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春と秋 0
千秋は、この冬にたくさんの燻製を作った。
狩りはどんどんうまくなって行ったが、頻繁に町に売り行くほど切羽詰まってはいない。
獣皮はなめし、水鳥の羽は熱湯で茹でた後に天日で干して、保温力を高めるために布団の中に押し込んだりした。
身ひとつで出来ることを、優先的に学んでいく。
そして、冬が終わり始めた今日。
千秋は、初めて自分一人で町へ来た。
多くの燻製と、ようやく顔を出し始めた早春の山菜を詰め込んだ籠を背負って。
毛皮で作った脚絆や手甲などの防寒着のおかげで、彼女はすっかり山の人に見えるだろう。
一人で町で物を売り、お金を稼いで必要な物を買う。
すべてきちんと終えて、千秋は山へ帰って来た。
先生のいる山へ。
けれど。
戸を開けても──先生はいなかった。