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プロローグ

夜空にひときわ輝く赤い星が現れて10日が経過した。

だがこの世界の人々は日々の暮らしにこそ関心はあっても天空になど興味を示す者はいなかった。


その後、夜空を飾った無数の流星群ですら最初は驚いたもののすぐに慣れて忘れ去ってしまう程度のものであった。

世界の成り立ちなど誰も知らない。知る必要もない。それが当たり前の世界であった。


たとえ人々が何も知らなくても自然の力は発動されたのである。

星がひとつ消えたのだ。バランスを崩した宇宙は新たなバランスを求めて動きだす。


その際、多少のきしみを生じたとしても・・・・

それも自然の自浄作用なのであった。


----------------------------------------------------------------------


北の空から暗雲が広がりみるみるうちに辺りは闇に包まれた。

ゴロゴロと雷の音が遠くに響く。


巨大な龍はそんな雷雲の間を縫うように飛んでいた。

その体は固い鱗で覆われ、手足には鋭い爪がキラリと光っている。


大きく裂けた口からは尖った牙が見える。固い4本の髭がその口の周りを飾る。

巨大な黒龍であった。


眼下に広がる大きな森の周りを何度も旋回しながらまるで何かを探しているようである。

恐ろしい姿とはうらはらにギロリと大きなその瞳はなぜか悲しそうであった。


しばらく森の上空を低級飛行したかと思うと黒龍は大きく天を仰ぎそのまま上空へと消えて行った。

そんな光景はこのところ毎日のように見られるのだが、ここに人が立ち入ることはなかった。


北の果てにそびえ立つオリポテンス山には魔物が住んでいる。

けっして人が近づくことは許されない。


そんな事はただの噂だと豪語して果敢にその山に挑んだ人々も数多くいた。

だがオリポテンス山に入った人が戻ってきたことはない。


そうして人々はオリポテンス山に近づく事はなくなった。

人跡未踏のまま切り立った岩肌をそのままにオリポテンス山は今もそこにそびえ立つのだった。


オリポテンス山から大きな森を隔てたアンザス村は帝国の中でも一番北に位置する小さな村である。

この村の人々は森の恵みを糧に生活しているのだ。


この森は広大でかなり深いものである為、オリポテンス山まで続いてはいるものの村からはかなりの距離がある。

それでも村の人々はこの森の中ほどにある湖より奥には決して立ち入ることはしなかった。


オリポテンス山から流れ込む山水を湛えたその湖は、美しく澄み渡り森の生命の中心となるものであった。

村からこの湖までを生活圏として村人達は森の恩恵を受けているのだった。


レイシアはこの村で生まれ、炭焼きを生業とするおじいちゃんと2人で暮らしていた。

父親はその昔、高名な剣士であったらしい。オリポテンス山の噂に惹かれフラリと村へやって来た。


この村で母と知り合い、恋仲となったがレイシアの存在も知らないままオリポテンス山に挑みそのまま帰ることはなかった。

待ち続けた母もレイシアを産んだ後、流行り病で亡くなった。


両親には恵まれないレイシアではあったが、その分やさしい祖父の愛情を一身に受けて育っていた。

おかげで寂しい思いをする事もなく、少々慎ましくはあるが何不自由のない生活を送っているのであった。


「おじいちゃん。お弁当を持ってきたわよ。」


元気よく炭焼き小屋のドアを開けたレイシアだった。


「おお、レイシア来てくれたか。ちょうど腹が減ったと思っていたところじゃよ。」


日焼けした皺だらけの顔をほころばせ、いつものように優しい笑顔で孫のレイシアを迎えるガルフであった。


「そうでしょ。3日もこの小屋に篭っているんだもの・・・・

そろそろ保存食も切れた頃だと思って、ほら干し肉やカンパンも持ってきたのよ。」


レイシアは持って来た食料をテーブルの上に並べ始めた。

テーブルといっても木製の板に足を付けただけの簡単なものである。


「そりゃあ、ずいぶんと重かったじゃろう。いつもご苦労だね。」


ガルフは炭で汚れた手を拭きながらテーブルの席に着いた。

さっそくレイシアの手作りの弁当に舌鼓を打つ。


レイシアはガルフの為に飲み物を用意しようとテーブルを離れる。

たしか棚の上にトゥルーのジュースがあったはずだ。


トゥルーはこの森で豊富に採れる果物でジュースにすると日持ちもするし、その高い栄養価もそのまま維持できるという保存には最適な飲み物である。


「あら? ジュースがこれだけしかないわ。」


ついこの前、たっぷり補充したはずである。棚の上の残り少ないジュースを見てレイシアは首を傾げた。


ガタン・・・・ガサゴトッ・・・・・


その時、後ろのベットの方から物音がした。

振り向いたレイシアはベットの枕元にある木箱に気づいた。


どうやら物音はその中からのようだ。

ガルフはよく森の中で見つけた動物たちの世話をする。


今までも巣から落ちた鳥の雛、傷ついたリス、親からはぐれた小鹿等の世話をしてきた。

それぞれ、傷が癒え成長すれば森に帰って行った。


「おじいちゃんったら、また今度は何を拾ったの?」


レイシアはそっと木箱に近づいた。

木箱の中は木屑のベッドに潜るようにしてなにやらモコモコと動く黒いものが見え隠れしている。


「おや・・よく寝ていたのに騒がしくしたので起きたみたいじゃのう。

そいつはトゥルーのジュースが大好物のようじゃよ。」


ピッ・・・ギュルル・・・・・


不器用な仕草でようやく木屑のベットから全身を現した真っ黒のそれは・・・・・

全長20センチあまりの小さな羽根のついた龍の赤ちゃんであった。


レイシアは驚きのあまり目を見開いて固まっていた。


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