レティシアと芸術の秋、未遂
秋は何をするにも良い季節だと言われている。
他の星や街よりも季節のメリハリが少ない星都でもやっぱりそうだと思う。秋は冷えたビールも温かいラム入りコーヒーもどちらも美味しいのだ。
「困ったわ」
そりゃ悩むでしょう。私自身が芸術なんだから。鏡で自分を見てウットリしていたら、ちょっと怖い人だろう。私の場合、ああ仕方ないねとか思われるかもしれないけど。……突っ込み役がいないのでこの辺りでやめないとね。
芸術というのは何も美しい物を見るだけではない。日常のあらゆる物の中に美は存在し、それを楽しむことこそが芸術鑑賞というものだ。
私の考える、美とは正反対のもの。それはヒトデだ。
彼らの中に少しでも美を見いだせたのなら、私たちは友達になれるだろう。……ごめん友達はイヤだ。
「そうだ、海へ行こう!」
ぱぱっと着替えて、お出かけする。
海までは歩いて2時間ほど。だから普通の人は歩かない。便利なバスがあるのだから。
その便利なコミュニティバスに何度も追い抜かれて、街のお店のテイクアウトをほおばりながら、海に着いた。
真夏に比べると風もやや強くて、波も立っている。海水浴にはもう寒いんだろう、遊びに来ている人はあんまりいない。今日はここで気の済むまでヒトデと語り合うのだ。
「ヒトデ~出ておいで~」
波打ち際に立ち、目を凝らして海の底を見る。
「ヒトデ殿~」「ヒトデさ~ん」
奴らが人語を解するはずもない。これは単なる、そう、勢い付けだ。
波で砂が巻き上げられて、そもそも底なんて見えない。
イメージでは、ヒトデは海の底。砂地で、貝なんかが茹でられたみたいに口を開けていて、海草がひらひら。そんなところにポテッと落ちているんだ。
「今日は無理だな……」
ん?もう一つイメージが浮かんできた。岩場の水たまり。そうだ、引き潮で逃げ遅れたヒトデとかヒトデが、避難しているんだ。奴らは水中、私は外。息を止めたり無理をしないで観察することができる。理想じゃないですか。
私は先に見える岩場へ向かった。
「ヒトデ~出ておいで~」
岩場は危険。角が取れて丸くなった岩は滑るし、角が鋭くとがって包丁みたいになっている岩は切れるんだから。どこから水が出てくるかわからないエリアもある。
「ヒトデ殿~」「ヒトデさ~ん」
秋の昼下がり。夏のイメージで出てきたけど、ヒトデ探し程度では体も温まらない。
「冷えてきたな……」
口に出してしまうとほぼ負けだ。ヒトデ一色だった脳内に暖かい食べ物の映像が侵食してくる。
「魚……干物で日本酒か、フライでビールか……ムニエルでワインもいい……」
気が付けば、海から離れて街に向かって歩いていた。
結局は目についた屋台で、小エビの素揚げでビール。
「お姉さん、ODENとかもあるけどいいのかい?」
「今日はね、魚料理ではしごすんの。ここは栄光のスタート地点よ!」
「おお、なんか知らんが、ほどほどにな」
冷たいビールで体も冷えた。向こうに見えるお店で、つみれ汁とかないかしら?




