のオレは幸運だったぜ。ウランのお陰でスキル完備状態で脱出出来たし、あんな状態の悪徳商人を拝んだのも初めてだったからざまあみろだ。次回のオレには悪いがな」


 「早速だけど、出雲地方の酒と新大陸アトラスへの行き方に関して教えて欲しい」


 五右衛門は巻物を広げると八塩折ヤシオリの酒の味を思い出したのか喉を鳴らした。


 「あれは良い。最古にして最高の日本酒だ。オレも一度だけ口にしたことがある。が、手配しようにも情報が欠けているから、一度現地に向かう必要がある。アトラスに関しても同様だ。どちらを優先するかはウラン次第で、2か所同時に調査は出来ない」


 「じゃあ、出雲地方の八塩折の酒から調査を頼む、依頼に当たり何か必要か?」


 「経験値を賭けてくれれば成功確率を抽選できる。調査終了時にオレが獲得できるから賭け金によってはオレのスキルがレベルアップするぜ。やってみるかい?」


 経験値千p支払うと木製六角形の御神籤を渡され、ガシャガシャ振り逆さまにすると細長い棒が飛び出た。。


 「9割5分か?スゲーじゃねーか!こんな数字はあいつら以来だぜ」


 良く分からないが運が良いらしい。本来、俺は不運を自覚しているのでこれもミーちゃんのお陰だろう。


 俺達は五右衛門と分かれると、アトラスに関しての調査の為に大阪に向かうのだった。


次回 ヒーラー登場 です。

投稿予定は4月14日午前8時の予定です。

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