レティシアと残暑の午後
ハァハァ……
私は人気の全くない乾いた街の道路を走っていた。
「ハァ……どこが、隠れるところ……」
どこかで息を整えなけりゃ。体力だけは人一倍あると自負しているが、「夢の中」では上手く走ることができない。そう思うとさらに走り辛くなる。
「どこか……」
速く隠れないと、あいつが……。
レティシアは来た道の向こう地平線を見る。
ヤツが来た。
巨大なハムだ。
さっき見たときよりもさらに分厚くなってる。
見た目からの想像とは違い、素早く迫ってくる。
アレではダメだ。あれでは……。
「挟み込めないでしょっ!」
私は手にしていたホットサンドのプレートで、分厚いハムの横面をぶん殴った。
チャンスだ。ぐったりしたハムをプレートに乗せ、腰のホルスターからスライスチーズを引っぱり出す。
そして渾身の力をもって、二枚のプレートでハムを挟み込む。ハムはやられまいと必死で暴れる。二枚のプレートについてあるロックを掛ければ私の勝ちだ。だが抵抗するハムはどんどん分厚くなり、私の握力ではもう押さえきれない。
こうなれば、魔法だ!魔力充填、術式高速展開!
「お、美味しくな~れ!モエモエ~」
あと一節で魔法は完成する。お兄ちゃん私に力をちょうだい!
「キュンっ♥」
魔法の発動と同時にホットサンドプレートが光に包まれた。
厚切りハムは本来の薄さに戻り、パンの焦げ目も美しいハムチーズサンドが完成した。
残りあと七体!
ハッ!寝てた……。
何だっけ。そうだカタログ見てたんだ。
ホットサンドのプレートが欲しくてね。どれも良くてさ~。あとなんかこう、ブン殴れそうなヤツ。何でだろ。
「あ、起きた~」
「マリー、ゴメン。人んちで寝てしまった」
「良いけどさ。ちょっと疲れてるんじゃない?」
「だね……男の子が生活の範囲に入ってくるって疲れるね。わたしもう、マリアンヌちゃんでいいや」
お茶を持ってきてくれたマリーの膝にダイブする。
撫でろ。
「ギルバート君は良い奴みたいだし、ぞんざいに扱うのも、なんかね」
おお、マリーの信頼を勝ち取ったようだぞ、ギル。
「あの、ジャーヴィ君もね、悪いヤツじゃないんだろうけどね、ちょっと子供かな?ギルバート君と比べると分が悪いね」
「好きなんだろうかね……私は」
マリーはそれには答えず、ただ優しく髪を撫でてくれた。
そろそろ、ソフィアが来る時間か。
マリーもわたしを膝枕したままソファで寝てしまっている。
「マリー……準備しよ」
「ああ、もう時間か。ちょっと髪してくる……」
私の髪はマリーのおかげで艶々だけどね。
夏の残りが厳しい。今日はみんなで涼しいお昼ご飯を食べに行こうと約束していた。
マリママにお水をもらって来よう。
テーブルのお茶セットをキッチンに返すために立ち上がった。




