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13話 自宅温泉始めました

 食事の最中にうつらうつらしていたハニカはとうとう耐え切れずに眠ってしまった。俺も釣られて横になる。


 <睡眠最適化には不十分です。本日16時までに8時間睡眠を取らないとプレイログを失います>


 目を覚ましたのは午前9時過ぎで6時間ほどの睡眠。今からでは8時間睡眠は叶わないのでプレイログを失うことが確定した。遠距離戦なら補正値の喪失は一大事だが、今回の戦闘はほぼ近距離だった。近接戦闘の検証が出来ないのは悔しいが仕方がない。切り替えて鬼の釜の修理に取り掛かることにした。


 「おじさん。痛くない?」


 「もう大丈夫だよ。ハニカのお陰で助かったよ」


 「えへへ」


 豚の生姜焼きと牛乳プリンの朝食を終えると、同じメニューを神棚にお供えして必要部材を取り出す。鬼の釜(破損)、純鉄、小鬼の角2本を広げると「修理しますか?」と承認の是非を問われ迷わずYesを選ぶ。


 ボフンボフンと効果音が2度鳴ると一回り小さい釜が2つ出現した。


 「おいらの名前は鬼助だ」

 

 「鬼平っす」


 付喪神だろう瓜二つの2体の小鬼が自己紹介した。


 「鬼兵衛はどこに行った?」


 「兄さん、冗談はよしてください。鬼の角を使わなければ鬼兵衛は顕現しません」


 角の色が水色の鬼助と赤色の鬼平は、実体化して自らの半身である釜の確認を始める。


 「兄さん、直してくれたお礼にひと風呂ご馳走するぜ」

  

 湯守見習いの鬼助が申し出ると鬼平も対抗する。


 「鍛冶見習いでまだ平面度しか特技はないけど、平らにするなら任せてっす」


 「兄ちゃんたちは誰?もしかしておじさんをいじめる?」


 ハニカは本格的な戦闘に参加して眠っていた闘争本能に火が付いたのか、初対面の相手を敵か味方の二元論で判断しようとしている。


 「今日から一緒に生活する鬼助と鬼平だ。ハニカには初めてのお兄ちゃんだから仲良くしないといけないよ」


 「敵じゃないなら味方だね」


 諭そうとしても良い文句が浮かばず悩んでいると鬼助が助け舟を出してくれた。


 「僕達は友達になった。敵味方友達って色々な人がいるんだ。分かるかな?」


 「友達?」


 「遊んだり偶に喧嘩したり近づいたり離れたり」


 「よくわかんないけど、一緒に遊ぶ友達欲しいな」


 ハニカと年齢的に近い鬼助と鬼平が地下で鬼ごっこを始め直ぐに仲良くなり、3人で水遊びを始めるといつの間にか湯気と共に温泉地特有の匂いが漂う。


 「本日は湯原温泉の成分を再現しました。一番風呂は兄さんが・・・」


 ジャポンとハニカが飛び込んで「あったかーい」と声を上げたので皆で入浴することにした。


 <24時間以内の欠損部分回復、獲得経験値1.5倍の効果を獲得しました。湯守見習い温羅うらがStudio92に本拠を構えました>


 温泉の中でドロップアイテムを確認しているとサラッと告げられた。獲得経験値1.5倍だと!ただでさえユニークモンスターの魂によりヒュプノスのレベル上昇が可能な事に驚いていたのに。


 ユニークモンスターの魂:戦闘中に限りパーティー内のユニークモンスターを一度だけ復活できる消費アイテム。ユニークスキルのレベルアップにも使える。


 神秘の茣蓙:特定エリアを除き使用により6畳分の広さを聖域化する。6名収容可能で睡眠効果は待機部屋と同等。


 レジェスキル:囀り(さえずり)

パーティー内のレジェモンスターを1日1度限定で復活できる。モンスターはレベル1の状態で復活し同一モンスターに2度目の使用以降はペナルティとして降格する。


 レジェスキル:属性加算

背反しない属性なら同時に2つの魔法をかけ合わせることが出来る。


 レジェスキル:体術の心得(酔拳)

酔えば酔うほど強くなるドワーフと最も相性のよい体術。人型相手には無類の強さを発揮するが獣性が増す相手程効きずらくなる。




 風呂上りの一杯にドライフルーツを使ったフルーツ牛乳を皆で飲んでいると呼び鈴が鳴った。温泉の招待状をフレンドのアンナとあがりの面々、ビーエスにもメッセージで送ったが、やってくるにしては早すぎる。


 「どちらさん?」


 「お風呂!お風呂!」


 フレンド以外は個人拠点に勝手に入れない仕組みなのでロックを外すと、以前天目ですれ違った獣人がボロボロのマントを纏って佇んでいる。白と黒のハチワレの猫で見事な富士額、尻尾の先が千切れてしまっていてマントから覗く全身も傷だらけだ。


 「ミーちゃん、お風呂!」


 マントを外すと前面には数えきれない傷が見て取れるが、背中には一片の傷もない。歴戦の戦士の証なのだろう。が、ロールプレイにしても猫過ぎる。ミーちゃん?は勝手に階下へいくと止めようとする鬼助と鬼平をひらりと交わしザブンと温泉につかり鼻歌を歌い始める。


 「みゃみゃみゃ♪」


 温泉から出ると傷も癒え尻尾も元通り生えていた。満足したのか毛繕いを終えたミーちゃん?は俺に向かって「ご飯、ご飯」とまるで飼い猫の様に要求し始める。傍若無人の振る舞いに怒ったハニカと霊体化した双子鬼達はミーちゃんの尻尾によって軽く往なされている。霊体にダメージを負わすことが出来るとは一体ナニモンだ?


 どちらかというと犬派だが猫も嫌いではないので、茹でた鳥のささ身にほんのり出汁醤油と鰹節を振りかけて用意してあげた。


 「みゃんみゃん♪」


 ご飯を平らげるとスヤスヤと眠ったミーちゃんの尻尾と暫く格闘していたハニカも勝てない相手だと悟ったようで、一緒に横になって眠ってしまった。やれやれと思っていると珍客は続く。


 「ミーちゃん様はおいでか?」


 応対しようと扉を開けると、とてもじゃないが店には入りきらない程の集団が規律正しく整列している。白と黒のツートンカラーで染色された西洋風の鎧を纏う一団に隊長格と思しき獣人だけを招き入れて状況を説明して貰った。


 「三英雄の一翼を担うミーちゃん様が親衛隊ハチワレ隊隊長シロクロと申します」


 副隊長のキジトラと茶虎も揃ってお辞儀をする。


 「この度の遠征によって日本サーバーで最初の魔王討伐を果たされた三謳さんおうのミーちゃん様がお世話になったようで感謝しております」


 隊長格の三人は言葉使いや態度からも明らかにプレイヤーのロールプレイと分かり詳細な説明を求める。


 「ミーちゃん様の出自に関しては極秘事項なので、三謳さんおうのリーダーである歌姫エフ様にお尋ねください」


 「じゃあ、魔王討伐に関して」


 シロクロは待っていましたと言わんばかりに早口で説明し始めた。


 「ある時、彼方から巨大な隕石が降り注ぎ太平洋に新大陸アトラスを生み出すことになった。宇宙からの侵略者か地下で時が来るのを待ちわびていた先史時代の超兵器かは定かではないが、大地に立った魔王は思った」


 「人類を殲滅せねば」


 引き継いだキジトラはバリトンの利いた声で魔王になりきる。一言終えるとナレーション役のシロクロが続ける。


 「関空より空路でアトラスに向かい無事魔王を討伐した三謳であった。めでたしめでたし」


 面倒くさくなったのか端折って物語が終焉してしまった。


 「3つのエリアにはそれぞれグランドクエストが設定されていて、その内2つを達成すると次の世界に旅立てるそうだよ。魔王討伐によりアドベンチャーエリアのグランクエストを達成した三謳はもう一つだと思うよ」


 茶虎の言葉は推測のようで自分たちは三謳の偉業達成とは無関係であることが窺い知れる。


 「俺らはぶっちゃけアトラスまで同行するのがやっとのレベルで、ミーちゃん様が4つ保持しているユニークスキルを1つも持っていない。特殊フィールドが展開されてボケっと突っ立っていると、戦闘が終了したのか荘厳なファンファーレが鳴り響き、エフ様が去り際に教えて下さったので魔王討伐が為されたと知ったに過ぎない」


 「そうそう、僕らはただの猫好きの集まりなんだよね」


 「ミーちゃん様にはあざとさが一切感じられなかったから」


 「しっ、それ以上は規則違反だぞ。おっ、やっと目覚められたぞ」


 3人は一目散にミーちゃんに駆け寄ると誰がブラッシングをするのか揉めだした。


 「失礼するよ」


 上がりの面々がやって来て一層賑やかになる。


 「何だか楽しそうだな。折角なのでお風呂を呼ばれに来たよ」


 あがりの皆を地下のお風呂に案内して1階に戻ると、ミーちゃんは「ミャオン」と一鳴きして俺に左手の肉球でお代わりをした。


 「おお!エフ様と正方まさむね様以外に初めてミーちゃん様が他人にお代わりをしておられるぞ。ありがたや」


 何でもミーちゃんは気に入った相手にはお代わりの仕草をして、再会迄の運気上昇のバフ効果と引き換えにご飯と昼寝の一宿一飯を予約するみたいだ。ハチワレ一行を見送ると地下に降りて湯加減を聞く。


 「如何ですか?」


 「最高だよ!装備を付けたままだから違和感が無い事もないが、目を閉じればハネムーンでスパークと過ごした湯原温泉旅館を思い出すよ。あの頃の情熱よもう一度」


 イッチーが下ネタを披露した途端、温泉が電気風呂になったのは想像に難くない。


 「風呂の後はご飯でしょ、若旦那」


 腕章に催促されたのでプチ宴会を開催して雑談しながら情報収集をすることになった。


 「先程の一団に聞いたんですけど、大阪の関空からアトラスという大陸に飛べるみたいですね」


 「儂、出身は大阪でんねん、何でも聞いてや。儂らが入っている五右衛門風呂も元は秀吉に捕らえられた石川五右衛門の処刑方法からきているのは有名な話や。知ってんか?」


 「何となくは知っています。そういえば、関西圏は秀吉びいきなんですよね?」


 「大阪城に豊國とよのくに神社、兵庫の有馬温泉も有名だよね」


 「寧々様にあやかって私も何度か湯治に伺ったことが有るわ。鬼助ちゃん、今度は有馬温泉の再現をお願いね」


 イッチー、腕章に続いてスパークも思い出話を披露する。


 「日本人の気質は260年強続いた徳川幕府の影響を今も色濃く残していると聞いたことが有ります。栓無き事ですが豊臣幕府があったら私たちの性格も今とは随分違っていたでしょうね。辿ってきた歴史も異なりどのような現代になっていたのでしょうか?」


 何だかしんみりしてきたので話題を転換することにした。


 「俺、さっきまで戦闘していてもしかしたら死んでいた(キャラロスト)かも知れなかったんですが、気が付いたことが有ります。モンスターには蜂蜜が物凄く有効です」


 「え、蜂蜜!食べたい」


 人見知りの為に隠れていたハニカがバックパックから飛び出てねだるので、皆に紹介の挨拶をしてからクッキーをあげた。


 「この子も大好きだしケルベロスも食いついたので野生動物やモンスターにはとても有効に思えます。養蜂家をご存知でしょうか?」


 「お風呂と食事のお礼に紹介しよう。丁度行先も関西なのでアトラスだっけ?の渡航方法も探ると良い。兵庫県の一般エリア店名beekeepingのご主人えいぴさんを訪ねるといいよ」




 上がりの面々は退出の際に新作のドライフルーツ(マンゴー)と様々な調味料を土産に戻っていった。俺は双子鬼と相談の末に地下階を温泉、1階を工房にリフォームすることにする。


 「兄さん、温泉の男湯と女湯の仕切りはこれでいいかな?」


 「一度火入れすると絶やさずに燃やし続ける必要があるっす。煙突も必要っす」


 鬼平の高炉釜の余熱で湯を沸かす最適な位置取りに温泉釜を設置すると、鬼助は二又の湯路を作成して男女それぞれの浴槽に流れ込む機構を完成した。


 「兄さん、後は浴槽次第です。岩で囲ってもいいですし、檜でも香りが立つので悪くない」


 何だか物凄く本格的な温泉になりそうだ。俺としては五右衛門風呂で十分だがやる気を削ぐ必要もないので高級路線に計画変更した。


 「どちらも持っていない。折角なら最高の物で作ろう。何処か要望はあるか?」


 「石なら高山石、檜なら木曾檜が地理的に相性がいい」


 部材集めに岐阜に行くことが決定したが問題はタイミングだ。


 「鬼平も必要な物がある?」


 「鉱石の種類が欲しいっす。贅沢を言えば粗さ測定器が有れば最高っす。今の実力が分からないと上を目指せませんっすから」


 手持ちの純鉄と咲夜から貰った炭素鋼ワイヤーを半分渡し測定機に関しては保留にした。九十九商店なら手に入ると思うが値段が不明だからだ。ともあれ、暫くは五右衛門風呂で仮営業しつつ反響の見ることにして、双子鬼に疑問をぶつける。


 「鬼助と鬼平は付喪神だよね、霊体に成ったり実体に成ったりしているけど活動の源泉というか、エネルギーの源はどうなっているの?」


 「おいら達は道具ですからやっぱり使ってもらって喜んでもらうのが一番で、もらった感情値をエネルギー変換しています。身勝手な猫でしたが余程嬉しかったみたいで、今のおいら達はやる気もエネルギーも漲っています。道具から離れることが出来ないので同行出来ませんが、修理して貰った恩は忘れずこれからここで頑張ります」


 「感情値が必要なら集めるために温泉に関して入店設定の変更が必要だな」


 地下の温泉に別の入り口を設定して料金を払えば誰でも使用可能とした。工房の客とフレンド以外は、1階へと続く階段はマジックミラーで見えないように鬼平に細工してもらいセキュリティも確保済み。


 一応の形が整ったので俺とハニカはヤマタノオロチに関しての情報収集の為に図書館に寄り、防具の修理で天目へと向かった。


次回 五右衛門を助けろ です。

投稿予定は4月11日午前8時の予定です。

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