第三章8 北朝鮮崩壊
三か月後
北朝鮮中央政府は、事実上機能しなくなった。
地方政府が独自に行政を行う。
軍部隊は地域単位で活動する。
国際機関が人道支援を行う。
周辺国が国境を管理する。
北朝鮮という国家の名前は残っている。
しかし、その国家を一つにまとめていた中央権力は戻らない。
世界では次第に、
「北朝鮮崩壊」
という言葉が使われ始めた。
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一年後
国際社会による暫定統治機構が作られた。
北朝鮮の各地域では住民組織が形成された。
韓国政府は統一問題を議論する。
中国は国境の安定を求める。
日本は拉致問題と人道支援、安全保障上の問題に対応する。
アメリカは大量破壊兵器関連施設の安全確保に関与する。
ロシアも独自の主張をする。
そして国連は、
「北朝鮮という国家を今後どうするのか」
という、人類史上前例のない問題に直面する。
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超越者への質問として
ある日、国連総会で一人の代表が超越者に尋ねた。
「あなたは北朝鮮を滅ぼしたのですか?」
世界中が答えを待った。
超越者は答えた。
『いいえ』
『私は北朝鮮を滅ぼしていない』
『私は試練を与えただけだ』
代表は続けた。
「しかし、あなたの試練によって北朝鮮政府は崩壊しました」
『そうだ』
「ならば、あなたが滅ぼしたのと同じでは?」
長い沈黙。
そして超越者は答えた。
『あなたたちは国家を、政府と同じものだと考えているのか?』
議場が静まり返った。
『政府がなくなれば、人間は消えるのか?』
『国民は消えるのか?』
『文化は消えるのか?』
『土地は消えるのか?』
誰も答えられない。
『私は国家を滅ぼしていない』
『あなたたちが、その後をどうするかを見ている』
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その言葉
世界中の政治家が、その言葉を聞いた。
そして初めて理解する。
超越者は、
人類の政治を代行するつもりがない。
北朝鮮を滅ぼしたわけでもない。
救ったわけでもない。
支配したわけでもない。
ただ、
一つの境界線を越えた者に試練を与えた。
そして、その結果として生まれた問題を、
人類自身に返した。
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十年後
地図の上から、
「朝鮮民主主義人民共和国」
という名前は消えていた。
そこには新しい政治体制が存在していた。
どのような国家になるかは、
北朝鮮の人々と周辺国、そして国際社会が長い時間をかけて決めた。
歴史家たちは、この事件を様々な名前で呼んだ。
北朝鮮崩壊。
超越者事件。
最初の試練。
そして、
人類史上初の超越者判例。
しかし超越者自身は、その出来事についてほとんど語らなかった。
ある若い記者が尋ねた。
「北朝鮮が消滅したことを、あなたはどう思いますか?」
超越者は答えた。
『私は北朝鮮を消滅させていない。』
『人類が一つの国家を失い、新しい国家を作った。』
『それだけだ。』
記者はさらに尋ねた。
「では、あなたは何を望んでいるのですか?」
しばらく沈黙があった。
そして超越者は答えた。
『人類が、私なしでも自分たちの問題を解決できることを望んでいる。』
世界中が静まり返った。
その言葉は、
北朝鮮にとっては遅すぎる警告だった。
しかし人類全体にとっては、
これから始まる長い時代への、
最初の教訓だった。




