勇者な村人D 11話
ーーー小さい頃……大体6歳くらいの私と、少しお兄ちゃんな、珍しい黒髪に翡翠と真紅のオッドアイの少年。そして、その少年と私を遠くからニコニコと見つめる綺麗な女の子………
そう、これは記憶。これは夢。
過去の記憶であり、忘れたくない夢のような時間。
私は、シャーロット・S・ガーネット。この国……アルグ王国の次期王女……所謂お姫様である。
小さい頃の私は、それはもう……今の私が見て赤面するくらいやんちゃで、ガサツで、生意気で、我儘で……
全部、私が悪いのにお城の侍女達の噂話や、陰口に耐えられなくなって………
ある日、唐突に書き置きだけを残して家出した。
もう、この性格が治らないのだったら、死んでもいいかな……?
そう思って家出……いや、城出した。
ーーー唐突にだが、私達の出会いは偶然であり、必然だったと思う。
神のみぞ知るセカイ。そう、今となっては知る由もないが、恐らくきっと運命的なものであったに違いない。
あの泉のほとりでの出会いは……
☆
悪い事だと、ダメな事だと分かっていながら城を抜け出し、走って、走って、途中疲れて歩いて、歩いて……
いつの間にか日は沈み、辺りには夜の帳が下りていた。
星々が煌めく夜空を見上げながら、なんて綺麗なんだろう……と、同じくして私はなんて醜いのだろう。なんて考えたりもしていた。
ふと、あっちへ……森の方へ行けと、頭の中で声がした………気がする。
優しい、まるで母のような声だった。
疲れた身体に鞭打ちながら、数分歩いた先にあったのは綺麗な泉。
月や星々が水面に映り、なんとも言えない儚さを醸し出している。
私がほぅ……と、見惚れていると突然、左の方から爆発音と金切り声が聞こえてきた。
爆発音にビクッ!としたが、それ以上に……その金切り声は、本能的に、反射的に分かった。
ーーー魔物の断末魔だと。
魔物の断末魔?と、言うことはどんな魔物かは知らないが、魔物と闘っている人がいる。
怖い。万が一……どころか次の瞬間には死んでいるかもしれない。
流石に次期王女だ。それくらいの判断は出来る。
だが、次期王女でもあるが、子供でもある。
結局は怖いもの見たさというか……好奇心とやらにあっさりと負けてしまった。
音がする方に近づくと、突如閃光が視界を襲った。
しかし、それは攻撃的なものではなく、何故か泣きたくなるくらい優しい………暖かい光だった。
目が慣れるとまず、目に飛び込んできたのは大型の魔物。
ギガント……巨人種の一種だろうか?だとしても特徴である肌の色が確認出来ないほどに灼け爛れ、見るからに痛々しい。
「……おい」
そのギガント?の上から声が聞こえた。ーーー顔は暗くて見えないが威圧的な声。この時は、そんなこと考えられなかったが、今思えば危ないから何処かへ行けというニュアンスも含まれていたと思う。
「……なによ?」
脚や腕や顔は生傷だらけ。口からは荒々しい呼吸音。ただ、眼光と態度だけは上から目線な明らかに怪しい奴。
ーーーそれが、いまの私だった。
「なんでお前みたいなガキがこんな所にいるんだ?……しかも一人で。パパは?ママは?」
その言葉にイラッと来た。いや、なにに対してはか分からない。だけど、ムカついた。ただ、そのドス黒い感情だけが私の胸を焦がした。
それに吊られて、ついつい声を荒げてしまった。城のものが見れば、はしたないと注意するような、素の私を露見させた醜い感情。
「はぁ!?あんただってガキじゃない!パパ?ママ?はん!ママは死んだ!パパは仕事に忙しい!私は!私は…………」
だけど、抑えきれなかった。人が、目の前の誰かさん以外いないという開放感がいけなかった。どんどん私の感情が私の中に入ってくる。
まるで、自分が自分じゃないみたいに。ーーーふと、下を見る。私が、暗い所で一人ぽつんと、泣いていた。
傍らには、顔色を悪くした母様。それを見て、項垂れる父様とお医者様達。
ーーーああそうだ。ママは死んだ。パパは仕事に忙しい。遊び相手が欲しかったんだ。話を聞いてくれる相手が欲しかったんだ。ただ、それだけだったんだと、今更に分かってしまった。
………そう、私はーーー
「私は……………一人だ」
「………」
「私は………一人……なんだよぅ。お父様もお母様も城にいない……城の中の人間みんなの顔が見えない……分からない……まるで、灰色の仮面をつけたみたいに……誰の顔も……」
「…………」
「………ぐす」
「………だあぁ!もうっ!」
「………ぇぅ?」
「おい、フローラ!二人修行か三人修行になるけど、いいか!?」
「んぅ?元々君が一人でいた所に無理矢理我がお邪魔させてもらったのだ。君の一存で決めて貰っても構わないさ」
そう言って姿を現したのはつい、溜息をついてしまうほど美しい少女。
パールのような銀色の髪に、吸い込まれそうな蠱惑的な赤い瞳。口端からは八重歯がチラリと顔を覗かせている。
泉に映る幻想的な星々や月など相手にならない。
本当の意味での月とスッポンだ。
「やぁ、小さなお姫様。我はフローラ・シルバイト。気軽に、フレンドリーに、親しみを持ってフロちゃんとでも呼んでくれ給え。まあ………君達人間にとっては……魔族。の方が親しみ深いかも知れんが」
ーーーこれが、私達の出会いだった。
私と、永遠の少女と、破滅の運命を辿る少年との出会いと運命の物語。
悠久の時より語り継がれてきた数多くの物語の、その内のたった一つにしかならないお話。
王様と小粋なジョークを交えつつ、放課後ティータイムを嗜む訳でもなく、俺TUEEEEEがハールムを気付くお話でもない。
破壊の紋章と守護の紋章。
ーーーさあ、もう一人足りてない気もするが、取り敢えず役者は揃った。
ーーー今ここに、新たな戦記を始めよう。