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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
武闘大会本選・個人戦(武器なし)の部
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108.【武闘大会本選:個人戦(武器なし)の部】今日は素敵な自爆日和★

書いていてここまで楽しくなったのも久々です。

いえ、この作品はいつも楽しみながら書いているんですけどね?

タイプする小林の指がすっごいノリノリでした。



 ――個人戦(武器なし)の部が始まってから、既に一か月近くが経とうとしている今日。

 ついに女装vs.女装の仁義なき戦いが始まろうとしている、のですが……


 勇者様は覚えていらっしゃるでしょうか。


 邪小人さんのジンクス……その期日が、遂に迫りつつあることを。


 まあ、様子を見るに覚えていなさそうですが。

 勇者様は大丈夫でしょうか。

 このまま忘れたままで、本当に。

 勇者様の身を案じるなら、教えてあげた方が良い様な気もしますが……教えてあげたとして、呪い(ジンクス)の回避が出来るでしょうか。


 そもそも『三ヶ月以内に挙式をあげなければ凄まじい不運が襲う』なんて……勇者様にはどうしようもなさそうです。


 覚えていようが忘れていようが、結果は同じ。

 だったら敢えて思い出させる必要もなさそうな気がします。

 彼の精神衛生上、このまま黙っておいた方が良いんでしょうか。

 あのジンクスに勇者様は頭の痛そうな顔をされていました。

 折角忘れていられるものを、思い出させるのは可哀想でしょうか。

 少なくともその方が、期限が切れる日までは心安くいられそうですが。

 勇者様の身を案じて、教えて右往左往する様を見守るべきか。

 勇者様の心を案じて、黙ってそっとしておくべきか。

 どちらを取っても、勇者様に悲劇が見舞われそうな気がします。

 どっちを選ぶか悩んでいる間に、本当に期限切れはすぐそこで。

 これ、どうしたら良いんでしょうね?




 試合開始の合図があるや否や、勇者様は錫杖を高々と掲げました。

「オン キリカク ソワカ(×3)!」

 声が響くと同時に、ぶわりと。

 勇者様を中心として輝く半球が広がっていきます。

 もう毎度お馴染みと化した、勇者様の常套手段……光の結界(物理)。

 ……あんなに同じネタの使い回しは危険だって忠告したのに!

 ヨシュアンさんは決して二度ネタが通用する相手じゃありませんよ?

 急激に内側から外側へと膨張するように展開される結界(物理)に、今までの対戦相手であれば弾き飛ばされて場外……でしたが。

「そんな使い古したネタで、俺を捕まえられると思う?」

 可憐な姿とは本来不釣り合いな筈のニヒルな笑いも、愛らしく。

 画伯は結界に弾き飛ばされるよりも早く、大きく二対の翼を広げて自ら空へと距離を取る!

 レースとフリルたっぷりの、パニエ、ペチコート、ドロワーズ。

 膝小僧が見えるくらいに短い丈のふわふわドレスは、膨らんでまるで大輪の八重咲き牡丹のようです。

 とっても華やかで可愛い装いなんですけど、アレはまさか……パンチラ対策!?

「ふっ……いくら俺の外見が完璧に可愛い美少女だとしても、野郎の下着を露出するのは流石にいただけないからね! 俺は完璧主義者なんだよ!」

 ヨシュアンさん……その美意識、流石です!

 前に言ってましたもんね!

 隠して広がる浪漫もある、と……

 ドロワーズやペチコートも下着の一種ではありますけど、隠蔽性があります。確かにそれらに守られてヨシュアンさんの大事な場所は露出を免れているのだから、効果は抜群です!

 あの様子を見て、男だと察せられる人は余程の玄人じゃないですか?


 画伯の素情を知らない、魔境の外から大会見物に来ている人の大半に「女性」と誤解させたまま。

 嵩張る下着にスカートの奥が見えないことで、観客席に広がる落胆の溜息。

 男の人って馬鹿だなぁ……。

 溜息を吐いた人達が、拝みたがっていたモノは野郎の尻だったのだと知る日は来るのでしょうか。

 彼らの為を思うと、そんな日が来ないと良いね!としか言えません。


 男達の視線をスカートの中身に集めながら。

 ヨシュアンさんはニヤッと笑って眼下を見下ろす。

 そこには結界を維持する勇者様が……頭を抱えていました。

 何か言いたそうにしていますが、今のヨシュアンさんはただ空を飛んでいるだけ。冷静に考えると文句をつけるべき点がないせいか、勇者様の欝憤が溜まりつつあるようです。

 勇者様……ツッコミ、入れても良いんですよ?


 勇者様の結界が完全に足場となるべき試合場を覆ってしまったので、最早ヨシュアンさんには空以外に居場所がありません。

 一見して追い詰められたようにも見えますが、ヨシュアンさんは常日頃から自前で飛びまくっている鳥類系魔族。

 空は彼にとって、大地の上と変わりません。

 それを知っているからこそ、勇者様はヨシュアンさんの出方を窺いつつ……ここにきて結界が直接決着に関わらない敵と遭遇した為でしょう。

 第一試合以来、ぶりですが。

 彼の手が、分厚い本を……『タスマニアデビルにもわかる光魔法~初級編~』を落ち着いた手つきで捲り始めました。

 勇者様、もしかして予習してたんですか……?

 どうも(あらかじ)め、目当てのページが決まっていたかのような落ち着きぶりです。

 いえ、決まっていたかのよう、ではなく決まっていたのでしょう。

 良く見たら、本に栞が挟んであるみたいですから。

 

 結界で相手との距離を取り、絶対的な安全圏を確保しつつ落ち着いて呪文を詠唱する。

 魔法を不得手とする勇者様が辿り着いた戦い方は、そんな安全策を積み上げるような迂遠な物で。

 だけど勇者様?

 戦いの場において、絶対に安全な場所なんてあると思いますか?

 戦いに際して……対策を練っていたのがご自分だけとは思っていませんよね?


 そう、勇者様が結界という手を使うのも、毎度のことで。

 考えるまでもなく、対戦するとなったら対応策を用意するのが当然です。

 今までの試合相手は、それが結界を破るに至っていませんでしたが……魔王城のエリート軍人☆ヨシュアンさんなら!


「ふははははははー! 愚かな聖女めー!

こんな猪口才な手で、俺の進撃を止められるとは思うなよ☆」


 わあ。ヨシュアンさん、めっちゃノリノリー。


 敢えてわざわざ空中で仁王立ちするような姿勢を取ったかと思うと、わざとらしく腕を組んで宣言しましたよ。

 しかもびしぃっと格好良く勇者様を指さしたりなんかしちゃって。

 これで結界を破れなかったら赤っ恥ですね!

 それはそれで面白いと思いますけど、やっぱりここは試合の展開的に勇者様の結界を破っていただきたいところ。

 さて、ヨシュアンさんはどうやって結界を突破するのでしょう。


 ヨシュアンさんは意味もなくパチンとウインクを一つ観客の方にくれてやると、野郎共の歓声が沸く中……人差し指を、ひらりと空に向けて動かしました。

 良く見ると指先に、ヨシュアンさんの髪の毛の色と良く似た……薄碧の色合いに淡く光る、燐洸が灯っているように見えます。

 あれは火じゃなくて、光ですね。

 ヨシュアンさんの指が動くと、軌跡が碧の輝きとなって残っていきます。

 まるで、空に絵を描くように。

 サービス精神旺盛なヨシュアンさんは空に大きなハートを描き出しました。

 きゅらきゅらきゅららららら★と光る、碧のハート。

 ヨシュアンさんがツンっと指先でつつくと弾けて、試合場いっぱいに小さなハートが降り注ぎました。わあ可愛い。

 会場中から、老若男女を問わず喜びの声が上がりました。

 特に小さい女の子の喜ぶ声が目立ちます。

「まぁちゃんまぁちゃん」

「ん? どーした」

「画伯のアレ、どんな効果があるの?」

「あー……ありゃ何の意味もねぇな。ただのファンサービスじゃね?」

「画伯、本当にサービス精神旺盛ですねー」

 でも、どうやら。

 あれは試し書きの意味もあったのでしょう。

 ヨシュアンさんは引き続き指先に淡い光を灯らせたまま、ぱたぱたと羽根を動かして勇者様の結界に急接近!

 警戒の目を向けながらも、勇者様の口が小さく動き続ける。

 どうやらそれなりに長い詠唱を必要とする魔法らしく、彼はまだ動けません!

 焦りを浮かべる、光結界のクリスティーネ(勇者様)!

 対する画伯は、余裕の微笑みすら浮かべています。

 まずもって魔法を用いた戦いの場数が違う相手です。

 余裕があるのも当然かもしれません。

 ヨシュアンさんは物理的な硬度を保つ結界(光)にお構いなしに接近すると、ぺたっと光ったままの指先を結界に突き刺しました。

 わあ、大胆。普通に触りましたね。

 

 元々結界に弾き飛ばされるのは、作動した時の膨張する動きに吹っ飛ばされるから、らしく。

 結界自体に触れる生き物を弾き飛ばす効果はない……と。

 今まで試合で多用し過ぎでしたからね。

 結界の性質について、能力のある者は既にある程度の分析が出来ている筈だ、と。

 勇者様の試合を観戦する中で、大体三回戦か四回戦くらいの時には画伯本人がそう言っていました。

 どうやらその分析は、当たっていたようです。


 ぎょっと皆が見守る中で、ヨシュアンさんはお構いなし!

 平然と結界の上で指を滑らせていきます。

 画伯のキャンパスが、空から結界に代わって。

 さっきと同じように、気負いなく光の絵を描き出していく。

 あれは……ドア?


 ヨシュアンさんは碧の光で、金色に輝く勇者様の結界に一枚のドアを描き上げました!

 絵はヨシュアンさんの得意分野です。

 さらさらっと三秒くらいで、ヨシュアンさんより大きなドアの絵が完成しました。

「お邪魔します!」

 律儀にドアノブを握って回すと、がちゃっと音がして。

 ヨシュアンさんは流れるような動作で、ナチュラルに絵である筈のドアを開けました。

 あ、ドアと同じ形で、結界にも穴が……開いてますね。

「な、なにいいいいいいいいいいいっ!?」

 勇者様、びっくりです。

 驚きのあまり、呪文じゃない言葉が口から迸ってますけど、良いんですか?


「りっちゃんりっちゃん、アレどうやったの?」

 繊細な魔法の技なら、尋ねる相手はまぁちゃんよりも適任がいます。

 まぁちゃんはちょっと魔法の使い方が大雑把ですからね!

 細かい魔法はりっちゃんの方が得意です。

 りっちゃんもちゃんとその辺はわかってるみたいで、突然の解説依頼にも苦笑気味にちゃんと答えてくれました。

「あの結界が、光で構成されているのはわかりますか?」

「そりゃあ……光魔法初級編、らしいですしね? やってることはとても初級編なんて可愛らしいものじゃなさそうですが」

「確かに光に物理属性を付与するなど、初心者の技ではありません。それでも結界を構成する魔力属性が変わった訳ではなく光は光、性質は変わりません」

「つまり?」

「同じ性質の魔力……『光』であれば馴染み、透過出来るんですよ」

「あ」

 それって……あれ? 光属性の魔力を纏ったら透過出来るってことですよね?

 だったら画伯がわざわざ穴を開ける必要なんてないんじゃ……?

 だってヨシュアンさんも、光属性は備えている筈なんですから。

「恐らく、視覚的な効果を狙ったのでしょう」

「ああ、だろーな。つまるところ揺さぶりだな」

「まぁちゃん、ヨシュアンさんの意図がわかるの?」

「勇者の奴に衝撃を与えて動揺を誘おうっつうこった。その為にわざわざ遠回りなことやったんだろーぜ」

「……結局、あれってどうやったのかな」

「光は馴染む、と申しましたね? つまりヨシュアンの魔力も光属性のものであれば結界に染み込ませることが可能、ということです。そうですね、大きな岩を思い浮かべて下さい。そのままであれば四角く切り出すは困難ですが、楔を一直線に打ち込めば……わかりますか?」

 りっちゃんの例えを聞いて、私はようやくヨシュアンさんが何をしたのか理解しました。

 ヨシュアンさんは自分の魔力を流し込んで印をつけた。

 それもただの印じゃなくて、「切り取り線」の役割を果たすものを。

 岩の楔のように、紙に入れた折り目の様に。

 力をちょっと加えたら、印に沿って簡単に割れ目が入る。

 全身に光の魔力を纏えば通り抜けられる物を、そうやってわざとらしく『勇者君の結界なんて簡単に無効化出来るんだよ☆』と示した訳です。

 そしてもっと簡単である『光の魔力を纏う』という方法を温存することで、恐らくいざという時の奥の手にしたのでしょう。

 多分、魔法に不慣れな勇者様はその辺りのことに気付いていないでしょうし。

 画伯がどうやって結界に(ドア)を開けたのか……りっちゃんの解説を聞いた私と違って、自力で答えを出さないといけない勇者様は思い当ってもいないようです。

 ご自分の結界なのに、どうやって破られたか理解できていない。

 それはつまり改良しようにも改良点が理解できていないということで。

 欠点が自覚出来ていない技を、頼りきれる訳がありません。

 これは、結界という勇者様の常套手段が封じられたことに等しい意味を持ちます。

 ……ヨシュアンさん、よくやった!


「さてさて勇sy……クリスティーネちゃん? 神様への御祈りは済んだかーい?」

「く……っ だが、時間は稼げた!」

「ん?」

「喰らえ、ヨシュアン殿!」

 勇者様が思わずといった様子で叫んでいたので、呪文は中断されたとばかり思っていましたが。

 どうやら私は、思い違いをしていたようです。


 詠唱、終わっていたんですね。勇者様。


 勇者様が高々と錫杖を掲げると、そこに金色の光が急激に集まっていくのがわかります。

 熱を伴って膨張し、眩しくって目も開けていられないくらいです。

 観客の中には目をやられて、顔を押さえて呻く人でいっぱいです。

 ……私達はサングラスを装着したので、平気でしたけど。

 ぐんぐんと集まり、熱量を高まっていく。

 光は勇者様の頭四個分程の大きさにまで膨れ上がり……膨らむのを止めたかと思った瞬間。

 増幅された高密度の光が、圧縮されて一度に解き放たれました。

 それは一直線に空のヨシュアンさん目掛けて空を駆ける。

 真っ直ぐに突き進む姿は、放たれた矢のように。

 回避不可能な速度で、敵と定めた狙いを撃ち抜く!


 ……かと思いましたけど!


「いっやぁん★ こわ~い!」

 ヨシュアンさんはあっさりひょいっと避けちゃいました。

 軽やかに身をかわした瞬間、翻ったスカートがひらひらひら。

 さっき会場中に振り撒いた(はーと)がヨシュアンさんの身に付着して残っていたのか、同時にふわっと膨らんだスカートからキラキラとハートの光が零れ落ちて何とも目に華やかです。

 わあ、流石は美意識の高いヨシュアンさん。

 ドレスの戦闘における視覚効果も完璧ー。

 だけど勇者様の魔法は、避けて終わらなかった。

「って、えええ!?」

 何故か、勇者様ご本人の驚きの声が響きます。

 勇者様……また、魔法に意図せぬ効果が付与されちゃったんですか?

 あわわと慌てる、勇者様の解き放った光は。


 跳弾しました。


 張りっ放しだった勇者様の結界(物理)の壁にぶち当たったかと思うと、より凄まじくなった速度で跳ね返り、跳ね返り、跳ね返る。

 どうやらあの『光の矢』も物理さんになっちゃったようですね。

 勇者様、ほんと(物理)に愛され過ぎじゃないですか?

 結界の中は、一気に危険地帯と化しました。

 もうこうなると、術者である勇者様自身の安全すら危うい。

「う、うっわぁぁああああああっ」

 自分の放った魔法で、自分が悲鳴を上げて逃げ惑う。

 わあ、何という珍光景……。

 ヨシュアンさんもヨシュアンさんで、空の上。

 最初はひょいひょい避けていましたが、跳弾する度に光の矢が速度を上げて飛びまくるので、避けることを止めました。

「お邪魔しました!」

 

 勇者様の結界から、退散するという形で。


 ちゃんと律儀にドアも閉めてますね。

 うん、ぱたんっという軽い音と共にドアがきっちり閉まります。

 これで危険に晒されているのは、勇者様ただ一人。

「あぶ! あぶ! あ、あぶ……っ」

「え、なになにクリスティーネちゃん? 赤ちゃんプレイ?」

「誰が赤ちゃんプレイだ違……って危なぁああああ!!」

 まるで三本ロープのジャングルかってくらいに、こんにちはとさようならを繰り返す『光の矢』。

 勇者様は一人だけ自分の魔法の暴威に晒されて、飛んだり跳ねたり屈んだりとお忙しそうです。

 もうこれ、反射神経と瞬発力だけで何とかなってるような状況ですね。

 ああ、これも『自爆』というのでしょうか?

 危地に残された勇者様に、果たして起死回生の手段はあるのでしょうか。

 勇者様、ここは男の根性を見せるところ……かもしれませんよ! 只今絶賛女装中ですけどね!

 

 



魔法を用いた戦闘シーンって難しいです。

次回はもっとそれっぽくなるように頑張る……!

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