第二章 煌めく心を胸に②
月と星明りだけが照らす、薄暗い森の中。
そこには今、七人の女性がいた。
パメラたち、ザーラの兵団の面々だ。先ほどまで移動のために鎧機兵に乗っていたが、今は徒歩だ。ザーラとの合流地点が近いからだ。
「けど、国盗りなんてザーラさんも大胆なことを考えるっすね」
腕を頭の後ろに組んでラックが言う。
「私語は慎め」
そんなラックを、隣を歩くツルギが警告した。
「ザーラの連絡では強力な敵がいるのだろう? 恐らく始末できるとの話だが、噂に聞く白金仮面とやらは健在だそうだ。どこに潜んでいるか分からんぞ」
「まあ、そうっすけど」
ラックはツルギに視線を向けてから、前を進むマイアの背中に目をやった。
「マイアさんがいるならそこは大丈夫っしょ。すぐに気づいてくれるっすよ」
「まあ、私たちもいるしね」「ねえ~」
と、ラックとツルギの後を進むレミとラミの姉妹が顔を見合わせて言う。
「『敵意』があればすぐに気づくから安心して」「ツルギは生真面目すぎィ」
「まあ、それはツルギさんの良いところでしょう」
ポン、と殿を歩くルシアが手を叩いた。
「私たちにはどうにも大雑把なところもありますし。ツルギさんやマイアさんのような生真面目さは必要ですよ」
「ええ。生真面目なのは悪いことではありません」
と、マイアと並んで先頭を進むパメラが口を開いた。
「ツルギの言葉は正しいです。鎧機兵での襲撃も全くあり得ないとは言い切れません。各自警戒は怠らないことです」
「「「は~い」」」
レミとラミ、ラックがそんな返事をした。
「警戒はすべきことだけど」
そんな中、マイアがおもむろに口を開いた。
「その前に到着したわ」
そう告げる。全員が彼女に注目した。
マイアは無言で森の奥を指差した。
森の奥からザッザッザと足音が聞こえてくる。
「……よう」
そうして一人の人物が現れた。
ザーラである。全員が顔色を喜びに変えた。
冷静なパメラやマイア、ツルギもだ。ほんのわずかにだが笑みを零している。
「……ザーラ」
パメラが前に進み、ザーラの前で片膝をついた。
「獅子兵団の七名。ただいま到着いたしました」
「おう。よく来てくれたね。あたしの頼もしくも可愛い女たち」
ザーラは片手を腰に、ニカっと笑った。
「「ザーラお姉さま!」」
すると、レミとラミの姉妹が飛び出した。
レミはザーラの首に、ラミは腰にしがみつく。
「ははっ! あんたらは元気だねえ!」
ザーラは二人の頭を、くしゃくしゃと掻きまわした。
レミとラミは満面の笑みだ。
「ああ~! ずるいっっす! ウチもウチもっす!」
言って、ラックもザーラに抱き着いた。
レミやラミを抱き挟む勢いだ。双子は「「むぎゅ!」」と呻いた。一方、ザーラは「アハハ!」と笑ってラックの頭もわしゃわしゃと撫でた。
「あらら」ルシアがクスクス笑う。
「まるで大型犬に懐かれているようですわね。ザーラお姉さま」
「まあ、あんたらに会うのも一月半ぶりぐらいだしね」
三人の背中をポンポンと叩いて離しつつ、ザーラが言う。
「ラックたちだけじゃなくて、あんたらも寂しかったろ。後で全員可愛がってやるよ。けど、その前にさ」
ザーラは隻眼を細めた。
「一仕事してもらうよ。まずはあたしの参謀と副団長に会ってもらうよ」
「うええ、それには異論があるっすよ」
と、ラックが頭の後ろ手を回して頬を膨らませた。
「だって、二人とも新参者なんすよね? ウチとしては少なくとも副団長にはパメラさんがいいと思うんすよ」
「ああ。そこらへんは後で意見を聞くよ」
ザーラはこつんとラックの額を指先で突いた。
「ただ、これだけは理解してくれ。あいつらもあたしが選んだ相手だってことをさ。あんたらにも負けないぐらい、あたしはあいつらを信じてんだよ」
その言葉に全員が沈黙する。
ラックはもちろん、レミもラミも真剣な表情だ。
ややあって、
「ザーラの言う通りです」
七人を代表するようにパメラが口を開いた。
「私たちはザーラの兵団です。ザーラが信じた者は私たちも信じるべきです」
実質的なリーダーの言葉に、兵団のメンバーは頷いた。
「はは。ありがとよ。パメラ」
ザーラはパメラに近づき、ポンと妹分の頭に手を置いた。
パメラは無表情ながらも少し恥ずかしそうに、こくんと頷いた。
「フェイの奴は常に冷静沈着だ。頭も切れる。だから参謀だ。エリスは――」
一呼吸入れて、ザーラは言う。
「現役の騎士だった。腕もあんたらにも劣らない。何より全体を見通す戦術眼は本物だ。二人ともまだあんたらとは信頼関係も築けてねえから不満なのは分かるが」
ザーラは両手を膝につけて、全員に頭を下げた。
「ここはあたしを信じてくれ。あいつらは本当に凄い奴らなんだ」
「……おやめください。我が君。ザーラ」
すると、ツルギが一歩前に進み出た。
「あなたを信じていない者など、ここには一人もおりません」
「まあ、ウチはちょっと拗ねただけっすよ」
ラックが少し気まずそうに笑った。
「何だかんだでこれだけ個性が違うのにウチらって仲がいいっすからね。ザーラさんの審美眼は疑ってもないっすよ」
「うん! レミも!」「うん! ラミも!」
双子姉妹も元気よく頷いた。
「ええ。すべてはお姉さまの望むままに」
と、ルシアが微笑んで言う。
「……私は別にどうでもいい」
一方、顔を逸らして、マイアも口を開く。
「私がいればザーラの敵は始末できるから」
「我々の意思は一つです」
パメラが最後に告げる。
「ザーラ。どうか我々にご命令を」
「……ありがとう」
ザーラは顔を上げて、ふっと笑った。
「全員、今すぐ抱いてやりたいところだけど、今は時間がねえ」
ザーラは表情を改めて、兵団全員にこう告げる。
「まずはこれからフェイたちに会ってもらう。そんですぐに作戦会議と行くよ」




