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悪竜の騎士とゴーレム姫【第16部更新中!】  作者: 雨宮ソウスケ
第16部

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第三章 怨敵の残影②

「さて。フェイの奴は上手く誘い出せるかね」


 森の中。木々が少し開けた場所でザーラは腕を組んで呟いた。隣には護衛として短剣の柄を握るツルギの姿がある。

 しかし、それ以外の団員の姿はない。それぞれが近くの木陰で息をひそめている。


「……参謀殿が誘い出せない場合はいかにされますか?」


 と、ツルギがザーラに尋ねた。ザーラは「はは」と苦笑して、


「誘い出すこと自体は心配してないよ。ただフェイは男前なんだけど少しばかり不愛想だからね。お姫さまのご機嫌を損ねてないか気にしてんだよ」


「……そうですか」


 ツルギは一瞬だけ複雑な表情を見せた。

 ザーラが男性も女性も問わず愛せる人物なのは知っているが、兵団唯一の男性団員にはやはりまだ思うところがあった。ある意味で新参の副団長以上にだ。あのフェイという男が、自分も知らないザーラの一面を知っていると思うと猶更だった。これはきっと団員たち全員が思っていることだろう。


(……いかんな)


 ツルギは内心で嘆息した。

 嫉妬のような感情は剣を鈍らせる。

 これから会うのは相当な強者だと聞いていた。だからこそ、対人最強である自分がザーラの傍にいるのだ。改めて短剣の柄を強く握る。

 ややあって、森の奥からフェイが現れた。

 少し遅れてその後ろには一人の少女が追従していた。

 脚には長靴(ブーツ)。蒼いワンピースドレスを纏った少女だった。

 小柄ながらもそのスタイルは抜群。だが、それ以上に美貌が凄まじい。魔性という言葉が思い浮かぶほどだ。ツルギは思わず息を呑み、ザーラは「ひゅう」と口笛を吹いていた。


「あんたが《水妖星》さん?」


「その称号はすでに父上に返還したがな」


 ザーラの問いかけに美貌の少女――リノはそう答えた。


「ふむ」


 リノはザーラとツルギを順に見やり、視線をザーラに定めた。


「そなたがザーラか? 盗賊団の女頭目か?」


「ああ。そうだよ」


 ザーラは腕を組んだまま首肯する。


「まあ、その盗賊団もあんたら完全に潰されたみたいだけどね」


「ふん。ここにおるのは盗賊団などではないということか?」


 言って、リノはフェイに目をやり、続けて周辺の森にも目をやった。

 ネコのように、すうっと目を細めて、


「潜んでおるのは六、いや七人か。一人は気配を掴みづらいの。暗殺者か? いずれにせよなかなかの粒ぞろいじゃ。確かに盗賊団のレベルではないのう」


「へえ。凄いね」


 ザーラは驚いた顔をする。


「マイアの隠形なんて達人レベルなのにそれにも気づいたのかい?」


「侮るな。わらわは闇の寵児ぞ」リノは腕を組んで不敵に笑う。


「そなたの師――《木妖星》レオス=ボーダーのかつての同胞の一人じゃ。レオスを知るのならばわらわの力量も察することじゃな」


「……へえ」


 リノの言葉にザーラは少し神妙な表情を見せた。


師匠(ジジイ)の元同胞か。そりゃあ侮れないね。つうか師匠(ジジイ)の二つ名なんて初めて聞いたよ」


「《木妖星》は厳密に言えば二つ名ではないがの。どちらかと言えば役職じゃ。父上を守る九つの星の名じゃな。さて」


 リノは再び周囲に目をやった。


「位置を変えようとしても無駄じゃ。大人しく出て参れ」


「ああ~、そうだね」


 ザーラは片手を上げた。


「みんな。出ておいて。不意打ちとかは意味がなさそうだ」


 そう告げると、木々の間からパメラたちが姿を現した。そこには合流したエリスの姿もある。暗殺者であるマイアだけは少し躊躇していたが、最後に姿を現した。


「ふむ。これはまた美女ばかりじゃのう」


 と、全員の顔を憶えつつ、リノが率直な感想を告げた。


「容姿だけで選んだ訳じゃないけどね」


 ザーラはポリポリと頬を掻いた。


「いずれにせよ全員があたしの女さ。ちなみにフェイはあたしの男だ」


「なんじゃ? そなたのハーレム兵団ということか?」


 リノが目を瞬かせた。


「しかもいわゆる両刀使いか。随分と女側に偏っておるようじゃが……」


「まあ、あたしは男勝りな性格をしてるからね」


「……いや。わらわにとってそなたの印象はかなり乙女なのじゃが」


「……はあ? なんで会ったばかりのあんたが……」


 そこでザーラはフェイの方に目をやった。

 フェイはかぶりを振って「すまない」と告げて、日記を外套から取り出した。


「無事に回収はしたが一歩遅かったようだ。姫君には読まれてしまった」


「フェイィ……」少し拗ねたように頬を膨らませるザーラ。


 それからブスッとした表情でリノを睨んだ。


「他人の日記を盗み読みするなんていい趣味してんね。あんた」


「敵対勢力の情報収集じゃ。文句など言うでない」


 リノは呆れたような口調で返した。


「ともあれ、おかげでそなたの心情は知っておる。ところで」


 リノは密かに飛び込む機会を計っているエリスたちを一瞥して、


「察するにこやつらはそなたの私設兵団ということじゃな。名は何という?」


「……獅子兵団(レオスガード)と名付けたよ」


 ぶすっとした表情のまま、ザーラはそう告げた。リノは大きく嘆息した。


「流石に直球すぎるぞ。やはりそなたは乙女のようじゃな」


「うっさいね」


 ザーラは不機嫌だった。が、そこでにんまりと笑う。


「ああ、そうだ。お姫さん、どうだい? なんならあんたも、あたしの兵団に加えてやってもいいんだよ」


「ご免じゃな」リノは即答した。


「わらわはすでに売買済みじゃ。この身と心はすでに余すことなく悪竜のモノ。もはやわらわの心にいかなる者も入り込む余地はない。そもそもじゃ」


 リノは双眸を細めた。


「レオスの弟子。レオスの名を冠する兵団。そしてレオスの面影を持つ者。はっきり言ってそなたらはわらわの敵以外何者でもないぞ」


 そう断言する。

 初対面でありながら、この明確な敵対宣言にはザーラも怪訝な顔をした。

 少なくともこの少女に対してだけは、敵意を見せていないのにも関わらずだ。

 エリスたちも少し戸惑い、フェイもフードの下で微かに眉をひそめた。


「本題に入るぞ」


 一方、リノはいよいよ話を切り出すのであった。


「そなたらの狙いは何じゃ? やはりコウタの命なのか?」


 ――と。







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