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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
星降る夜に遭いましょう
104/122

102.星の降ったあとには



 私はロロイの肩越しに、唖然とその光景を見守ることしか出来ませんでした。

「リャン姉、揚げ芋いるか?」

「うん、いる」

 唖然と見守ることしか出来ませんでした!

 勇者様に、天空から八つの光が降り注ぐのを……!


 地面に這い蹲った状態から、上げられた勇者様の顔。

 四方からの光に照らされて、どんな表情(いろ)を浮かべているのかは不明です。

「……っ!」

 ですが、絶望に染まっていないことは確かでした。

 だって、勇者様の声が響きましたから。


「し……死んで、た、ま、る、かぁぁあああああああっ」


 勇者様の行動は、迅速でした。

 起き上がり、立ち上がるだけの猶予はないと見て取ったのか、勇者様は固く握られた拳で地面を殴ると、その反動で身を転がしたのです。

 まるで跳ねる様に、弾む様に。

 ですが転がっているだけじゃ、逃げきるだけの距離は稼げない。

 星の第一陣が、勇者様に接触するかという瞬間。

 咄嗟の反射的な行動だったのかもしれません。

 勇者様の右手が、木刀を投げ捨て……星を渾身の力で殴り付けたのです。

 物凄く、良い音がしました。

「うわ、勇者様すごい!」

 殴られた星が、若干浮き上がりました。

 それでも落下速度にほんの少しの猶予が芽生えたくらいで、落下事態は止まりませんでしたが。

 その間に勇者様は地面を転がり、星の直撃コースから身を離す。

 直撃を免れたとしても、まだまだ被害の有効射程内ですけどね!

 

 その間に。

 投げ捨てられて空を飛んでいた檜の木刀(ぼう)は、真っ直ぐ……勇者様めがけて降って来ていた星の一つにぶち当たります。

 すると、


 勇者様が星を殴ったのよりも、凄まじい音がしました。


 こう……なんて言うか、破壊音が。

 いえ、音がどうのじゃありません。

 実際に破壊されました。

 空を飛んでいた木刀が、星を一個粉々に砕きました。

 上空で砕かれたので、破片が飛来します……!

 ついでに木刀自身も星を破壊すると同時に跳ね返されたかのように地上へとリバースしてきました!

 くるくると回転しながら、如何にも吹っ飛ばされたという感じで……私の前方三m程の所で、地面へと突き刺さりました。


 ………………っ!!


 物凄い地響きと、重量を感じさせる振動やら何やらを伴って。


「!?」

 驚いたのか、レイちゃんのもふっとしたお耳がピーンッと立ち上がりました。

 心なしか、尻尾も硬直しています。

「な、何この轟音……」

 まるで未知の怪物を見るような目で、恐る恐ると御先祖様の愛用した檜の木刀に近寄って行くのですが……

 それより先に、見物していたドワーフのおっさんの一人が木刀に手を伸ばしました。

 あ、御先祖様の御神体が……!

 私の家に何の関係もない他人が触れるのは、ちょっと拙い、ん、だけど……


「ぐぼふっ!?」


 案の定。

 木刀を持ち上げようとしたオッサンが潰れました。

 それはもう、ぺっしゃりと容赦なく。


 どうやらオッサンは、木刀に自分を握るに相応しくない相手と判断されたようです。

 認めない相手には、凄まじい重量をかけてくるんですよね。あの木刀。

 ……長の年月と御先祖様の影響を経て魔剣化した影響です。

 おまけに皆に崇め奉られて大事にされてきたせいか、それとも御先祖様への忠誠心故か……実は、割と自尊心?高めの木刀らしく。

 アルディーク家の人間……つまり檜武人の末裔である私達には従順ですし、私達が宥めれば短時間での使用も容認してくれるんですけど。

 流石に全く無関係のオッサンに握られるのは許容外みたいですね。

 嫌な相手が手に取った時だけ、物凄いことになります。


 過去にはそんな嫌がらせにも動じず、むしろ強行突破で無理やり木刀を捻じ曲げようとした猛者もいたようですが。

 嫌がらせという名の障害を突破しても、木刀はその真価を発揮してくれません。


 ……そう言えば勇者様、ヤケにあっさりロロイとレイちゃんに倒されてましたけど。

 もしかして、私が引き離された辺りから、木刀……重くなってました?

 勇者様が木刀を投げ捨てたのは、それが理由でしょうか。


 ドワーフさんは割と力自慢な種族ですが、そんなの関係ないとばかりに木刀の重量に潰されました。

 今も木刀を抱えたまま、起き上がれずにわたわたしています。

 ドワーフさんばかりでなく、過去を遡れば様々な力自慢達が『檜武人の木刀』の前に膝を折って来ました。

 サイクロプスやヘカトンケイルといった巨人さん達。

 ミノタウロスや、オーガの親父さん達。

 魔族だけじゃなく、妖精や亜人さん、獣人さんと様々な方々を漏れなく潰してきた『檜の木刀』の実績は測り知れません。

 お陰様で『檜武人の御神体(ぼくとう)』は盗難の心配知らずで、管理する側としては大変助かっております。

 盗もうとして木刀に押し潰され、行動不能になったところをお縄になった泥棒も過去に何人かいたらしいですしね!

 『檜の木刀』のへその曲げ方が知れるに連れて、盗もうなんて血迷ったことを考えるお馬鹿さん達も消えていったそうですが。

 ええ、管理する子孫としては面倒が減って万々歳です。


 そんな木刀の不思議重量に。

 僅かな時間でも耐え、あまつ投げ捨てるという。

 暴挙……いえ、快挙を成し遂げたんですか、勇者様。


 常人なら、一発で潰れる筈なんですけど。

 それどころか、握ったまま転がり回ったんですか。


 今日も、勇者様の人間離れぶりが半端ありません。


 その後も狙いすましたように、未だ起き上がれずにいる勇者様を次々に星が狙い撃ち☆状態で落下してきました。

 八つの内二つを征したとはいえ、まだ六つの星が残っているので仕方ありません。

 落下予測地点から転がって逃れ、もう一つ。

 転がった末に反動を付けて起き上がり、人間の限界をギリギリ超えていそうな跳躍力で以て、自分めがけて降ってきた星を足場に跳んで逃げて残りは二つ。

 丸腰の勇者様は、身のこなしで避けるか迎え撃つかしなくてはなりません。

 でも逃げるにしても、そこまでに六つの星を回避するので、かなり限界を超え気味だったようです。

 地に両足でしっかりと立つ勇者様の姿は、心なしか前傾姿勢。

 肩が大きく上下し、ぜーはーと荒い呼吸音が聞こえます。

「……っあと、ふたつ」

 ですが勇者様の目は、まだ諦めていませんでした。

 七つ目と八つ目の星は、僅かな時間差で勇者様に襲いかかりました。

 勇者様は華麗な身のこなしで回避に成功!

 おお、遣り遂げた!?と。

 いつの間にか勇者様の回避行動を手に汗握って見守っていた私達。

 遂に達成と、歓声を上げ……そうになりましたが。

 やっぱり、体力の限界だったんでしょうか。


 勇者様の足がもつれて、草に引っ掛かり。

 華麗にすっ転びました。


「勇者様ー! 生きてますかー」

「おいおい誰だ? あんなとこの草結んでトラップ潜ませといたヤツ。地味な罠だな、おい」

「ああ、足引っ掛けるやつ。懐かしいね、まぁちゃん。私達も昔よくこさえたよね!」

「そういや、丁度この丘でも量産したな。八年くらい前に」


「………………」

 顔面を地面にめり込ませたまま、沈黙の勇者様。

 このままだと、本格的にお星様と熱い抱擁を交わす羽目になっちゃいますよ……!?

 それとももしかして、どこかお怪我でも……?

 はらはらと見守る私達。

 ……そういえば、誰も手助けにいきませんね。

 勿論、私は論外ですが。

「く……っ」

 勇者様が沈黙の後、根情で立ち上がろうと顔を上げます。

 そこに。


 ちゅどーん!!


 星が落ちました。


 完全な、新手。

 全く注意を払っていなかった、新たな星。

 それが……直撃でした。

 





 勇者様と流星の衝突事故。

 字面だけ見てみると、大惨事です。

 でも冷静に考えてみましょう。


 あの流れ星は、ドワーフさんやエルフさんだって体当たりでぶつかってもちょっと怪我するくらいで、大概命は無事に済みます。

 言い変えてみれば、それくらいの打撃力しかない。

 肉体強度的にドワーフはどうか知りませんが、エルフは確実に勇者様より劣る気がします。

 むしろ勇者様の肉体強度と回復力はドワーフを凌駕していてもおかしくない気がします。印象としては、ですけど。

 そこを踏まえて考えてみると……

 星に事故起こされたからって、それくらいで勇者様がダメージを負う気がしないんですよね。

 むしろ怪我をするのか怪しい気がします。

 

 案の定。


「………………思ったよりは、痛くない。痛くないが……地味に、痛い」


 勇者様は無事でした。

 この時点で勇者様が人間って嘘だろ、なんて囁く観衆の声が聞こえましたが。

 その点は同意しますけど、今は勇者様に駆け寄って怪我の有無を確認しましょう。

 掠り傷程度の怪我しかないんじゃねーの、と、まぁちゃんが言いました。

「勇者様、生きてますか!」

「……この状況で、動いて喋っているのに死んでいたら、俺は一体何なんだ?」

「活きの良いアンデットさんになっちゃった可能性も否めませんよ? 魔境の死を克服した皆さんは、活きの良さに定評がありますから。ぴっちぴちですよ」

「その言い方、なんか嫌だ……! しかもアンデットなのに普通に一般人レベルで受け入れられてそうな言い方が更に嫌だ!」

 勇者様は、自分の三分の二程の大きさの星を抱えて転がっていました。

 どうやら落下してきた星を、咄嗟に包み込むようにして衝撃を殺したようです。

 殺しきれなかった衝撃は、地に逃がしたのでしょう。

 勇者様の周りの地面が、衝撃で軽くめくれ上がっています。

「お怪我はありますか、勇者様」

「……すこし、肩が痛いかな」

 

 え、怪我してるんですか?


 急いで勇者様の肩のあたりを触診します。

 軽く肩だけ脱がして、目でも確認しました。

「軽い打撲ですね」

「……アレだけの目に遭って、軽い打撲だけで済んでいる俺って一体」

 あれ、ついに勇者様が自分に疑問を抱き始めました?

 流石におかしいと、ついに認めちゃうのでしょうか。

 勇者様の遠い目は何だか硝子のように澄んでいて、何を思っているのかは良く分かりません。

 とりあえず勇者様の肩には打撲に良く効く湿布を貼って、包帯で軽く固定しておくことにしました。

 それから接待される筈だった勇者様が負傷してしまったので、今夜の星見物は自然とお開きになってしまったのでした。


 

 ――後日。

 まぁちゃんやせっちゃんが調子に乗って星を取りまくったから、でしょう。

 ロロイやリリフ、レイちゃんが獲得した星はレイちゃんの武装に使うことで話が付いています。

 だからまぁちゃんとせっちゃんの取った星を、勇者様の武具に譲ってもらう予定だったんですが……想定よりも、大分多いです。

 物凄く多いです。

 多すぎて、確実に余ると断言出来ます。

「こんなにたくさん、どうしようか。他の人に譲る?」

「んな面倒なことすっかよ。勇者っつったら、ほら、他の部門も仮装して出やがんだろ? そっちの仮装ん時の武具に回しゃ良いだろ」

「良いの? まぁちゃん」

「俺が持ってたって仕方ねーだろ。ここはパーっと豪快に、景気良く使い込んじまえ」


 星を積み上げた功労者の、まぁちゃんから許可が下りました。

 星は勇者様が薔薇園に忘れてきちゃった剣の代わりを打つのに使用する予定だったんですが……まぁちゃん、良いって言いましたしね!


「えぇと、チェーンウィップと十字の錫杖と……」


 まずはトリオン爺さんに、超特急でのお願いです!

 老体を酷使してでも、速攻で仕上げてもらわないと!

 ちゃんと見返りも弾んじゃうので、頑張ってもらいます。

 赤薔薇の良く似合う貴婦人用の鞭と、白百合の如き清楚な修道女に相応しい錫杖!

 これだけは絶対に外せませんよ!


 まぁちゃんが許してくれたことに、大喜びで。

 私はうっかり勇者様が平素に使う為に武器を、大いに後回しにしてしまうのでした。





勇者様(素)を強化するつもりが、うっかり勇者様(女装ver.)の強化に走ったようです。

魔法で戦う個人戦に出る勇者様(修道女ver.)には錫杖。

武器主体で戦う個人戦での勇者様(レディ・ローザ嬢)にはトゲトゲした鞭……。

きっとデザインにも凝ることでしょう☆

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