070
市野萱友維に経過を報告すると彼女も綴さんと同じような事を言った。
「うん。お前もうアイツらと関わるな。メールも無視しろ。」
心配ですか?
「そりゃそうだろ。理緒に話して対応決めるから。」
判りましたお姉さま。とは言えません。
「おい。」
駄目です。最後まで関わらせてください。
「よく考えろ。お前が利用されて事態が進展して。」
「アイツらの思惑通りお前が使い捨てにされたらどうするんだ。」
「私達はともかく、他の継ぐ者達からは裏切り者のレッテルを貼られるんだぞ。」
現状既に相当落ちぶれている設定ではありませんか?
「だからこそプナイリンナ家の後盾を最初に付けたんだ。」
プナイリンナ家、魔女、そして橘家。
これ以上の後盾はない。怖いものなんてない。
「ったく。」
それとも、俺がソイツらに取り込まれる事が心配ですか?
「冗談でもそんな事言うなバカっ。」
市野萱友維が本気で怒ったのは、
今までとそしてこれからの長い付き合いの中で最初で最後だった。
「まさか綴さんにも同じ質問してないだろうな。」
まさか。貴女だけですよ。
「なっ何だそれ。」
市野萱友維はすぐに兄の御厨理緒に連絡を入れる。
そして彼も俺がこれ以上関わるのを止めさせようとしたが
市野萱友維は兄を説得し、俺はこのまま関わりを保ち続ける事が決まった。
1つ聞きたかったのですが。
「うん?知っている事なら答えてやる。」
魔女の、魔女達の本当の目的って何ですか?
御厨理緒の個人的な感情だけではありませんよね?
「いや個人的な感情だよ。」
でも橘佳純の件だけで
「うん。勿論それだけじゃない。でも結局理緒の都合だから。」
魔女達が躍起になって「悪魔のような奴ら」を追うのは
御厨理緒と橘佳純との関係だけでは無い。
むしろそれは二次的な「言い訳」にすぎない。
魔女はその名の通り「悪魔と契約を交わした者」と称された時期がとても長い。
日本には医師であったり相談役である意味を持つ「本来の」呼び名は無い。
魔女は「魔女」としてのみ存在しいている。
ファンタジーの世界における「魔女」は
元々存在していた彼女達の悪しき部分のみが表現されたに過ぎない。
と、本人達は主張している。
そのイメージを植え付ける元となった連中こそが
今回の「悪魔のような」と呼ばれる組織だと言うのだ。
「いや私もそれはどうかと思うけど。」
「そいつらと敵対すれば魔女はいい奴だってなるじゃん。」
つまり魔女のイメージアップ大作戦のダシにされている。と。
「魔女はさ、お前達のような血統による種族の継ぐ者と違って」
「あくまでもただの人なわけ。」
「昔、チェコだかベルギーだかで聞いた話だと」
「魔女ってのは医者やら祈祷師やら相談役やらの他に」
「どうもヴァンパイアとかライカンに対抗する手段とか方法とか」
「その技術を高めようともしていたらしいんだ。」
それは両者の脅威に対する措置ではなく、
共存のための力の均衡を図った結果だと言った。
だがそれが皮肉にも魔女を魔女たらしめる要因となる。
種族に関わらず、力を有した者が辿る道なのだろう。
センドゥ・ロゼがそうしたように、過去にも同様の事が何十回何百回と。
変わらず共生なり共存していたなら
ヴァンパイアも狼男も、今ほど「化け物扱い」されていなかったのだろうか。
「何の巡り会わせか知らないけど。」
「今回の件でお前ほどの適任者はいないだろうな。」
「言ってる事はマトモじゃね?」
宮田柚は俺が不機嫌な理由がイマイチ判らないと言った。
数年前に魔女達が立ち上げた「委員会」と呼ばれる組織がある。
魔女への迫害を止めさせようと、迫害した側の連中の組織を乗っ取った。
宮田柚は橘佳純からその経緯を聞いているからこその疑問。
だがもう一度考えてくれ。
その「委員会」は魔女(に限らず)への差別を抑止する組織であると同時に
対象者自身の監視と抑止をも行っている。
「そうか。いじめられっ子にもいじめっ子にもならないような組織なんだな?」
だが今回の連中は自分達の権利のみを主張している。
「でもお前が会ったその二人のヴァンパイアっていじめられっ子側なんだろ?」
「権利を主張するのは当たり前じゃね?」
勿論だ。だからこそおかしい。
「何で?」
どうして「委員会」とは別の組織化を図る?
しかもその中でヴァンハイアのコミュニティを作る理由は?
現在の委員会は魔女が主導し、
プナイリンナ家を中心とした欧州のヴァンパイアが尽力したと聞いた。
なのにどうして?
俺は自分で皆に説明すると同時に1つの「推理」を思い立っていた。
ヴァンパイアが他の種族に対抗するための組織ではなく、
あるヴァンパイアの一族が他(もしかしたら特定)のヴァンパイアに対抗するための組織ではないか。
「どうした?自分で言ったわりに納得していないみたいな顔して。」
あ、いや。
考え過ぎだろうか。




