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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
武闘大会本選・個人戦(武器なし)の部
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104.【武闘大会本選:個人戦(武器なし)の部】勇者様はコミュ障共を美貌で撃退したようです。




 さあ、不安を抱えたまま、我らが勇者様の試合が始まります!

「魔法は苦手みたいだったけど……あの様子でどうやって予選を勝ち抜いたんだろうね!」

「あれ、画伯。勇者様の予選、見てなかったんですか?」

 予選の衣装も素敵な修道服だったし、絶対に見物していたものと思っていたんですけど。

「うん。実はリズとエディがスケッチ教えてほしいって俺に言って来たんだよ! 二人揃って! これはもう教えるっきゃないよね☆

……ということで観戦の予定変更して、二人を連れてスケッチ入門教室開いてたら、さ……うん、なんだかんだで見逃しちゃったんだよね」

「え、あの二人が?」

 なんと、それは吃驚です。

 絵にはあまり興味なさそうだと思ってましたけど……むしろ片方はヨシュアンさんの特技だってことで敬遠してる節があった気がするんですけど。

 それでもなんだかんだ、気になってたのかな?

 あれ、これって和解の糸口ですかね。

 ……ああ、ヨシュアンさんも関係改善の糸口にしようと思って張り切ったんだね。

「リズ? エディ? …………リアンカちゃん、画伯さんって彼女とかいたっけ」

「いや、流石にあの二人を恋人にしたら犯罪……って、サルファは知らないんですね」

「リズとエディは俺の拾いっ子のことだよ☆ かっわいぃんだよ~! ひとりはちょっと内気さんで、ひとりはちょっとツンが厳しいけど! 絵なら俺!って頼ってもらえるなんて保護者冥利に尽きるね☆」

「画伯さんが保護者!? え、子供?」

「……そう、ヨシュアンさんには面倒見てる子供がいるんですよ。二人ばかり」

 女の子のリズと男の子のエディ。お年は共に十歳。

 ヨシュアンさんは、どう考えても教育的に、精神衛生的に『保護者』という立場に最も不適格なお兄さんの一人だと思います。

 だけど周囲の予想を裏切り、しっかり真面目に面倒を見ている様子。

 まあ、子供の情操教育に悪い副業を持っていても、ヨシュアンさんだって子供に無条件で甘い魔族の一人ですしね。

 いたいけな子供を前にすると、保護したくなるのが魔族の性質です。

 だから、保護者としては真面目に頑張ってたみたいで。

 その甲斐あってか、前に二人の拾い子と同居の話が出たこともあります。

 エディが土壇場で拒否った為、流れましたけど。

 ……ほら、画伯って美少女な(ツラ)してますから。

 野郎と知らず、淡い初恋を抱いていたらしく……引っ越し直前に、なんか三人でお風呂に入る機会があったらしいんですよ。

 画伯が養女とお風呂、と考えると何故か凄まじい不安に襲われますが。

 子供相手に疚しいことをするような人じゃないので、本当に普通に泥だらけになった身体を全身丸洗いにしただけらしいんですけど。

 …………そして、言うまでもなく。

 その時に、エディの淡い初恋が木端微塵に爆発四散しました。

 それから反抗期に突入し、今に至っています。

 気まずいのか何なのか……うん、エディもどんな態度を取ったらいいのかわからないんでしょう。

 画伯は全く気にしてませんけど。


 ちなみに硝子のハートが砕けた少年は、自分の初恋エピソードが周囲にばればれであることに気付いていません。

 可哀想ですけど、皆知ってるよ。実は。


 なんだかんだ今でも二人は孤児院暮らしです。

 だから、画伯とあまり一緒にいる光景を見ることはありません。

 それ以前に画伯が子供連れとか、違和感凄い。

 子供と一緒にいる光景を見ると、八割くらいの確率で誘拐あるいは出産の疑惑をかけられるって、画伯も前に言っていました。

 気持はわかります。

 そしてサルファも、同じことを考えたようです。

 奴は、真顔で画伯に言いました。

「画伯さん……子供に手を出すのは、犯罪だって。マジでやばいって」

「黙れ☆ 十二歳の許婚を持つ成人男子に言われたくないよ」

 画伯の笑顔は、素敵に輝いていました。

 うん、あれ作り笑いですね!


 

 勇者様の予選の様子を知らない方が、何名かいらっしゃるので。

 何があったのかをざっと簡単にご説明いたします。

 前にも言った気がしますが、これから始まるのは武器の物理使用が禁じられた試合。

 主に魔法、あるいはそれに準じた技術を用いての試合になります。

 魔力を使った戦い方の技巧を競うって言えば分かりやすいでしょうか。

 基本は魔術大合戦です。

 そこに、時々魔力を使った特殊技能持ちが参戦する感じです。

 例えば……歌に魔力を乗せて作用させる呪歌を使う吟遊詩人とか。

 そんな、勇者様には不慣れな制限つきの試合で。

 勇者様は。


 ほとんど美貌で勝ち抜きました。


 勇者様は魔族の武闘大会への参加を希望する、他種族の方々の予選に参加した訳ですけど……当たった相手は、悉くが人間さんでした。

 私も人間の魔法使いが、どういう存在なのかよく分かりませんが……どうも皆さん、研究者肌の方ばっかりだったようで。

 理論とか原理とか、術式とか。

 小難しいことを考えたり調べたり研究するのは大好きですが。

 それってつまりは内向的な作業を中心に生きているということで。

 ようは引籠り予備軍。

 人付き合いの大層苦手な、人間関係不器用さんの集まりでした。

 うん、理知的な会話とかは好きそうだけど、雑談はしなさそう。

 しないというより仕事がらみ以外の話題は、会話に躓きまくって出来なさそうな方々です(偏見)。


 そんな人達が!

 人知を超えた超絶美形の女の子(実は男ですが)を前にしたら、どうなるか!

 しかも触れ難く感じる程に神秘的な、ストイックを絵に描いたような修道女さんに!


 面白いくらいに、同じ展開が連続して発生しました。


 まず、目が合わせられない。

 相手の姿が見れない。

 動揺して狼狽して、どもるどもる。

 人間は魔力行使が下手な種族なので、魔法を使う時に呪文の補助を必要とする方がほとんどです。

 なのに呪文もどもったり、とちったり、唱えられなくなったり。

 症状が深刻な人になると、勇者様の顔を最初に見た時の姿のまま硬直して石像のようなオブジェと化します。

 勇者様のご尊顔を凝視したまま、微塵も動けません。

 更には恥ずかしい、とか。

 こんな試合は受け入れられない、とか。

 顔を真っ赤にしたまま叫んで試合が始まる前から逃げ回ったりとか。


 ええ、棄権による試合放棄が続出しました。


 動悸が激しすぎって、戦えないんですって。

 身悶えしながら皆さん、救護テントに駆け込んできました。

 心臓と脳と血圧の異常を訴えて、自分は病人だと声高に主張してきましたよ。

 私が救護班にいる時にも何人か来ましたが、みんな思い込みが激しいわ、自分の症状を深刻なものだと決めつけるわ……ええ、かなり邪魔でした。その症状、薬じゃ治せないんですよ。

 ……いえ、全部忘れさせて良いんでしたら、治せないこともありませんけどね?

 これは救護の領域ではないということで、皆さんには恋愛相談にも乗ってくれる占い師さんを紹介しておきました。


 そんな、勇者様の精神にもさりげなく深刻な打撃を喰らわせるような棄権続きでしたが。

 棄権は棄権、負けは負け。

 相手が棄権したら、勇者様の勝ちです。

 例え特に何もしていなかろうと、相手が負けたんなら勇者様の勝ちです。

 勝ちは勝ち、それ以外の何物でもありません。


 結局、予選の全試合で勇者様が使った魔法は、様子見みたいなファイヤーボールが何発か、とかそんな感じでした。

 あれくらいなら、魔境では魔族の子供でバンバン遊び感覚で使ってますよ。私は使えませんけどね!

 それよりむしろ相手が勝手に敗北して去っていく(美貌の勝利)状況に、戸惑っておろおろする姿が物慣れない様子で可愛いと。

 初心で清楚で、気真面目そうな修道女さん可愛い、と。

 勇者様の魔法技術云々ではなく、その美貌と戸惑う仕草が感染していた野郎共の心に火をつけました。

 湧き立ち上がる、大歓声。

 それにもまたびくっと肩を跳ねさせて、若干の怯えをにじませつつ戸惑う修道女な勇者様。

 女装した男とは知らずに、可哀想に……。

 

 という訳で、試合運びは大したことがないにも関わらず、勇者様は予選で一番人気を獲得したまま本選に突入しました。

 その腕に対する期待は、あまりありません。

 それより勇者様の美貌(女装)への期待が鰻登りです。

 もはや偶像崇拝に迫る勢いで歓呼の声が出迎えました。

 大音声の歓声は……今までのどの試合よりも大きく、激しい。

 

 そんな異様な熱気に、困惑している勇者様。

 野太い声が「クリスティーネちゃぁああああん!!」と叫ぶ!

 その声が聞こえたのか、勇者様の顔が引きつりました。

 まるで、怖がるように。

 そりゃ、野郎に「可愛いー」とか「愛してるー」とか叫ばれたら怖くて仕方ないでしょうけれど。

 試合相手や試合そのものよりも、観衆に恐怖が募っていきます。

 びくびくと挙動不審気味に、本選の会場へと足を踏み入れる。

 あれ、絶対に自分が何で人気なのか理解してませんよ。

 だからこそ、大歓声に混乱しているんだと思います。

 予選があってた時も、棄権ばかりで碌な試合をしてないのにどうして、と疑問の呟きを零してましたし。


 でもびくびくとはしていても、それは最初の入場の間だけでした。

 試合の相手を前にして、気を引き締めたのか。

 気持を切り換えたのが、はっきりと分かります。

 それまでの挙動不審ぶりが嘘のように、すっと伸ばされた真っ直ぐな背筋。

 誠実な眼差しは、真摯に試合に臨もうと意気込みの表れ。

 修道女の枠を超えた立派な衣装も、こうなるとただの添え物に過ぎません。

 例え仮装していても、女装していても。

 勇者様は勇者様というだけで……ただそこにいるだけで、人の目を自然と集める華がある。

 右手には身の丈を超す錫杖。

 先端には後光を表現した浮彫の装飾プレートに嵌めこむようにして、勇者様の顔より大きな黄金の十字架が鎮座しています。

 そして左手には、まるで経典のように分厚い本……って、本? 書物?

 え? あんな小道具、用意しましたっけ?

 疑問に首を傾げる、私とヨシュアンさん。

 勇者様の身支度を担当した私達が知らないあの本は、一体なんなのでしょう。

 遠くて、表紙の字が読めません。

「まぁちゃん、表紙になんて書いてあるのか見える?」

 だから、見える人に聞いてみましょう。

 まぁちゃんはちょっとだけ、目を凝らすように眇めて……

 何とも言えない微妙な顔で、教えてくれました。


「『タスマニアデビルにもわかる光魔法~初級編~』、だとよ」


 本当にタスマニアデビルにもわかるなら、それ凄いことじゃないかと思うんですけど。

 勇者様、あんな本をどこから……

「俺が差し入れしといた☆」

 サルファが、ぐっと親指を立てて言いました。

 片目をばちーん★と閉じる仕草が、なんだか苛っとします。

「サルファ……」

「え、なになにその胡乱な目! 言っとくけどあれ、光魔法の総本山って言われてる宗教国家公認の教本だからね!? むしろその国の公的機関が発行してる教本だから☆」

「その国家、名前のセンスどうにかした方が良いよね☆」

 面白そうに笑う、ヨシュアンさんだけど。

 あんな本を抱えて試合に挑む勇者様の精神状態がちょっと心配になります。

 あんな、あんな本……試合相手に対する煽りになりませんかね?


 勇者様は意図せずして挑発行為を行っている自覚、あるんでしょうか。






 …………あ。対戦相手出し忘れました。

 ちなみに今までシリーズの中に出てきたことのある魔族さんが相手になる予定です。

 さあ、誰でしょう?


 a.呪われた武器マニア

 b.りっちゃん

 c.白山羊さん

 d.小熊さん

 e.アスパラ

 f.むぅちゃんパパ


 さあ、だーれだ★



 ちなみに画伯のストライクゾーンは結構広そうですが、子供への愛護精神が強い魔族の一員でもあるので、十六歳以下の女の子は対象外だそうです。(追記情報:画伯はいま二十五歳)

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