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その後、マリ・エル・ハヤセとトーネ・ハーゲンは俺の前に姿を現さなくなった。
好意的に捉えるなら、二人は俺をその組織のリーダーに会わせる算段をしているのか
もしくは俺からの連絡を待っている。
否定的に捉えるなら、俺の真意を見抜かれたか、相手からも「危険人物」と見做されたか。
「答え合わせを焦るな。」
と殆どの年長者が俺の顔を見るなり言った。
俺は何も言っていないのに、だ。
「それだけ綸が働いていたって皆知ってるからよ。」
と箱田佐代は言うのだが、彼女は今回の作戦に対し最初から今でもずっと不満を漏らす。
箱田佐代自身はおそらく認めないだろうが
それは俺に対する不信感がそうさせているのだと思う。
俺は他の誰よりも「橘家との関わり」が薄い。
この街で産まれ育った皆とは根本的な理念だとか方針だとかに違いがある。
俺にはこの街にルーツが無い。
同じく余所者でる箱田佐代だからこその疑念。
「自分だったら」
俺が「悪魔のような」連中に賛同し協力しないなんて言い切れる筈がない。
二度目の文化祭。
今回ばかりは学校行事に参加してクラスメイトと騒ぐ気分にはなれなかった。
有難かったのは「部活単位」での活動なので
帰宅部の俺は参加義務が生じなかった事。
だが橘佳純達は違う。
彼女達には高2の文化祭を謳歌する義務がある。
「前に王女様来てた時に皆でバンドやったって言ってたよな。」
「いやいや誰か楽器出来るのかよ。」
「リコーダーかピアニカなら。」
「俺ギター弾ける。」
「じゃあギター漫談でもしとけ。」
「何もしないで適当にブラブラしてる?」
「祭りは当事者にならないと面白くないよ。」
「折角ニコラが留学してるんだから何かしようよ。」
等々グダグダとただただ無駄に問答を繰り返す。
魔女蓮はマジックショーをしたと聞いた。
風を起こしたり、催眠術を掛けたり、空中浮遊をしたりと
とても盛り上がったらしい。
「誰か手品とか出来るん?」
「綸君魔法教わってるじゃない。何かできないの?」
「は?何それ初めて聞いた。お前魔法使いになるの?」
いや、魔女から少し習っているだけだ。魔法と呼べる程のモノじゃない。
「空手やって魔法習ってって忙しい奴。」
「綸様は週末にお姉様と、火曜日には私とも修練していますよ。」
「何それ。何だそれ。お前アレだろ。Mなんだろ。」
痛い目に合いたくないからやっているだけだ。
「こいつ頭オカシイって。」
津久田伴の指摘に
「そうね。ちょっとオカシイわね。」
「私もそう思う。」
「失礼ながら私も同意します。」
「右に同じ。」
失礼な奴らだ。
「屋台でもしたら?だって。」
宮田柚は突然文化祭での催し物について提案した。
「杏姉が現役の時クラスで屋台3件経営して相当儲かったらしい。」
「都合イイ事にうちにはベテランいるじゃん。」
お前の事か宮田柚。
「あ?お前だお前。」
俺はベテランではない。
「そう言えばお祭りの時って必ず屋台にいるわね。」
「だな。俺も何度も見てる。」
「聞いたら店から道具から一式安く貸してくれるって。」
確認済みなのか。
「ガッポリ稼いで小遣いの足しにしようぜ。」
「学校に取られるんじゃないの?」
「フフン。それも確認済みだ。綸。綴さんに聞いてみ。」
言われるまま綴さんに聞くと
「当時は梢ちゃんがいろいろ画策してね。」
「確かに結構儲かったわよ。」
会計責任者は綴さんだと伺いましたが。
「まあ実行委員会もしていたからね。裏道はいくらでもあるわよ。」
悪人なんじゃなかろうか。
「正当な対価を受け取っただけよ。」
「学校の行事だからって教師の飲み代にされるなんてそれこそ搾取よ。」
まあまあ判りました。
俺にも一口乗らせてください。
屋台や道具の手配は宮田柚が行う。
俺達も三店舗の経営。それ以上は人員的に厳しい。
俺と津久田伴が担当した「焼きそば」も
橘佳純と滝沢伊紀の「クレープ」もそこそこ好評だったが
何よりもニコラ・ルナプリアと箱田佐代の担当した「チョコバナナ」がダントツだった。
「殆どがニコラ目当てよっ。」
箱田佐代が憤っている。
「「この後俺と一緒に文化祭回りませんか?」って何回言われていたか。」
「私も横にいるっつーのに誰も誘わないとか失礼でしょっ。」
結果としてはまずまずの売上だった。
綴さんが親切丁寧に二重帳簿の付け方(犯罪じゃないのか?)をレクチャーし
店舗・機材等諸々の設備・備品、
食材やパック等の消耗品の費用、
そして学校への「みかじめ料」、
それらを全て差し引いても
全員が「ほくほく」する程度には儲かった。




