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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
星降る夜に遭いましょう
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100.星殺る夜に ~スターライト☆檜武人伝説~



 屈強な戦士達が、風を切る音を響かせながら一心不乱に素振りします。

 手に握っているのは純百%檜製の木刀(ぼう)

 どう見ても明らかに、私の先祖にあやかっています。

 この魔境で檜の木刀(ぼう)と言ったら、『=檜武人』ですから!

 フラン・アルディークを尊崇する武人達が、手元で素朴な存在感を放つ木刀を御神体に見立てて祈りを捧げています。

 見れば見るほど、それは一種異様な光景。

「リアンカ……彼らは、一体何を?」

「ですから、伝説への挑戦ですよ! 勇者様」

 それ以外に、何と説明したものか。

 おさらいがてら、私は『スターライト☆檜武人伝説』の概要を語ることにしました。



 ~ スターライト☆檜武人伝説 ~


 それは、もう何百……もしかすると何千年と前のこと。

 当時の魔王と三日三晩、拳の競演を繰り広げて村の建設を認められた初代村長……羊飼いのフラン・アルディーク。

 彼は対等の戦いを見せたことで魔王に気に入られ、大将軍の地位まで授かりました。

 位置的には、実は魔王の四天王より上です。

 でも本分は羊飼い及び村長、ということで。

 あんまり、魔王様を構ったりはしません。

 むしろ、だからこそ……だったのでしょうか。

 放っていたらいつまでも顔を出さないフラン・アルディークに、魔王の方から積極に関わりを持とうとするようになりました。

 その一環として、魔王城御一行様は我が家の御先祖様を連れて星見狩りに出向いたそうです。

 ちゅどんちゅどんと星が降り注ぐ、この丘に。


 それから当時の魔王様が自らわざわざ星を二つ三つ捕まえて見せて、御先祖様にも取ってみるよう促しました。

 対して、御先祖様の返事は、

「 無理 」

 だったそうです。

 本当かよって、私も思いました。

 でも御先祖様の偉業を直接知る魔王御一行様はより強くそう思われたみたいで。

 人間がこんなのに挑戦したら死ぬわ!と叫ぶ御先祖様に取り合うこともなく「はいはい、それが普通の人間だったらそうだろうな」と軽く流し、御先祖様を星の前に連れ出した。

 

 御先祖様目掛けて降り来る、星。

 方々から寄せられる野次に応援。

 応えられなかったら、御先祖様に待つ運命は……死。

 やがて眼前を覆い尽くす程の大きさを誇る星が、御先祖様に命中コースで突っ込んできて……


 御先祖様は、愛用する檜の木刀を振りかぶりました。


「結果は……ホームランだったそうです」

「打ち返したのか!?」

「はい。跳ね返ったとか、そんなレベルじゃなく。お星様は夜空に返っていったそうですよ……そして見えなくなった、と」

 それまで星と言えば、受け止めるモノ。

 自分の死力を尽くして捕獲し、衝撃を受け流して地面に転がすモノだったのですが。

 まさか圧倒的な勢いを付けて迫って来る巨大な物体を、勢いそのまま反転させる勢いで打ち返すとは、と。

 御先祖様の振る舞いは、魔境の住民の目からぼろぼろと鱗を絞り取るような、斬新な行為に見えたそうです。

 皆の度肝を抜きながら、御先祖様が言った言葉があります。

 今に残る記録によれば、御先祖様は……

「ほら言っただろ! だから無理だって言っただろう! 俺に受け止めるなんて出来ないって!」

 御先祖様は、言葉が足りなかったんじゃないでしょうか。

 どうも彼の「無理」という言葉には、「武器(エモノ)が檜の木刀で、どうやって受け止めるんだよ。無理だろ」という意味が込められていたらしく。

 だからといって打ち返す御先祖様は非常識この上ないんですけど。

 どうやら問題は、御先祖様の戦闘スタイルだった、ということで。

 

 御先祖様はその夜、自分の名をより高めることとなりました。

 星を受け止めるのではなく……空の果てまで打ち上げた男、として。

 魔境の住民からこよなく慕われた、檜武人。

 彼に畏敬の念を抱く者は多く……


 そして先駆者に続け、とばかりに。

 後に続く方々が現れました。


 とはいっても、後に続こうとした……というだけで。

 その試みが成功したかどうかは別問題。

 更には檜武人の偉業に敬意を払い、挑む時には檜の木刀で、という暗黙の了解が発生しました。

 そんな木の棒一本で星を夜空まで打ち返すことの出来る人なんて、そう滅多にいないと思うんですけどね!

「御先祖様が偉業を達成して以来……挑戦者は例年、かなりの人数に及んでいますが。未だ成功したのは、御先祖様を入れても二十八人だけだそーですよ」

「にじゅうはち? それでも三十人近くいるのか!?」

「内、二十二人は魔王経験者です」

「むしろ魔王じゃないの達成者が五人もいるのか。というか『魔王経験者』!? 何かの技術か何かみたいに言うべきものか、それ」

「ちなみにまぁちゃんは含まれません」

「えっ!」

 あれ、勇者様の驚きようが想像以上でした。

 ぎょっとした顔で、目を見開いています。

「……まぁ殿だったら、挑戦していそうだと思ったんだが」

「あー……挑戦な。するだけはしたぜ?」

「あ、まぁちゃん」

「よう、お疲れさん」

 降り注ぐお星様を眺めながら、勇者様とお話していたところにまぁちゃんの声。

 つい今しがたまで、荒熊のように星の乱獲をしていた筈ですが。

 休憩でしょうか?

 いつの間にか酒瓶片手に、私達の傍らにまで接近していました。

「まぁ殿、お疲れ…………だけど、今の言葉は一体」

「あ? なんかおかしなことでもあったか」

「その、今のまぁ殿の物言いだと……挑戦はしたが失敗した、という風に聞こえるんだが」

「実際その通りなんだから、説明は要らねーだろ」

「まぁ殿!? まぁ殿が、失敗!!?」

 驚き過ぎたのでしょうか。

 勇者様が、今度こそ固まってしまいました。

「挑んだのはもう何年も前だけどな。あれ、何年前だったか……」

「十年くらい前だったよね?」

 あの時は……実力が足らずに悔しがるまぁちゃん、という大変珍しい光景を拝むことが出来ました。

 あまりに印象深過ぎて、私もそれで覚えています。

 まだまぁちゃんは少年時代だったんですけど、それでも今に通じる実力の片鱗はとっくに花開いていましたから。

 私にとっても「あのまぁちゃんにも出来ないことがあるんだ!?」と、物凄く衝撃的な驚きでした。

「まぁ殿が、失敗した…………って、そんなの所詮は一人類に過ぎない俺にとっては更に不可能じゃないか。リアンカ、俺に死ねと……?」

「誰もそんなこと言っていません! 勇者様、飛躍し過ぎです!」

「だが、君はさっき、俺に挑戦を勧めて……」

「本当に魔王じゃないと無理って言うんなら、あんなに挑戦者の方々がいるはずないでしょう!? 失敗はしても、結構惜しいってところまで行く方はいるんですよ?」

 それでも、有史以来成功したのは二十八人だけですが。

 だけどこれは肉体強度云々とか、才能がどうとか、身体能力やら魔力やらがどうのこうのとかいう問題ではありません。

 もっと直截的な、技術的な問題が関わってのことです。


「ぶっちゃけ、檜の木刀が全ての原因だからな……」


 経験者は語る、ということで。

 ふっと遠くへ眼差しを注ぐまぁちゃんの言葉には、不思議な説得力がありました。

「ま、まぁ殿……なんだかいつにない哀愁が満ちてるんだが」

「いつもだったら勇者様が纏う技なのにね」

「リアンカ? 『哀愁を背負う』っていうのは技術(スキル)的なモノじゃないからな? あと、俺が故意に背負っているかのように言うのは止めてくれ」

 だけど勇者様の十八番だと思います。

 困り顔で見てくる勇者様の顔が、なんだか可愛かったので言いませんけど。

 否定も肯定もしないで、ここは話を戻して差し上げましょう。

 勇者様のことも、普段はついつい弄ってしまいますから。

 時にはそっとしておくのも優しさです。

「リアンカ? リアンカ……っ? なんでそこで顔を逸らすんだ!?」

 時にはそっとしておくのも、優しさなのです。

 私の優しさ、今日は大判振る舞いですよ。勇者様!

「まぁちゃん、まぁちゃん、前もそんなこと言ってたけど……檜の木刀が駄目なんだよね?」

「ああ、木刀(あれ)じゃなけりゃ……いっそ金棒とか、鉄剣とかそういうのでやってりゃ、あそこまで苦心しねぇ」

「でもそれじゃあ、どうして皆さん檜の木刀に拘るのかな? 見る限り、今この場でも檜武人の伝説に挑戦している人って全員木刀持ちっぽいんだけど……」

「そりゃ決まってるだろ」

「なにが?」

「それこそ檜武人……フラン・アルディークの偉業に敬意を表してってこった。ありゃ檜武人への畏敬を込めて木刀使ってんだよ。っつうか檜武人の偉業が檜の木刀使ってのもんなのに、より有利な条件で伝説に挑んでも意味ねぇだろ。それで星を打ち返したって、檜武人の偉業を踏襲したことになんねぇだろ」

「おお……そういうとこ、融通が聞かないって言うか真面目だよね。そういうところばっかり」

「実力が絡む様なとこで誤魔化す奴ぁ、魔境の民じゃねーからな」

 檜武人の伝説に挑む人の割合は、圧倒的に魔族さんが多いです。

 それはうちの御先祖様を崇めるにしたって、崇拝の度合いが一番強いのが魔族の方々だから。

 やっぱり当時の魔王さんが絶賛した武人(※羊飼い)っていう点が、彼らの尊崇を集めるのでしょう。

 『魔王』は魔境最強にして、魔族さん達の上に武で君臨するまさに覇者!

 戦闘狂な全魔族にとって、圧倒的なカリスマです。

 それが絶賛したとなると、こうなってもおかしくない。

「実際、金属製の棍棒を使うよりも何の変哲もない檜の木刀使う方が圧倒的に難易度高ぇからな。考えてもみろ? ただの木の棒の強度で星を打ち上げるとか。どう考えても神か変態の所業だろ」

 普通、星にぶち当てても耐久度足んねぇで折れるから。

 淡々とそう語るまぁちゃんの声音は、沁々としていて。

 私はそんなまぁちゃんに、一言申し上げたい。

「まぁちゃん、その変態って私の御先祖様(直系)なんだけど」

「安心しろ。俺にとっても御先祖様(傍系)だ。それにフラン・アルディークって確か神格化したんだろ、本人曰く。だったら御先祖は『変態』枠じゃなくて『神』枠だろ」

「ああ、そういえばそうだったねー」

 脳裏にキラン☆と、かつて勇者様の対戦で目にした御先祖様のお顔が浮かびました。

 何世代、何十世代、下手したらもっと隔てている筈なんですけどね?

 妙に何だかまぁちゃんに似ているような気がする方でした。

 お陰で妙な親近感もありましたし。


 誰かがまぁちゃんより私と似てるって言っていたような気もしますけど。

 もう何ヶ月も前のことです……きっと私の勘違いですよね!


「それじゃあ、まぁ殿の敗因も……?」

 さっきまで物言いたげに、私の服の裾をツンツン引っ張っていたんですが。

 いつの間にか気を取り直したらしく、勇者様が会話に加わって来ました。

 相変わらず、切り替えの早い方です。

「ああ、な……簡単に折れちまう檜の木刀を使って、星を打ち返す。それに意味があるってのにな……要は求められるのは、圧倒的に貧弱な木刀を駄目にすることなく、如何に扱うかっていう技術面。当時の俺には、それを補えるだけの技も工夫も経験もなかったっつうことだ」

「技術でどうにかなる問題に思えないんだが。木の棒は木の棒で、使用に耐えると思う方が間違っている気がするんだが」

「馬鹿野郎。それでも檜の棒で成功させてんじゃねーか。二十八人」

「それこそ、まぁ殿の言じゃないが……その二十八人が変だっただけじゃ」

「成功者の圧倒的過半数を先祖に持つ俺に、よく平然と言えたな?」

「貶す意図はなかった! 本当だから!」

 今までの成功者の内、何の技術も後世に継承させず、また参考になりそうな話も残さなかった当家の御先祖様は除いて。

 それ以降、檜の棒で星を打ち返すという偉業に挑んだ方々で、成功した魔王さんは大なり小なり技術的な秘訣話を何点か残しているそうです。

 だけどそれも成功させた彼らからすれば「小細工」になってしまうらしく……本人達は達成した、という気がしなかったそうです。

 だってフラン・アルディークの伝説とは、条件が違ってしまいますから。

「――ちょっとマテ。その物言いだと、フラン・アルディークが全く何の工夫も技術もなく素の力で、やらかした……とでも言っているように聞こえるんだが!?」

「その通りですが、何かおかしなところでもありました?」

「いやいやいやいやいやいや、待て!? おかしな点だらけだからな!?」

「でも実際、御先祖様が魔法を使ったまたは使えた、っていう記述は見たことがないですしねー?」

「俺も聞いたことねぇな。魔王城の記録にも、フラン・アルディークはただの人間だったとしか書いてねぇぜ」

「ちょっと君達二人、『ただの人間』の定義について詳しく話し合おうか!! ただの身体能力のみで夜空に星を打ち上げるような人間が、ただの人間の筈がないだろう!?」

「それを勇者が言っちまったら、なぁ……」

「勇者様が言っちゃ駄目ですよね」

「君達は俺のことをなんだと思ってるんだ」

「じゃあ逆に聞くが、勇者。てめぇは自分のことを何だと思ってるんだ?」

「………………女運に恵まれていない、男?」

「まあ、外れちゃいねーな」

「その通りと言えばその通りですよね」

「お、俺のことは良いだろ! それより本当に、何者なんだフラン・アルディーク……!」

「羊飼いだろ」

「羊飼いですよ」

「その認識は絶対に改めた方が良いと思う!!」

 どうやら何の『小細工』もなく、偉業を達成したらしい檜武人。

 彼に続けと星に挑戦し続ける方々にとって、御先祖様の所業は手を伸ばしても伸ばしても、届きそうで届かない憧れのようです。

 達成した、と名前だけ並ぶ他の二十七人だって、言っていたそうです。

 形だけでも達成はしたけれど、このままじゃ本当の意味で檜武人の偉業に並べたとは言えない。

 だから、と。

 一度成功した魔王さん達は、その後。

 何の工夫もせず、肉体的な利点も封じ……人間よりも有利となってしまう全てを排し、素のままの身体一本で挑むようになったそうです。

 そうなると檜の棒を保持できなくなり、失敗するばかりだったとか。

 つまり檜武人の伝説に挑戦して、成功したと伝えられる人々はみんな……星に挑みながら、手元にある檜の木刀も魔法やら技術やら工夫やらで同時に守っていた、と。

 それ、本末転倒じゃないんでしょーかね。

 そしてまぁちゃんは最初っから檜の棒が折れない為の対策を何も立てずに挑戦して敗退したそうです。

 というか魔力が強すぎて微調整とか細かい加減とか、ただでさえ苦手なのに。それが十年くらい前となると、より加減は荒いでしょうし……大雑把な力の使い方を旨とするまぁちゃんに、そんなん達成出来る筈もありませんよね!

「それ結局、本当の意味で偉業を達成したのはフラン・アルディークだけ……ということにならないか?」

「一応、星を打ち返すという趣旨は達成出来ているので過去の二十七人も数に数えられているんですよ? ただ打ち返すのに成功した後で、挑戦の方向性を修正するのも何かの縛りに挑戦するのも個人の自由ですよね?って話です」

「それで、リアンカ?」

「なんですか、勇者様」

「君は、俺にどっち(・・・)の意味で挑戦させようと?」

 私は、そっと無言で。

 勇者様に、檜の木刀を差し出しました。

 例年のことながら伝説に挑戦する方が多いので、檜の木刀自体は『星祭り』の屋台で大量に売られています。

 準備してきた檜の木刀を折っちゃっても挑戦するって方が多いですしね。そういった方々に狙いを絞った商売です。

 私は勇者様の両手に木刀を握らせ、精一杯の笑顔を向けるのです。

「勇者様ならきっと出来ますよ! 方法はお任せで……健闘を!」

「いつの間にか拒否権が消滅している!?」

 ……と、そんな訳で。


 勇者様が伝説に挑みます。

 こう聞くと、なんだか……とても『勇者』っぽい、ですよね?







遠いお空から凄まじい勢いで迫る星を相手に、バッターボックスに立つ羽目になってしまった勇者様。

果たして彼は、偉業を達成できるのか……?


 a.ぺちゃんこになる

 b.ど根性ガエルになる

 c.星に弾き飛ばされて自分が☆になる

 d.どさくさに紛れてロロイに抹殺されかける

 e.偶然☆に紛れていた未確認飛行物体と接触

 f.偶然☆に付着していた謎の生物と一悶着

 g.安定の女難


さあ、どーれだ♪

……と言いたいところですが、なんだか良いネタが浮かびません。

選択肢も不完全燃焼っぽい気がします……

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