肉体活性と抗体活性
岩壁にかこまれた地下水道の暗闇の中、ガサガサと蟻が行軍する音が聞こえる。その足音を訓練されたように規則的に奏でさせるあたりが“軍隊”の名前に由来しているのであろうか。そんな軍隊蟻達は、足元を流れる川をバシャバシャと跳ねさせながら谷底に自然に生まれた地下水道を行軍していくのだった。
軍隊蟻に捕まえられた2人はそれぞれが違う蟻に担ぎ上げられたまま、もう何時間も進んでいる。
「ミオ?」
「何よ?」
「いや見えないからさ、近くにいるのか確認したかっただけだ」
「あっそ」
「…暇だなぁ」
最初は何処に連れて行かれるのかわからない不安が大きかったものの、ずっと暗闇の中を進んでいると変な落ち着きが生まれてしまった。それはミオの方も同じようで、状況を顧みない2人は蟻達の上でダラけ始める。
「いくら暇でも、また暴れ出したらぶん殴るわよ」
「分かってるさ、もう振り回さねぇよ。他にやることも無いけどな」
「なら、黙ってなさいよ。私は疲れてるのよ。リオンも探さなきゃいけなかったのに、私達まで死んじゃうなんて…」
「…あの世で親父に殴られるな」
「…ふふふ。ゴメスさんならするかもね」
「笑うなよ! 本気で痛ぇんだからな? あのバカ親父は手加減てもんを知らねぇんだからよ!」
「ふふふ」
「けっ…、バカにしやがって」
「…ねぇ」
「何だよ?」
「リオンもこうやって連れて行かれたのかもね」
ミオの淡い期待が囁かれた。失意の中にある者にとっては甘美な響きがする言葉だ。
ミオはリオンの屍体もこうして蟻達に運ばれたのならば、このままこうしていれば、また会えるかも知れないと思い始めていた。
「こいつらにか? こいつら、屍肉も食べるのか?」
ティムは蟻達は生肉しか食さないのだと思っていた。自分達を殺さずに、わざわざ生きたまま巣穴に連れて行こうとしているのだから、そう感じたのだ。だからミオの言いたい事はわかるが、そんな淡い望みは叶いそうにない。
「知らないわよ。でもそうだったら、最期に会えるかもしれないなぁって…ね」
「はんっ! …まぁそうだったらいいかもな」
「最期ぐらい3人一緒にいたいじゃない」
「どうせその後は、細切れになって別々にこいつらの腹の中だよ」
「ほんっと、あんたって女心がよく分かってるわよね!!」
「何なんだよ? 何で怒ってんだ?」
「バカティム!」
会話の内容は自分達の生死についてなのに、何故か和やかなムードの中で地下水道を運ばれて行く2人。蟻達は枝分かれする地下水道の中を迷わず進み、いつしか川の流れとは離れて水が流れ込まない自分達の巣穴の中へと進路をとる。
「そろそろ終着点かしら?」
「調理場なんてのがあるのかね?」
どこかマト外れな質問を投げ掛けるティムに、2人で笑い声を上げる。死への恐怖心など微塵も感じさせない。生死を共にすると誓った仲間が互いに安心感を与えているのかもしれない。リオンを喪った哀しみが感覚を麻痺させているのかも知れない。
2人がたわいない会話に華を咲かせている内に、蟻の行軍はどんどん進んで行く。地下水道よりも数多くの道が枝分かれしていて定期的に脇道が出てくる。蟻達はそんな中を進んでいるのだから、中の構造を知らない者が入れば2度と出て来れないような造りだ。
「着いたみたいだな」
ついに通路らしきものが途切れ、一際広い空洞に運びこまれる。
100以上いた蟻達は、途中の別れ道の度に姿を消していき、この部屋には2人を担ぎ上げる黒蟻とそれを警護するように付き添う少数しかいない。
一際広い部屋の中には何故か明かりが付いており、入って来た穴の向かいには、さらに奥へと続く穴がある。部屋を照らす切れかけの豆電球のような薄暗い微妙に赤味がかった光は、天井に顔を出している岩石が放出しているようだった。
2人はそんな赤い岩石の真下、部屋の中央まで運ばれると、円卓のように地面から突き出た台の上に転がされた。ここまで運んできたことで自分達の仕事が終わったのか、警護役を含めた黒蟻達は入って来た穴からそそくさと去っていく。
代わりに奥の穴から、全身を黄色に染めた3匹の蟻が姿を現した。ティムはそんな黄色蟻の姿をボーッと眺めている。
「ねぇ…暴れるなら今なんじゃない?」
「おっ! いいのか?」
円卓台の上に座って、ジリジリと近寄ってくる黄色蟻の姿をボーッと眺めていたティムが歓喜の声を上げる。広いとは言っても高さ3メートルにも満たない空洞の中で暴れればミオに怒られるのではないかと思っていたティムは、免罪符を手に入れて浮き足だった。
ここまで握っていることしか出来なかった剣を両手で握り直すと、台の上に立ち上がり3匹の先頭を進む黄色蟻に向かって飛んでいく。
「暇だったじゃねぇかよ!!」
キィィィ…
「だっはぁ〜!!」
キィシャーン!!
溜まったストレスを解き放つような言葉と共に振り下ろされた大剣が硬い表皮に当たり、ティムの剣を弾き返す音を奏でる。しかし、跳躍と共に繰り出された一撃はそんな抵抗をも力付くで抑えつけて蟻の肉体に食らいつく。
ティムの気迫の声と共に先頭を歩いていた黄色蟻の頭が宙を舞った。
「はっは〜!!」
連れてこられるまでの間、ティムは闇雲に剣を振るっていただけではない。剣の通り易い部位を探していたのだ。身体の節々まで硬い表皮に包まれた蟻ではあったが、そのつなぎ目だけは可動域の都合上どうしても装甲が薄くなってしまう。
溜まっていたフラストレーションは何も暇だったことだけではない。訓練で鍛えた自分の技が簡単に跳ね返され続けたのもティムには許せなかった。この一撃でそれを発散させたティムは喜びに身を振るわせる。
戦闘中に動きを止めて、何やら天井に向かってガッツポーズを掲げていた。
「ティム! 何か吐くわよ!!」
そんな隙だらけのティムを狙って、黄色蟻が液体を飛ばす。
ミオの言葉に急いで身を翻したティムのスレスレを黄色の液体が飛び去っていく。
「油断してんじゃないわよ! あと2匹もいるでしょ!」
「溶けるやつかよ…ヤバいな」
地面で白い煙を立ち上げる液体をマジマジと見つめたティムは、気を引き締めて残りの2匹に切りかかった。
「てぇや〜っ!!」
キィ〜ン!
「ちくしょ〜!」
もう1度頭を切り飛ばしてやろうと思っていたティムだったが、蟻もそこまで甘くはなかった。斥候が一瞬で頭が飛ばされたのを見て危険を感じたのか、2匹目の蟻は首に振り下ろされた一撃を前脚で防ぐ。思い通りにいかない憤りを、防御してきた前脚を叩き潰すことで晴らしながら、ティムは攻撃方法に思考を巡らせる。
「痛ってぇ!!」
2匹目に集中し過ぎて3匹目に気を回せなかった。
ティムは鋭く噛みつかれた左腕に痛みを感じる。振り離そうとしてもなかなか離れない蟻に冷や汗を流しながら、それならばと、開かれた口内に剣を突き入れた。蟻もさすがに体内までは硬質では無いようで、面白いぐらい簡単に縦に切り裂ける。
「痛ってぇな!!」
すでに絶命し、身体の力は抜けているのに、死んでも離れない蟻の大顎をティムが涙目になりながら引き剥がす。そんなティムを狙って、最後の蟻が粘着性の糸をお尻の穴から噴出させた。
それを何とか避けたティムは、その多様な攻撃方法に目を丸くする。逃げるティムを追って糸が降り注ぎ続ける。
「おいおい、そんなに長いこと出し続けてたら、ケツが痛くなるぞ!!」
「バカ言ってないで、さっさと片付けなさいよ!」
ミオの言葉にイラッとしながら、糸の噴出が途切れた瞬間、ティムは一気に距離を詰める。威嚇の為に大きく開かれた口内へと剣を突き入れ、先程と同じように内側から切り裂いた。
ティムは返り血を拭いながら、ミオに振り向く。何も手伝わないくせに、石台の上でアレやコレやと言いたいことを怒鳴り続けたミオに一言伝えるため、足を踏み出した。
「ティム!!」
その踏み出した足に力が入らず、ティムは前のめりに倒れこんだ。
「ティム! どうしたの!!?」
受け身を取らない危ない倒れ方にミオが驚く。
「…マ……マ……」
先ほど噛まれたティムの左腕がジンジンと痛みを訴えていた。黄色蟻の大顎からは、身体を麻痺させる毒液が出ていたようだ。普通はもっと時間をかけて全身に巡るのだが、直後に走り回っていた為に一気に全身が痺れてしまったようだ。
「ママ…お母さん? …そんな!! ダメよティム! まだそのお花畑を越えちゃダメなのよ!!」
ティムから漏れ出た言葉は、死の直前に見るという走馬灯を想起させた。ミオは生死を彷徨うティムを救おうと、霊力を練り始める。
「死んじゃダメよ!! 風の精霊さん、お願いティムの身体を癒してあげて!!」
ミオの願いは即座に叶う。
黄色蟻に噛まれた腕の傷は、淡い光に包まれて癒えていった。
「…ちが……うま……」
「そんな!! 何で私の精霊魔法が効かないの!!」
しかし、小刻みに震えるティムの身体は元に戻らない。回復魔法に自信のあったミオだからこそ、その結果に青ざめた。
もう1度…ミオはまた即座に霊力を練って願いを告げる。
「…ちが…うま」
「血…!? 血はもう流れてないのよ!!」
「…ちが……」
「傷は癒えたのよ!?」
それでも結果は変わらない。
ティムが何かを訴えてくるが、ティムを蝕む何かがそれを上手く伝えてくれない。
ミオは回復魔法を繰り返すが、ティムが元気になることはなかった。ミオの焦燥がドンドンと溢れ出してくる。
蟻の毒液は身体を麻痺させるが、それ以上の効果はない。鮮度を保つ為に生きたまま食料を保存する黄色蟻は、獲物を動けなくする目的で麻痺毒を用いる。今のティムを蝕んでいるのはその麻痺毒だけでミオが唱える回復魔法は外傷や体力を回復させるものだった。
ミオがそれを何度繰り返そうと、外傷すらスッカリ治ってしまったティムには効果がない。
「…ち…が…ぅっ…」
「だから血は流れてないってば!! まさか…もぉ視力も感覚も残ってないの? ダメよ! 風の精霊さんお願い!!」
麻痺以外、元気なティムに更なる癒しの力が注ぎ込まれる。ミオは更に強力な魔法ならばと、霊力を練る量を増やしていった。
「ゴホッ…ちが…」
「何で!? 何でよ!! 精霊さん!!」
更に癒しの力が注ぎ込まれる。回復魔法には快調な時に強大な癒しの力が注ぎ込まれると、逆に身体に悪影響を与えてしまうという副作用があった。ティムは内蔵の動きが悪くなり、吐血してしまう。
「ゴポッ」
「きゃ〜!! なんで? なんでなのよ!! 私の精霊魔法じゃ効かないっていうの!?」
ティムから吐き出された血を見たミオは、また、精霊魔法を重ねるが、ティムの状態はどんどんと悪化して行く。
「ダメよ! ダメなのよ!! もう一度!」
これまでで最大級、死者すら戦場に呼び戻すほど強いと言われている回復系精霊魔法を用いる為にあらん限りの霊力を練り始めるミオ。
あまりに集中し過ぎたミオは、凄い速度で近寄ってくる影にも気付けずにいた。
「お願い!! これで生き返って、風の…っ
ガシッ!!
振り上げた手を後ろから握られたミオは一気に恐怖に駆られる。ここはまだ蟻達の巣の中なのだ。
今更になって間抜けさを嘆いても遅い。
私は死んでも…それでも、ティムだけは助けたい。
その一心で中断された願いをもう一度唱え初めるミオを、掴んだ手が思いっきり引っ張り上げる。ティムの傍に座り込んでいたミオは、その勢いで立ち上がらされた。その衝撃で練り込んでいた霊力も霧散してしまった。
「嫌ぁ〜!!」
ティムを救うための最後の手段、その霊力が霧散していく。ミオはそれを防ごうと足掻くが、去っていく霊力は戻らない。
「ティムがぁ〜!! ティムがぁ〜!!」
ミオは掴まれ続ける手を振りほどこうと暴れた。ティムが死にそうなのに、私がどうにかしなくちゃいけないのに、それなのに…どうしても離してくれない。相手を殴りつけ、蹴りつけてもどうしても離してくれないのだ。
バシィ〜ン!!
掴まれた手が離れたのと、自分が吹き飛んだと気付いたのは、ほぼ同時だった。地面に、叩き付けられたミオは自分の頬が痛むのを感じた。
「落ち着きなさい!! これ以上、回復魔法を重ねれば彼が本当に死んでしまいますよ!!」
ミオは驚きの表情を声の主に向ける。
黒蟻だと思っていたものがヒトの言葉を話したのだ。しかも、その言葉はあたかも自分の所為でティムが危機に陥っているという物言いだった、ミオの表情は驚嘆から怒りに変わる。
「…ふっ、ふざけないで!! 私はティムを助けてるのよ! 早く回復しないと、ティムが…!! そこをどきなさい!!」
ミオを掴んでいた男はティムの姿を遮る様にミオの前に立った。
年齢は50歳前後といったところ、何処ぞの村長をしていてもおかしくない年齢である。紺一色のローブは胸元に大きな指輪の穴に一本の杖が通っている紋章が描かれているが、その紋章は上から大きくバツ印が付け加えられている。見る者が見れば、その容貌から魔術師である事が一目でわかるだろう。
短く刈った髪の毛を白く染め、年輪を刻むシワだらけの顔にも同じようなバツ印のある魔術師は、精悍な顔立ちで、ローブではなく鎧を見にまとっていれば歴戦の勇者といった面立ちだ。
そんな魔術師はミオに負けず劣らず顔を赤らめ、低く響きわたる声で突き付けた。
「この大バカ者が!! 患者がどんな状態かもわからずに魔法を使うんじゃない!! 彼はすでに体力を回復させているだろう!! 君がかけるべきなのは抗麻痺魔法だ!!」
身体の奥まで響く声がミオの心まで震わせる。
父親に怒鳴られた昔の記憶がミオから溢れ出してくる。
「…えっ!?」
ミオも知識では知っていた。快調の者に回復魔法を重ね続ければ、いずれ死に至るということを。
魔術師の声でミオの顔が青ざめる。ティムを殺そうとしていた自分に恐怖する。
「ようやく分かったか!! 自分の愚かさを悔いるが良い!!」
やっと自分の行為を自覚したミオに魔術師はさらなる追い討ちをかけた。
ティムを見ると、自分の回復魔法の効果で傷1つない。僅かに身体を痙攣させているものの、その肉体は生気に溢れている。何故気付けなかったのか…初見のモンスターだったから、どんな攻撃をしてくるのか知らなかった。戦闘中は元気だったから…回復魔法でも治癒される麻痺毒があったから…言い訳などいくらでも沸いてくる。沸いてくるが、実際ミオはティムを殺しかけていた。
誰に言われずとも悔いている。ミオは自分の愚かさを嫌という程悔いている。それをわざわざ言葉にされると…ミオは涙を目に浮かべた。
「エルフさん…貴方は力の使い方を間違えました。しかし気持ちまで間違えた訳ではありません。もう私が言わなくても理解しているでしょうが、以後気をつけ付けなさい」
怒鳴り声ではなく、静かに、諭すように言葉を告げる。魔術師の言葉は項垂れるミオの心を震わせる。
ミオの顔は後悔に青ざめているものの、不思議と過ちを犯そうとしていた恐怖はなくなった。ただ同じ過ちを絶対に繰り返してはいけないという気持ちが心を締め付ける。
「さぁ、早く麻痺を癒して上げなさい。そろそろ援軍がここにやってきます」
魔術師は無防備に開け放たれている入り口を見つめながら、ミオを促す。耳を澄ませば規律正しい足音がこちらに迫っているのが感じとれた。
それにミオも気付いたのだろう、ハッとした顔で入り口に視線を送っていた。
「さぁ、早く!! その後、あちらで待っている私の仲間も癒してもらえませんか?」
「はっ…はい!」
ミオは頭を振って、失敗の衝撃から抜け出した。手早くティムの麻痺を癒すと、内臓を痛めたティムに肩を貸しつつ、魔術師が指差す奥へと続く穴に駆け込んでいく。
穴の中に入ると先程よりもふた周り大きな部屋がある。この部屋も赤い光が照らしており、少し肌寒い。
部屋の端には人間大の繭が2個転がっていた。先程の部屋で黄色蟻から麻痺を与えられ、生きたまま繭の中に閉じ込められた後は、この冷暗所である程度の期間保存する仕組みなのだろう。
「セキ! まだ魔法は唱えられないか!?」
部屋に入ると、精悍な魔術師が繭に向かって叫んだ。繭の中身はピクリと動いたが、どうやら麻痺にかかったままのようで返事はない。
「あの…あなたは蟻に噛み付かれなかったの…ですか?」
精悍な横顔をマジマジと見つめながらミオが問う。
内側から焼け溶けた繭の残骸が残されていることから、この壮年の魔術師も同じように捉えられていたことは間違いない。それなのに、1人自由に動けているのが不思議なのだ。
一瞬言葉を選んだミオだが、この魔術師には教えを乞うように問いかけた方がシックリきたので、そのまま敬語をつなげる。
「私も同じように毒液で噛み付かれましたよ。しかし、それは体内に魔力を巡らせることで抵抗することが出来るのです。後はタイミングを見て、火系魔法で繭を溶かして自由になったんですよ」
「そ…そう…なんですね」
「さぁ、早くしないとあの蟻逹がやってきます。私は回復魔法を使えないのです。早く麻痺を癒してください」
「はっ…はい!」
ミオはティムを床に寝かせると、すぐさま部屋の隅に転がる繭に駆け寄った。麻痺の解毒だけならば、手慣れたものなので2つ一気に癒し始める。一瞬で麻痺が癒されると、1つの繭が内側から炎を上げた。壮年の魔術師と同様に繭を溶かし始めたのだろう。
中からは、壮年の魔術師と同じような紺色のローブを身にまとい、真っ赤な髪を腰まで伸ばした、10にも満たない女の子が出て来た。年齢だけでみれば、マメルと同じくらいだが、色黒の皮膚が旅慣れた様子を醸し出していた。
「師匠!! 足を引っ張ってしまい申し訳ございませんでした!!」
少女は自身の魔法がローブに飛び火して端を焦がしているのも気にせずに、一目散に壮年の魔術師の元まで走って頭を下げ始める。
「無事で良かった」
「そんなっ…ありがとうございます」
会話の内容を聞いていなければ、本当の親子だと思っただろう。壮年の魔術師は娘の無事を祝うように慈愛に満ちた表情で少女を優しく抱き締めた。
そんな情景を食い入るように眺めるミオは迫り来る危機を一時忘れる。さっき亡き父親を思い出してしまっただけに、その情景が羨ましいのだ。
そんなミオの後ろでもう1つの繭が動き出す。内側から繭を切り裂こうと、1本の小剣が突き出した。
内臓の痛みが収まってきたティムが胸を摩りながら、その目を疑う。洞窟を照らす赤い光に煌きながら繭から突き出た小剣が見知ったモノだったからだ。
「リオン!!」
ティムが叫ぶ。
ミオが振り返る。
繭を切り裂いてのっそりと1人の男が出て来る…谷底に落ちて死んだと思っていた2人の仲間、リオンだった。




