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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
武闘大会本選・個人戦(武器なし)の部
114/122

112.【武闘大会本選:個人戦(武器なし)の部】白い翼が降臨する時

前回のおさらい

 画伯、全裸になる。

 →猥褻物陳列罪に問われる前に下半身を魚に。

 →下半身魚の体で動きやすい空間に環境を整える。

 →勇者様、洗濯機(違)に飲み込まれる。


 という訳で今回は、勇者様には不本意ながら水中戦(?)の様です。





 ヨシュアンさんの超☆豪快な水魔法の効果により、勇者様の張った結界の中は急流滑りも真っ青な激流エンドレス空間と化しました。

 あんな中で平然と自由に動けるのは、お魚さんか海生哺乳類くらいのものでしょう。

 つまり下半身が(ぎょ)と化した画伯に関しては、心配など無用の長物です。あの人、半水棲といっても過言じゃありませんからね。何しろ画伯の半分はセイレーンで出来ています。

 なので。

 問題は、勇者様です。

「そもそも勇者様って泳げましたっけ?」

「いや、よく考えろリアンカ。あん中じゃ泳げたところで勇者如き、話になりゃしねーよ」

「見事に流されていきましたからね……」

 遠い目で見守る、私達。

 いや、まぁちゃんの口端が微妙に笑いを堪えて歪んでいるけど。

 状況は勇者様にとって絶望的と言っても良いでしょう。

 そもそも水に支配されたフィールドで、水妖(半)に勝とうという方が無謀です。

 今頃、勇者様は水の中で足を引っ張られているかもしれません。


 結界内に突如噴き出した水はもう止まっていますが、既に侵入してきた分の水が減ることはなさそうです。

 ざっぷんざっぷん、結界の中を留まることなく流れまくっています。

 ふと、勇者様が結界を解除すれば水が一気に試合場の外に流れだすんじゃないかと思ったんですが……

「そうなれば水に潜ってる画伯だけじゃなく、勇者様諸共に場外まで押し流されちゃいそうだね」

「いえ、ヨシュアンには翼があります。最悪、勇者が流されてくのを尻目に、一人だけ空に離脱して免れるでしょう」

「勇者様、打つ手なしだね?」

 この状況で、巻き返しは可能でしょうか。

 ……無理っぽいなー?

「ここで負けたら、勇sy……クリスティーネちゃんの今までの恥辱(笑)が全部無駄になっちゃいますよー!」

 取敢えず、激励の意味を込めて応援してみました。

 そうしたら、


「こんなところで……無駄にされて堪るかぁぁああああっ!!」


 勇者様の反応の良さは素晴らしいと思います。

 まるで脊髄反射かと思うくらい、即座に声が返って来ましたよ!

 まさに打てば響くとはこの事でしょうか。

 あの叫びを聞くに、どうやら勇者様ご本人は未だ戦意冷めやらぬ様子。

 でもあの翻弄されまくりの状況で、どう巻き返すつもりですか?

「く……っあれだけは、あの機能だけは使いたくなかったが!」

 苦々しげに、だけど覚悟を決めた様子で。

 勇者様は。


 泳ぎ始めました。


「うぉぉおおおおおおおおおっ」

 ざっぱーんと波打つ、結界の中。

 勇者様の見事なクロールが波を割って突き進みます。

 速い速い、とても着衣水泳とは思えません。

 ざぱざぱざぱざぱ、勇者様の向かう先は……

 波間をぷっかり浮かんで漂う、黄金の長細い物体。


 隕鉄(仮)製の錫杖。


 どうやらさっき手放した武器を回収しようとしている模様。

 流されるままに漂う錫杖に、勇者様の手が触れ――……


「 レ シ ィ ィ ィ ブ !! 」

 

 ……ようとしたところで、邪魔が入りました。

 まるで見計らっていたかのような、見事な登場ですヨシュアンさん。

 勇者様の手が触れるか否か、そこで割り込むように、横合いからヨシュアンさんが突撃しました。

 水底の方から急上昇してきたかと思えば、イルカのように跳ねた末に豪快な着水。

 今日の画伯はドルフィン画伯ですね。見事な狙いで直撃です。

 伸ばされた左腕が、勇者様の錫杖を弾き飛ばします。

「ヨシュアンどのぉぉおおおおおっ!」

「あっはっはー☆ 勇者君ってば! 隙を見せれば躊躇なく突っ込んでいくからよろしく!」

 今は試合中だぜ☆と言い捨て様、ついでとばかりに愛嬌を振り撒きます。

 うん、試合中とか言ってる本人が一番試合のこと忘れてそうな弾けっぷりですね。

 ヨシュアンさん、完全に遊んでいます。

 遊んでいるというか、おちょくっています。

 でもそれでこそヨシュアンさんです。

 勇者様は思いっきり顔をしかめて猛抗議を始めました。

「まともに対抗もさせてもらえないのか!? 妨害が悪質過ぎる!」

「だって俺、試合相手だし。そぉーれ、スパイク!」

「うっわわわわわー!?」

 ヨシュアンさんの横手、空中に水の玉が三つ四つと発生します。

 ぎゅるぎゅると音を立てて、渦巻くように凝縮していく水球。

 すかさず、ヨシュアンさんの尾(魚)がしっぽアタックを繰り出してきました。

 強靭な尾の一撃で叩き落とされた水球が、勇者様を狙います。

 勇者様は慌てて水に頭まで被ることで難を逃れました。

 …………が。


「あ……」


 激しく水に沈んだ衝撃によって、でしょうか。

 元より水に流されたり狙撃されまくったり狙撃したりと、今回の試合ではよく動いていましたからね。

 どうも、勇者様の頭部に固定する為に使っていたヘアピン達にもとうとう限界が来たようで。

 何が起きたのかと、具体的に申しますと。


 勇者様の頭を覆っていたヅラとヴェールが水に攫われました。


 勇者様、頭部露出。

 汗流れ防止に強い耐水性の化粧はしてあるし、髪も水に濡れてぺったりしているので、いつもとはちょっと雰囲気違いますけど。

 何ということでしょう!

 勇者様の正体がばれる確率が、格段に上昇しました。

 ご本人はまだそのことに気付いてなさs……あ。気付きましたね。

 勇者様が何気なく流した視線が、クラゲの如く波間にぷかぁと浮かぶヅラに釘付け☆です。

 そこに、金の藻(おぼろ昆布風)が漂っていました。

 一瞬硬直した、後。

「うわぁぁああああああああああああああっ!!」

 勇者様は自分の頭を押さえて絶叫しました。

 いやいや今更押さえても、既にヅラが吹っ飛んだ後じゃ意味ありませんって。

 何が何でもばれたくない正体(ひみつ)、既に半分……七割剥げかけてますよ!

「こりゃ……先が見逃せない展開になってきたな」

「勇者殿も健闘はされていますが……水を得た(ヨシュアン)を相手に、自分の正体を隠しながらというハンデを背負ってどこまでやれるものか……」


「試合終了までに勇者の身バレに300ペソ」

「甘いね、まぁちゃん……私は勇者様の正体露見に十五分で500シリング賭けるよ!」


 なんだか、遠く勇者様から「通貨単位くらい統一しろー!」という謎の叫びが発せられましたが……うん、気のせいですね!

 私達はそんな謎の叫びを発する勇者様も固唾を呑んで見守るのみです。

「くそ……っ挫けてなるか!」

 勇者様はご自身の左腕で頭部を押さえながらも、懸命に泳いで目指します。

 ヨシュアンさんに弾かれて、明後日の方向に跳んで行った……錫杖を。

 こうまで必死に手を伸ばすのはどうしてでしょう。

 何か、あの杖に秘策(しかけ)があるのでしょうか。

 そう言えば錫杖に関する取扱説明書は、勇者様に渡したんでした。

 何かが仕込まれていたとしても、今となっては確認する術がありません。

 ああ、勇者様にお渡しする前に一度読みこんでおくべきでした。


 ヨシュアンさんの度重なる妨害にも、めげることなく。

 勇者様が錫杖を掴み取ることに成功したのは、五分後のことでした。

 ……うん? 思ったよりも大分速いですね?

 勇者様の粘り強さが発揮された結果といえるでしょう。

 

 勇者様は両手にしっかと錫杖を握りしめ、覚悟を決めた顔で叫ばれました。

「これだけは使いたくなかった……が、手段は選んでいられない。速攻で片をつけさせて貰う! 杖に秘められし謎機能その二! 【覚醒】!!」

 勇者様の手が……錫杖にひっついていた宝石を、べりっと引き剥がしました。

 それと同時に、勇者様の黄金(きん)色の魔力が可視化される程の濃密さで以て錫杖へと一気に注ぎこまれていきます!

 やがて杖の効果で金色の光(後光)と賛美歌が……

 ……え、それだけじゃない!?

 え、これはどういうことでしょう!

 杖から、私の見知っている以上の効果が発せられましたよ!?

 純粋な金色だった後光に、虹色の光が混じります。

 賛美歌は何ということでしょう、フルオーケストラの伴奏付きですか!

 更に更にはそれだけじゃなく……勇者様の身体が、宙に浮きました!

 背に、純白の大きな……まるで白鳥の様な翼を、ばぁっさあああと大きく広げて!

 わあ、どこぞの宗教で崇められてるっていう、天使様みたぁい(笑)

「うっわ勇者様まばゆい! ちょーまばゆい(笑)!」

「すっげえ神々しいな、おい(爆笑)!!」

 勇者様の輝かしい雄姿(しかし女装中)に充てられて、でしょうか。

 まぁちゃんが両腕で腹部を押さえ、蹲ってしまいました。

 どうやら発作(笑いの)に見舞われてしまったようです。

 他にも試合を見に来ていた、知った顔の面々……あの『聖女(笑)』が『=勇者様』であると知っている皆が顔をそっと逸らして笑いを堪えています。

 でもなんだろう。

 これなんだろう。

 白い翼が勇者様にマッチし過ぎて、腹筋痛い。

 別に黒い翼(カンちゃん)が悪いとは言いません。

 だけど白い翼とか清廉な勇者様にはまりすぎて……やっぱり腹筋痛い!

 勇者様がこれだけは使いたくなかった、そう言った理由がわかりました。

 うん、勇者様……私達がこういう反応するって、わかってたんだね!

 でもここぞという時に御披露されて、笑わずしてどうしろって言うんでしょう。

 勇者様は頑なに私達の方……私達が陣取る観客席の一角から、顔を逸らしたまま。

 天空に光り輝く威容を見せつけています。

「……あれ『武器なしの部』なのに、錫杖活躍し過ぎじゃない? アレ良いの?」

「どうやら、一応……魔力行使の効率を上げる為の補助機能、という枠内の様ですね。あの姿自体に直接的な効果がある訳ではないのでセーフでしょう」

「まぁちゃんの腹筋にはダイレクトに直撃☆みたいだけどね……」

 魔王様(まぁちゃん)が笑い過ぎでひぃひぃ言ってるよ、勇者様!

 高々と錫杖を掲げた勇者様は、杖に更なる魔力を込めると……それを光の結界に同調させ、一気に弾けさせました。

 結界が。

 大量の水を閉じ込めていた、結界が。


 掻き消える。


 その瞬間の、水流の動きは見事の一言でした。

 ざぁっぱあああああああっん、と。

 一息で、試合場の外へと向けて閉じ込められていた大量の水が解放される。

 

 ヨシュアンさんを、内包したまま。


 おっとこれは意外や意外、絶対にありえないとおもった『ヨシュアンさんの場外負け』が実現するか……!?

 一瞬だけ、軽くそう思いましたが。

 残念、ヨシュアンさんも翼がついています。

 慌てて水から離脱して、ヨシュアンさんもまた空へと身を躍らせました。

 

 女装(失ヅラ)と、女装(→全裸)。

 女性の格好が異様に似合う二人がいま初めて……同じ目線で向かい合う。

 空中という誰の目からも逃れられない、一挙一動を隠せない位置で。

 試合は最終局面に至りました。



 



 そろそろ次辺りで決着を着けようかと思います。

 果たして、勝つのは……?

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