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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
武闘大会本選・個人戦(武器なし)の部
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103.【武闘大会本選:個人戦(武器なし)の部】勇者様所有のヅラが二つに増えました

 勇者様の人知及ばざる女難へのカウントダウン、開始。

 魔境武闘大会編も、もうすぐ佳境?????

 その時が訪れた際、勇者様の格好は女装(青)と女装(赤)のどちらが良いかと悩んだ結果、青でいくことにしました。勇者様のイメージ的に、豪奢系よりは清楚系ですよね!



 一ヶ月は、団体戦で過ぎていきました。

 二ヶ月目は、頭脳戦の部に費やされる筈でした……が、勇者様が割と早い段階で敗退してしまったので、ちょっと皆で『星の観測』なんぞに行って時間を使いました。

 お星様を見物した後は、『戦利品』を抱えてトリオン爺さんのところに武具の発注に行ったりしたしね!

 お陰で中々に素晴らしい出来栄えの武具が届けられました。

 うん、トリオン爺さんを煽てて宥めて強請りまくって、急かすだけ急かした意味はあったと思う!

 ……勇者様が十徳剣失くしたって言ったら男泣きされましたけど!


 そして、今月。

 『三番目の部門』で本選が開幕します。

 当然、勇者様も参加する部門の名前は……


 ――【個人戦(武器なし)の部】。

 武器を始めとした直接的暴力……物理攻撃の禁じられた個人戦。

 言うまでもなく魔法主体であることが要求されます。

 制限が厳しいながらも見た目の派手さは折り紙つきの、そんな部門に。



 勇者様は私とのお約束通り、


 蒼衣の神女(シスター)姿で参戦してくれるようですよ?


 つまり当然ながら女装です。


 この日の為。

 ええ、この日の為に……!

 勇者様のキラキラ御髪と合わせる為に、高性能ウィッグをわざわざ開発した甲斐があるというものです。

 ちなみに開発協力はエルフの里に店を構える錬金術師グループ『サッチー&ポロ』。

 魔力を込めた光精霊石の粉やらオリハルコンやら、太陽金剛石やら、色々と希少価値も高ければ効能も最上級の素材を惜しみなく、ふんだんに使用した贅沢過ぎるヅラです。

 これを着用すれば、勇者様のきゅらきゅらキューティクルの金髪に被せても違和感のないロン毛になります。

 只の凡人が着用したら、逆に違和感がほとばしりますけどね!

 キラキラ☆過ぎて!

 だけどこれを付けるのは勇者様なので、問題ありません。


 金髪直毛のロン(ヅラ)は、勇者様の太腿まで届く長さ。

 ちょっと長すぎる気もしないではありませんが、『清楚』で『神秘的』な女性には長すぎる髪も魅力の要素となることでしょう。

 衣装は勿論、ヨシュアンさんのデザイン協力により誕生した逸品。

 ただの修道服じゃ、あれなので。

 ヨシュアンさんと工夫しまくった挙句、何となく修道女というより『女司祭』といった方が言い様な気もしてきましたが……まあ、細かいことは気にしなくっても良いですよね!

 最早ただの『修道女』という枠を飛び越え、『聖女』かと崇め奉らんばかり。

 勇者様には、素敵に似合っています。

 そう、似合っているから良いんです!

 昔の人は言いました、「可愛いは正義」だと。

 だったら勇者様は間違いなく、正義の申し子で御座いますとも。

「なあ、り、リアンカ……? この格好は、どうなんだろうか」

「なんですか? 最早女装くらいじゃガタガタ言わなくなるくらいに、うっかり順応しちゃった勇者様……何か疑問点でも?」

「その前振り要ったか!? 要ったのか、なあ……いや、良い。今言ってもどうにもならないな。ただ、一つ言わせてくれ。


順応せざるを得なかったのは、誰のせいだ」


「魔境の土地柄の為せる業ですね!」

「……あながち間違っているとも言い難い」

 そう言う勇者様の眼差しは、なんだか悟りでも開けそうな……絵に描いたような達観ぶりでした。

「今日は勇者君の晴れの舞台、第一試合目だしね☆ 皆の度肝を抜いて、相手の戦意にクリティカル喰らわせられるようなインパクトで攻め攻めだよ! 触れることを躊躇うような、手を出すに出せないような、むしろ近寄れないってくらいの美しさで勝負だ☆」

 私を手伝って、勇者様の衣装を整えながら親指立てて片目を瞑るヨシュアンさん。

 その美意識の高さを生かしてヅラやヴェールの調整を買って出てくれた上に、全体のバランスを見て修正の指示までしてくれます。

 ヨシュアンさんの美的感覚は信用できるので、細かな微調整はほとんどヨシュアンさんの意見に沿って行っていました。

「ですけど画伯、こんな正統派神聖オーラびしばしの衣装もデザイン出来たんですね」

「そりゃね! 確かに美しさや可憐さ、愛らしさってのは沢山の方向性があるよ? その中でも男目線でのちょっぴり卑猥☆な衣装は確かに大好きだけど」

「大好きなんですね、うん。納得しか出来ません」

「ふふ、だけどね? 卑猥さが逆に皆無ってのも嫌いじゃないね! むしろチラリズムとかそういうのを全部削いで排除してってしたお堅い衣装だって大好きさ!!」

「わあ、語るね。画伯☆」

「ふっふっふ……ちょっと語ると長いよ! こう、侵し難い難攻不落な美女ってのも、良いよね! 逆に果敢に挑戦したくなるっていうか」

「あれですか? 何故山に登るのか……そこに山があるからさ!みたいな」

「リアンカちゃんには……女の子には、ちょっと難しいかもしれないね。さっきのチラリズムじゃないけど、それを例えて言うなら……全く垣間見える要素がない! 皆無だよ! でもそこが良い!みたいな心境かな。全然見えないからこそ、見えないことへの興味が高まるんだよ! わからないからこそ想像する余地がある! そして男って言うのはそういう僅かな想像する余地だけで想いを馳せることが出来るんだ」

「あはは、画伯ったら! それ、『想像』じゃなくて『妄想』ですよね」

「そうとも言うね☆ ちなみに俺は、これをむっつり理論って呼んでる」

 そういってパチリと片目を瞑ってみせる画伯の顔は、やっぱり美少女という言葉が相応しくて。

 とても下劣な野郎の欲求全開の本を増産しているようには見えません。

 そんな画伯がなおも熱く何かを語っています。

 語っていますが……何だか私の理解を越えたお話になって来たので、半分くらい聞き流しました。

 私もよくわかりませんが、画伯の好みの幅が想像の余地を越えたことだけは理解できた気がします。

 というか画伯の言葉は男性的には一般論なのでしょうか。

 それとも極論なのか、個人的な趣味嗜好に留まるものなのか……。

「勇者様、ヨシュアンさんの言っていることってわかります?」

「リアンカ……そこで、俺に話を振らないでくれ」

 勇者様は、何故だか物凄く悲しそうな顔をしました。

「現在進行形で、こんなに熱く語っているヨシュアン殿の趣味が介入した姿にメタモルフォーゼさせられている途上なんだぞ? 物凄く、居た堪れない……いや、我が身が情けなくて貝になりたい」

「勇者様…………勇者様が貝なら、阿古屋貝とかどうでしょう」

「いや、そういう問題じゃないから」

 上機嫌で勇者様の裾を整えたり、勇者様の姿をスケッチしたり。

 鼻歌混じりに作業に励むヨシュアンさんは、とても楽しそうでした。

 私も楽しいです。

 楽しいんですけど……ヨシュアンさんには、正直負けた気がします。

 私よりも絶対に充実した顔してますよ。

 そんなヨシュアンさんのご機嫌な顔を見て、勇者様は顔を手で覆ってしまいました。

 そしてぽつりと一言。

「もう……好きにしてくれ」

 そんなこと言ったら、本当に好きにしちゃいますよ! 勇者様!



 衣装を整え、ヴェールで絶妙に顔が見え難い様に調整し。

 最後の仕上げとして、お星様で作った錫杖を持っていただきました。

 一応、直接攻撃禁止の部門なので。

 杖とは言っても打撃効果は最大限に削ってあります。

 魔力を行使する際、作用を強化する為の触媒としてご用意したものです。

 魔法使いさんが持ってる杖と似たようなものですね!

 ちなみに魔境の御伽話に出てくる一般的な『魔法使いさん』はモーニングスターが標準装備ですが、試合の場合はこれも反則になるので気をつけないといけません。

 勇者様も錫杖で直接攻撃をした瞬間に反則負け一直線なので、注意していただきましょう。

「これで勇者様も……いいえ、『神女クリスティーネ』さんも準備完了ですね! 早速、まずは身近な方々にお披露目と行きましょう!」

「もうどうにでもしてくれ」

「目が死んだお魚みたいだね、勇者君☆」

「投げやりになっちゃ駄目ですよ、勇者様!」

 私達は両側から、それぞれ勇者様の右手と左手を引いて家を飛び出しました。

 私の家の前で、勇者様のお披露目を待ち構えている皆……まぁちゃんやせっちゃん、ロロイやリリフ、むぅちゃんやめぇちゃんといった面々がたむろしています。

「お、来た来た」

「わあ……勇者さん、すっっっごく、お綺麗ですのー!!」

「ぐふっ……ひ、姫。試合前から俺の精神を抉るのは止めてくれ」

「?」

「おうこら勇者、てめぇせっちゃんに悪気がある訳ねーだろ。抉った自覚なんざねぇよ……せっちゃんのこれは、天然だ!!」

「まぁ殿、いつも思うんだが君の教育は絶対に問題あると思うんだ!」

「面と向かってよくぞ言ったなぁ、おい。だが否定はしない」

「自覚あったのか……」

「あっはは♪ 勇者の兄さんってば、(ちょ~う)イマサラじゃん☆」

「……てめぇ、どこから湧いた」

「………………最初からいたよ? まぁの旦那……」

 勇者様が衣装を着る前にお化粧を施してくれたサルファだって、自分の傑作(笑)の完成体を見届ける為に待っていました。

 というか勇者様の身支度の為に自主的に来てくれたけど、顔を見るまでサルファの存在を忘れていました。

 てっきり許婚ちゃんと故郷に帰ったかと思っていましたが……奴は今、まだまだ往生際が悪いことに、マルエル婆のお家で十二歳の許婚ちゃんと結婚するしないの攻防戦を繰り広げているそうです。本気で往生際悪いですよね!

 皆も、「往生際悪いなぁ……」という眼差しをじっとりと注ぎます。

 そんな空気を読んだのか読んでいないのか、サルファは不自然な程に同様の微塵も見当たらない……いっそ張り付けたような薄っぺらい笑みで勇者様を必要以上に称えます。

「うっわ、勇者の兄さん美人過ぎー! マジ本物の聖職者みたいじゃん! こーんな綺麗なお姉さんがいるんなら、是非是非☆二人っきりの懺悔室でお話聞いてもらいたいぜ☆」

「懺悔室じゃなく、懲罰室なら二人きりでオハナシ(・・・・)してやらなくもない。ただし肉体言語に限る」

「あっは★ 勇者の兄さん、相変わらず手厳しぃ~……」

 何かが苛っときたのでしょう。

 相変わらず、あの寛大な勇者様を苛立たせるサルファは凄いと思います。

 勇者様はサルファの顔面をがしっと掴んで、今にもアイアンクローをくれてやりそうな感じです。

 心なしか、勇者様の目が微妙に据わっているように見えました。

「おいこら、勇者。てめぇ、試合じゃ物理攻撃禁じられてんだろーが。今からそんな調子じゃ、本番でも思わず手が出ちまうんじゃねーの」

「まぁ殿、これは試合じゃないから良いんだ……相手も、サルファだし」

「っつーか、思ってたんだが……」

「え? まぁちゃん、その心配そうなお顔はどうしたの? 何か懸念事項でも……」

「聞くかどうか迷ってたんだが……勇者、これから始まるのは魔法主体の個人戦だぞ? お前、魔法の腕はどうなんだよ」

「………………」


 勇者様の返答は沈黙でした。


 思わず、場の全員が勇者様に目をやります。

 自信の声も、不安の声も。

 どっちも勇者様の口からは聞こえてきません。

 うん、勇者様っていつも剣で戦うし。

 魔法を使っている場面って、そう言えば全然見ていない気が……

 思い当るところで、光を鷲掴んで投げたり(半物理)、アスパラを燃やす為に炎をあげたり、とか…………あれって、魔法なんですかね?

 魔法というよりいっそ、『必殺技』的な何かだったような気がしなくもない。

 勇者様に注がれる疑惑の眼差しが、色を増します。

「勇者様……勇者様って、魔法の腕の方は」

「ひ、光を掴み投げたり、炎を纏ったり、は……」

「あ、勇者お前、二度ネタは止めとけよ? あんなくっそ特徴的なヤツ、使ったが最後、正体誰だか暴露したが同然だろーが。使うにしても独自性あり過ぎだろ」

 正体ばらしたいなら話は別だがな、と。

 まぁちゃんがそう言うと、勇者様は本格的に押し黙ってしまいました。


 まるで沈黙の行に入った修行僧のような黙りこみぶり。

 その無言を貫く姿勢の中に、勇者様の実力の程が込められているような気がしました。

 この調子で、勇者様は今月を乗り切ることが出来るのでしょうか。



 一ヶ月は、団体戦で過ぎていきました。

 二ヶ月目は、頭脳戦の部に費やされる筈でした。

 そして、もうすぐ。

 もうすぐ……勇者様が邪小人さんの由緒正しいジンクスの餌食になってから、三ヶ月が経とうとしています。

 三ヶ月という日数が過ぎた時。

 勇者様は、果たして……?





 画伯の男性心理的な主張は想像で語っております。独断と偏見に塗れているかもしれませんね!

 男性の心情として訂正や物申したい個所がありましたら感想欄へどうぞ。

 思わず感心してしまうようなご意見がありましたら、画伯の主張を訂正します。


 そして、もう一つ。

 勇者様に使ってほしい魔法がある方、ご意見ありましたらどうぞ!

 なんか勇者様が魔法を使うイメージがわかないので、やってほしいことがあったらリクエストを受け付けます。

 ちなみに勇者様の適性が高い属性は光・炎系(太陽神の加護があるから)。

 回復魔法もそこそこ使える筈なんですよ! 設定的には!全然活用してませんけど!



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