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「七夜語り」  作者: 高領 つかさ(TSUKASA・T)
「七夜語り」

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六夜  みつめ 三



 あのときは、間に合わないかと思いました。

 ええ、ほっといたしましたよ。咄嗟に投げつけましたお弁当の空が、その方の頭に当たりまして。銃口が逸れて、ぼくそうして仰向けに倒れましたその方の腕をゆっくりと抑えました。手首を返して、銃口を外に向けさせ、指を外させましたの。

 とても意外そうな顔をしてみておられますから、ぼく、いいましたの。

 一応、これでも教練は受けておりますよ、と。

 一瞬、ぽかんとして、それからその方は笑い出されました。ええ、まるで憑き物が落ちましたみたいに。

 ええ、教練といいますのは、訓練のことですの。体術とかもね、習いますの。ぼくの職場ではね、全員身につけることになっているのです。得手不得手は別にしてですけど。

 銃を手に取りまして、ぼく安全装置を掛けてしまおうとしました。そのときでございます。

 騒がしい声が致しました。駅員さんの居る部屋といいますのは、駅の構内にありますの。ですから、線路はすぐ其処でございます。その線路から、人々の声が聞こえてくるのでした。

 ぼくは、茫然とその方に向きました。

 人が落ちて、そんな声が致しました。ぼく、慌てておみやげの袋をあけました。けれど、そう入っているのは新幹線のおもちゃだけです。ぼく、慌てて周囲を見渡しました。

 何も無い。もしかして、これでも。

 ぼくは銃を構えて、撃ちました。

 銃声は、前にもいいましたけど、それほど目立つ音ではございません。むしろ、静かに感じたほどかしら。列車の轟音と、人々の喧騒が響く中では。

 ぼくは銃を手に、静寂の中にいました。必死の面持ちをしてたかもしれません。気がついたら、公安の方が宥めるようにぼくの肩に手を置いていました。銃を下ろすようにいわれて、ぼく背後に耳を澄ませました。人が落ちたと、声がしていた方へ。

 ぼく、必死で声を聞き取りました。

 歓声があがって、たすかったと知ったときには、膝が崩れるのをとめられませんでした。

 ええ、本当に。

 息を吐いて、今度こそ安全装置を掛けまして、瞳を閉じました。それから、前を見て。

目をみひらきました。

 其処に、額に孔が空いた人形がありました。壁際にマスコット人形が置かれていて、咄嗟にぼくはそれを撃ったのです。ですから、孔が空いているのはおかしなことではないのですけど。唯、額の孔が。

 ええ、まるで目のように見えました。あまり大きな人形ではありませんから、銃の射入口がそんな風に残るのは在り得ないのですけど。奇妙なことに。

三つ目のようでございました。

 人形をみつめて動かないでいるぼくに、公安の方も無言でぼくの肩を支えたまま人形を見ていました。人形の三つ目を、みていました。

 ぼくが如何して撃ったのかを、かれは聞きませんでしたよ。

 それから駅員さんが来て、壊したもののおわびをして。ええ、公安の方は、東京に戻られてから罪を告白しました。辞職していまでも元気にしておられます。ええ、別の職業を興されましたよ。

 え?人形がみつめなのですかって?

 ああ、いえ、そう、なのですかねえ。そうかもしれません。いえ、やはりそうではないのでしょうね。

 みつめ、といいますのはね、そのう、言伝えのことですの。何ということはない、よくある言伝えでございます。人が死にますとね、ひとつ、ふたつ、みっつと、三つ目になるまでは、満足しないという言伝えですの。死者が三つになるまで、満足しないというのですね。

 ええ、それがみつめです。

 けど、死者が三つになるまで満足しないというのは死者が三人続くという現象なのか、それともそういうものがいるというのか。どちらを対象とした名なのかが、よくわかりませんの。

 そして、死者が続いて止めなくてはならないときに、人型をかわりに使うというのですよ。ですから、ぼく、おみやげのおもちゃを引っ繰り返したのです。人形を買ってはいなかったのですけどね。

 ええ、咄嗟に、なぜかついてきてしまった、とおもいましたの。

 二つ目の死体に、三つ目を要求して、ついてきてしまったのだ、と。公安の方が自殺するのを止めたとき、対象が他に及んだと思ったのです。

 ひとが落ちて。

 咄嗟に、身替りになるものを何か撃たなくてはいけないと思いました。何かをかわりにしなければ、と。理屈にはなっておりませんけど。

 ええ、本当に。

 そうして撃ったときに、本当に止まりましたのかしら。わかりませんけれど。落ちた人が助けられたと聞いて、それから見た人形。

 三つ目。

 ぼくにはわかりませんの。如何してそのように思ったのか、それになにより、本当にそれで止まりましたのかどうか。

 ともあれ、それから人死にはおきませんでした。ええ、容疑者の方も、誰も。

 ええ、ですけど、あのときのことを思い返しますと、いまでも落ち着かない気持になるのです。如何してあのとき、あんなことを思いましたものか。

 あの場の、そくりとくる空気。

 ええ、みつめの人形を見ておりました際に、何かが去って行く感じがございました。そう、あれは、何と申したらいいのでしょう。

 あれから、人はもしかしたら死にたくなったときには、何処かで三つ目の死体を求めているのかもしれないと、思うことがございます。

 何の理由も無く死んだと思える自殺体を見ることになりましたときなどには。

 みつめに求められてしまったのかもしれない、と思うのですよ。



 ええ、みつめにひかれて、死んでしまったのではないかと。


 あら、随分と遅くなってしまいましたね。

 今宵はこれまでに致しましょう。

 おやすみなさいましね。









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