012
橘結は小室絢と南室綴の力を借りようとはせず
近所の「魔女」を頼っていた。
その魔女は橘家の事情を知ると二人に伝えた。
「私が居ない時はお前達が橘結を守れ。」
魔女は橘結にも「あの二人を頼れ」と言った。
ぎこちなくもあったが、魔女を介して橘結達は共に行動するようになる。
「私達がトモダチになれたのは、この期間があったからなんだ。」
一緒に辛い思いをして、一緒に楽しい事をして
時間は掛かったかもしれないが、「親友」になれた。
「トモダチになろう。うんなろう。」
そんな言葉だけでトモダチになんてなれない。
小室絢はきっとそう言いたいだけ。
だがそれは「契約」のようなものだと思う。
「トモダチになろう。」とはその契約を結んだ事実の確認だ。
それが言葉だけならすぐに解約されるだけの事。
「なあ佳純。多分姫から聞いているだろうから私がウダウダ言うのは違うと思うだろうけど。」
「お前はお前の責任を果たせ。」
「それには協力者は必要だ。」
橘佳純。
「な、なに。」
お前の姉はいつも俺を守っている。
俺だけじゃない。宮田柚も、敷島楓も、津久田伴も。そして箱田佐代もだ。
子供の俺にだってそれくらいは判る。
俺達のような奴がこの街で平和に暮らせるのは橘結がいるからだ。
だから橘佳純。俺はその礼がしたい。
それは俺がお前の力になる事だと思う。
今俺は、橘佳純が橘結の妹だから手を貸すと言っている。
気に食わないだろうが、それで納得してもらえないだろうか。
「お前は大人だなぁ。佳純。綸の申し出断ったら姫に、お前の姉ちゃんに悪いぞ。」
「脅迫だな?揃いも揃って私を脅迫してるな?」
「何言ってるんだよ。佳純。アタシはお前゛かトモダむぐがっ」
敷島楓が宮田桃の口を塞いだ。
「黙ってれバカ猫。」
「ふがが。ふが。」
「いつか俺が頼れるような男になったら、その時お前に仕えるよ佳純。」
それは俺のモノマネのつもりですか。
「いやそう言いたそうだったからさぁ。」
「何?そうなの?綸は佳純のモノなの?」
箱田佐代が何か言い出した。
元々南室家は橘家に仕えていると言った筈だ。
「えー、でも今の言い方だと綸が佳純に個人的に」
待て。俺は何も言ってないぞ。小室絢が勝手に
「照れるなよー。」
滝沢伊紀の話は「浮ついた」俺達の気分を一気に沈めた。
「橘結の不在」
それは橘佳純にとって危険な状況だと言った。
「姫様のお父様にそれを防ぐ力はございません。」
彼は「婿」であり「橘家」の者ではない。
橘結の父親は「物理的には」強い。
お祓いの類もそこそこ可能だ。
だがそれ以上ではない。
「だからこそ、先ず狙われるのは佳純様なのです。」
「佳純様。まずそれが結様の本意では無いと申し上げます。」
狙われる?
何者に?
「悪魔のような。と呼ばれる輩です。」
「悪魔ですって?」
「箱田様。勘違いなさらぬように。」
「悪魔ではありません。悪魔のような。です。」
「その者達は決して「悪魔」などではありません。」
「自らをそう称しているだけの狂信者に過ぎません。」
「この世に悪魔などおりません。」
「私の生業は、自らを悪魔と呼ぶ輩の目を覚まさせると事です。」
もしくは二度と目覚め不ようにする。と滝沢伊紀は言わなかった。
本来なら私のような若輩者が参るべきではありません。」
「ですが全てお考えあっての事なのです。」
一体誰の?
橘佳純が「悪魔のような」何者かに襲われるのであれば
俺や津久田伴、箱田佐代では荷が重い。
それこそ橘結であったり、南室綴が傍にいるべきだ。
いや、
それではそもそも「橘佳純が狙われる」事態にはならない。
囮。なのか?
「はい。」
「佳純様は、その輩たちを炙り出す餌でございます。」
そもそも橘結と南室綴が出掛けたのは
「いえ、それは違います。」
「姫様のお仕事は事実です。」
「ただその事でこうなる事も予期しおりました。」
「姫様はそのお仕事を極秘裏に行う予定でおりました。」
つまり
「はい。ご察しの通りです。」
「佳純様を囮にするよう進言したのは滝沢家です。」
「お恨みいただいて構いません。私は私の命と滝沢家の誇りを」
「もういいよ伊紀。」
橘佳純は滝沢伊紀を抱きしめる。
「判ってるよ伊紀。結果的にそうなっただけよ。」
「お願いだから、命を懸けるとか止めて。私あなたの命なんて欲しくない。」
「・・・はい。」
「あなだか気に病む必要は無いわ。」
「結姉が承諾して、何より綴姉ちゃんの作戦でしょうからね。」
「おそらく私を狙いにその連中の末端が現れる。そいつらを捕まえて情報を得る。」
「そうです。現在他の祈祷師たちが動きを注視しております。」
「恐怖は無知にあります。全容さえ知れれば対処は可能です。」
「話が前後いたしますが佳純様。それに綸様。どうかご安心ください。」
「佳純様の元に集うのは私のような若輩者だけではありません。」




