第33話 思い出の首飾り
○ 病院のロビー (平成 春)
美砂子 ソファーに座っている
玄関の自動ドアが開く
陽一 入って来る
陽一 「どうも・・・」
美砂子 はっとして陽一を見る
陽一 会釈をする
美砂子 立つ
○ 病院の庭
美砂子 陽一 満開の桜の下を歩いている
桜の花びらが二人に落ちる
陽一 「実は・・・ 僕 父とも母とも 血が繋がってないんです」
美砂子 驚いて
美砂子 「と 申しますと?」
陽一 「僕 養子なんです」
美砂子 「・・・」
陽一 「元々 父がやっていた洋食屋のバイトなんです」
美砂子 「バイト?」
陽一 「はい 僕 身寄りが無かったんです」
美砂子 「身寄りが?」
陽一 「はい 僕が小学校2年の時 両親が震災で死んでしまって」
美砂子 「震災?」
陽一 「ええ 神戸の」
美砂子 「・・・」
陽一 「2階に寝ていた僕だけが助かってしまったんです」
美砂子 「そうだったんですか・・・」
陽一 「両親に頼りに出来る親戚がいなかって・・・」
美砂子 「・・・」
陽一 「結局 僕 児童養護施設で育ったんです」
美砂子 驚いて
美砂子 「えっ?」
陽一 「どうかしました?」
美砂子 「じ・・・ 実は・・・」
陽一 「・・・」
美砂子 「私も一緒です」
陽一 「えっ?」
美砂子 「私も・・・ 私も 児童養護施設で育ったんです」
陽一 「へー そうなんですか」
美砂子 「はい・・・」
○ 病院の庭
美砂子 陽一 ベンチに座っている
陽一 「僕 料理が好きで高校卒業して料理人になろうと京都に来たんです 専門学校に
行くお金もなかったんで 取り合えず どこか修業させてくれる所を捜しに」
美砂子 「はい」
陽一 「でも 来て見ら 老舗と言われる料亭はどこも身元保証人とかが 厳しくって
どこも雇ってくれなかったんです」
美砂子 「それは私も経験があります 仕方が無い事だと思いますが・・・ 辛いですよね」
陽一 「で 偶然 通りがかった父の店のアルバイト募集っていう張り紙を見て 取り合え
ずと思って 雇ってもらったんです 本当は日本料理がやりたかったんですがね」
美砂子 「そうだったんですね」
陽一 「父に事情を話したら 父は僕に 一生懸命 料理を教えてくれました」
美砂子 「・・・」
陽一 「ある程度 出来る様になった時 子供に恵まれなかった父と母は僕を養子に迎えて
くれたんです」
美砂子 「そうだったんですか それは 良かったですね」
陽一 「はい その上 僕をイタリアに修業に行かしてくれたんです」
美砂子 「へー イタリア・・・」
陽一 「ええ 父が本場の技を身に付けて来いって」
美砂子 「いいお父さんでしたね」
陽一 「ええ 父の友人のつてで ナポリの小さなレストランで修業させてくれたん
です」
美砂子 「ナポリ・・・ いいですね」
陽一 「それで 3年後 帰国して これも父のつてで 老舗のホテルに入る事が出来たん
ですが・・・」
美砂子 「そこが外資に買収されて・・・」
陽一 驚いて
陽一 「な 何でそれを?」
美砂子 空を見上げて
美砂子 「あー なんとなく そう思ったんです・・・」
陽一 「・・・」
美砂子 微笑む
陽一 「ですから 父と母は僕の恩人でもあるんです」
美砂子 「そうですね」
陽一 桜を眺めて
陽一 「でも 不思議だなぁー」
美砂子 「えっ?」
陽一 「父が豆千代のおばあちゃんとそんな事があったなんて・・・」
2人 立って歩き出す
美砂子 小さな声でテネシーワルツをハミングする
陽一 「そ その曲・・・」
美砂子 「えっ?」
陽一 「今の・・・」
美砂子 「あー この曲 母が良く口ずさんでいたんです 何だか癖になっちゃって・・・」
陽一 「そうですか・・・ 実は 父も母も 良く口ずさんでました」
美砂子 「へー そうだすか・・・ ホント 何か 不思議ですね」
2人 満開の桜並木を歩いて行く
○ 高瀬川に架かる小橋の上 六角付近 (昭和34年 晩秋 夜)
ネオンの七色の光が水面に揺れている
桜の葉が紅葉している
雅幸 しゃっくりをして疲れた様子で欄干に座っている
真由美(声)「わっ!」
雅幸 驚いて見上げる
真由美(地味な服装 黒髪) 微笑んでいる
雅幸 「ま まゆちゃん!」
真由美 「しゃっくり 止まった?」
雅幸 「・・・」
真由美 「どう?」
雅幸 「と 止まったみたい・・・」
真由美 「よかったぁー」
雅幸 「ど どうしたん?」
真由美 「どうしたんって?」
雅幸 「こ こんな時間に・・・」
真由美 「これ!」
真由美 背中に隠していたギターを差し出す
雅幸 驚いて
雅幸 「えっ?」
真由美 「はい!」
雅幸 「えっ? 何?」
真由美 「何って・・・ 見たら判るやろ ギターやん!」
雅幸 「う うん・・・」
真由美 「はい!」
真由美 再度 ギターを差し出す
雅幸 「ぼ 僕に?」
真由美 「うん! この間のお礼」
雅幸 「お礼?」
真由美 うなずいて
真由美 「ラッキーに入れてくれた お礼やん! はい!」
雅幸 「こんな高いもん ええのに・・・」
真由美 「もう! ええから受け取りいいや! 重たいやん!」
雅幸 「う うん ほんまに ええの?」
真由美 「ええから!」
雅幸 「うん・・・ ありがとう・・・」
雅幸 受け取り ギターを眺める
雅幸 「こ これ・・・」
真由美 微笑む
○ 高瀬川
ネオンの七色の光が水面に揺れている
○ 高瀬川に架かる小橋の上 六角付近
雅幸 真由美 並んで欄干に座っている
真由美 「あんな お父ちゃんと仲直りしてん」
雅幸 「そ そうなん よかったな」
真由美 「ボチボチやけど 又 店 開ける事になってんけどな・・」
雅幸 「けど・・・ 何?」
真由美 「お父ちゃん ちょっと 身体 壊してしもて立つのがやっとなんよ やっぱり
無理みたいやわぁー」
雅幸 「お父さん 病気?」
真由美 うなずく
雅幸 「そう・・・ せっかく 仲直りして 店 始めるのに残念やな」
真由美 「うん・・・ うちら ほんま 運ないわぁー」
雅幸 真由美 水面を見つめる
雅幸 「・・・」
真由美 「今のうちの稼ぎだけやったら お父ちゃんの薬代で精一杯や・・・もう 元に
戻るしかないんかなぁー」
雅幸 「元に戻るって?」
真由美 「あー うち 今 太秦の工場で 働いてんねん」
雅幸 「知ってる・・・」
真由美 「えっ?」
雅幸 「こないだ リンちゃんに聞いた」
真由美 「へー リンちゃんに?」
雅幸 「うん」
真由美 「あの子 横須賀ってゆうとこに行ってしもた GIのお父ちゃんと一緒に住むん
やて」
雅幸 「うん よかったやん お父ちゃん 見つかって」
真由美 「そやね・・・」
真由美 水面を見つめて
真由美 「うち また あんな仕事せんとあかんのかなぁー」
雅幸 真由美を見る
真由美 「うちの うちの人生って・・・」
真由美 目から涙が零れ落ちる
暫く 沈黙
雅幸 「よ よかったら・・・」
真由美 「えっ?」
雅幸 「よかったらな・・・」
真由美 不思議そうな顔をする
真由美 「・・・」
雅幸 「て 手伝おか?」
真由美 「えっ?」
雅幸 「み 店 手伝おか?」
真由美 驚いて
真由美 「えっ?」
雅幸 「お 俺 子供の時から 料理に興味あってん」
真由美 「・・・」
雅幸 「お お父さん 教えてくらはるかな?」
雅幸 微笑む
○ 高瀬川
ネオンの七色の光が水面に揺れている
○ 病院のロビー
美砂子 陽一 座っている
リカ エレベーターから出て来る
陽一 立つ
リカ 目に涙を溜めている
陽一 リカに近ずいて行き 慰める様に肩を抱く
リカ 陽一の胸の中で泣く
美砂子 それを見て
美砂子 「早紀 残念!」
○ 葬儀場
祭壇の前に棺が置いてある
久美 リカ 陽一 美砂子 棺の横に立っている
久美 「おチヨさん 綺麗な顔したはるわぁー」
リカ 泣く 陽一 リカの肩を抱く
久美 小さな声でテネシーワルツをハミングする
美砂子 陽一 驚いて久美を見る
職員 棺に蓋をしようとする
陽一 「あっ! ちょっと 待って下さい!」
陽一 上着のポケットから真珠のネックレスを出しチヨの首に掛ける
リカ 「陽一さん・・・ これは?」
陽一 微笑む
久美 顔に手を当てて 号泣して しゃがみ込む
陽一 チヨの胸にモノクロ写真を置く
職員 棺に蓋をする
リカ 美砂子 泣く
○ 葬儀場の玄関前
美砂子 陽一 霊柩車の前に数人の参列者と共に立っている
霊柩車(久美 リカ 乗っている) クラクションを鳴らして動き出す
美砂子 「チヨさん・・・ やっと 小鶴さんと雅幸さんに会えましたね」
霊柩車 桜並木を走って行く 無数の桜の花びらが舞う
美砂子(小声)テネシーワルツのハミング




