第六章 伝言者③
「マイアさん」
コウタは語り掛ける。
「まず君たちの目的は何ですか?」
「………」
「ただの盗賊団じゃないのは分かっています。あの男の弟子を名乗る者がそんな小さなものに収まるはずがない」
「……まず私が聞きたいわ」
拘束されたまま、マイアが問う。
「あなたはレオスという人間とどういう関係なの? 《水妖星》と何か関係あるの?」
「……ああ。そっか」
そこで横でジェイクが呟く。
「そういやあんたらはリノ嬢ちゃんの素性は知ってんだな」
双眸を細める。
「あの魔獣使いの兄ちゃんが知っていたからな」
「リノが言っていたあの男に似た人物か」
コウタがジェイクに視線を向けた。
「一番の要注意人物だね。けど、予想は出来るよ」
コウタはあごに手を当てて呟く。
「多分、あの男の細胞を使った複製体か何かだと思う。あの男は死ぬはずの重傷をからも復活したことがある。半分以上人間を辞めていたから」
「……それは興味深い話ね」
マイアが表情を鋭くして話に加わる。
「ザーラの想い人は何なの? 私はそこから知りたいわ」
「本当の意味での人でなしだよ」
コウタは率直に言う。辛辣でもあるが、紛れもないコウタの本心だ。
「ボクは三度あの男と遭遇し、二度あの男と戦っている。一度目は殺し損ねた。結果、あの男は若返ったんだ」
「………は?」
流石にマイアも眉をひそめた。コウタは微かに嘆息する。
「出会った時の容姿は四十代半ばだった。けど、実年齢はもっと上だ。薬物で肉体を造り替えていたんだ。ボクが致命傷に近い重傷を負わせた結果、修復のために細胞を活性化させて若返った」
一拍おいて、
「最後に会った時のあの男の姿は十代後半。ボクと同じぐらいの姿だった」
「……にわかに信じがたい話ね」
マイアはより一層眉をひそめた。
「その人物は人間なの? 怪物のように聞こえるけど?」
「君はラゴウ=ホオズキのことも知っているんだよね?」
コウタの問いかけにマイアは息を呑む。
暴虐の魔人と呼ばれる男だ。
マイア自身が見たのは一度だけ。
戦場に紛れ込んで、とある要人の暗殺を行おうとした時だ。
だが、その依頼は失敗に終わった。
彼女が手を下す前に魔人によって護衛ごと根こそぎ殺されたからだ。
「あの男はラゴウの同胞だ。怪物だよ」
淡々とした声でコウタは言う。
「……そう」
コウタの雰囲気に、マイアも嘘ではないと感じた。
「それであなたとレオスはどういう関係なの? 二度も戦ったということは、あなたたちは敵対関係なの?」
「敵だよ」コウタは即答する。
「そこに一切の嘘はない。あの男はボクから故郷を奪った仇だ」
「……え?」
マイアは軽く目を剥いた。
「ボクの故郷は小さな村だった。ボクが八歳の時、あの男はボクと、ボクの兄さんと義姉さん以外の村人を皆殺しにした。父さんも母さんもだ」
「………」
マイアは沈黙した。
ジェイクと、この場にいる零号とサザンXも黙り込んでいる。
「ボクはあの男を憎んでいる。だからこそあの男の居場所も知っている」
コウタは真っ直ぐマイアを見据えた。
「それを教えてもいい。ただし条件が二つある」
「……何かしら?」
マイアの反応に、コウタは瞳を細めた。
そして右の拳を前に出し、指を一本立てた。
「一つは君たちの目的だ。何が狙いなのかを聞きたい」
「………」
マイアは答えない。コウタは二本目の指を立てた。
「もう一つはこの話を君の主人であるザーラに伝えること。ボクはもう一度、彼女と会ってみたい。魔獣使いの男ともだ」
一拍おいて、コウタは言う。
「その時に、あの男に関して話そう」
マイアは沈黙を続けていた。
ややあって、
「……分かったわ」小さく頷いた。
「ザーラには伝える。けど、目的は言えない。私はザーラの刃よ。目的はザーラが決めること。私は全容までは把握していない」
「上の目的は知らないってか。まあ、よくある話か。別に嘘でもなさそうだな。コウタ。どうするよ?」
ジェイクがコウタに尋ねると、
「うん。予定通り彼女には伝言を頼むよ」
コウタはジェイクを見やり、小さく頷いた。
「結局、現時点では彼女の名前ぐらいしか聞き出せなかったけど、ボクの話した内容はさほど大した意味はない。あの男をよく知る人間なら尚更だ」
コウタは改めてマイアに視線を向ける。
「だから伝言を頼むよ。会談の時間は二日後の夜の八時。場所は――」
コウタは一瞬迷いながらも、かつてリーゼに案内された別荘を指定した。
ここはサザン伯爵邸だ。
そのためか、思いついたのはサザン伯爵と因縁深い場所だった。
「……あの場所か」
ジェイクも苦笑を浮かべた。
マイアにはコウタたちの心情は分からないが、「分かったわ」と頷いた。
それに合わせて、零号がマイアの拘束を解いた。
マイアは自分の腕をさすりつつ、
「……約束は守るわ」
そう告げて姿を消した。
残されたのはコウタとジェイク。零号とサザンXだった。
「……やれやれ」
しばらく経ってから、ジィエクが苦笑を浮かべた。
「あの姉ちゃん、約束を守ると思うか?」
「守るよ」コウタは即答する。
「これに興味を抱かないようなら、あの男の弟子とは言えないから」
「……まあ、そうだな」
ジェイクは、ふゥっと息を吐いた。
「忙しくなるな。けど、これって明日、リノ嬢ちゃんたちにも話すんだろ? 伯爵さまの方にも。滅茶くちゃ切り出しにくくないか?」
「ははは……」
コウタは乾いた笑みを見せた。
そして、
「うん。ボクもそれを今一番悩んでいる」
そんなことを言うのであった。




