六夜 みつめ 二
全員が動くのをまるで忘れられたようにして、ぼくを見ておりました。同じ車両の声が聞こえる処に居た方は皆息を呑んでるようでしたよ。
ね、死体をふやしてもいいことはないでしょう?と、おねがいしたのですけど。東京から来た刑事さんたちも、あとのお二人もぼくを目を丸くして眺めています。
ですからね、ぼく仕方無いから説明することに致しましたの。犯人がわかっただけでは皆さん大概納得されないのですよねえ。でもぼく、面倒ですから出来るだけ説明なんてしたくないんですけど。ですから普段は犯人がわかりましてもいわないことにしていますのに。
ああ、ええと、説明でございましたねえ。あなたも、御説明はないといやです?不思議ですこと。やはりないとおいやなんですか。如何してでしょうねえ。犯人がわかったのですから、それでいいじゃないですか。いけないんですの?いいですけど。
では、御説明いたしましょうね。
ええ、ぼく、では、御説明いたしますから、思い留まってくださいます?といいましたのです。
まず、こちらの方ですけど、死体になられたのは、通路を歩いて来られるときでした。そう、ぼくがいいましたら、皆さんがしんといたしました。正確にいいますと、とぼくが云い直しました。ええ、いいなおしましたの。
こちらの方は、死にながら歩いて来られたのです、と。
ええ、毒入りのカプセルを飲まされていて、歩いているあいだにそれが溶けて、死に至りながらこちらまで歩いてきましたの、といいましたとき。
この席に着きましたときには、既に死が訪れていたのですね、と。
ぼくがそういいましたときに、一斉に皆さんが口を開きました。そう一度にいわれましてもねえ。大層な喧騒でしたよ。質問が沢山出るのはわかるのですけど、一度に聞かれても答えられません。それで、周囲を眺めますと、一応は他の乗客の方々の質問は消えました。東京から来た刑事さんと、お買い物に付き合ってくださいました方、もう一人の東京から来られた方がぼくを見つめております。
どうしてそんなことがわかるのです?と聞かれますから、ぼくはゆっくりと視線を向けました。東京から来たもう一人の方に向き直りまして、ぼく、首を傾げました。
他に結論はございませんでしょう?と。
その点はあとにして、もう一方のお話をしてもいいですか?とぼく申しました。
東京からの方はしぶしぶ頷きました。如何も、物事を順番に処理したがる傾向のある方でしてねえ。それはともかく、ぼく、隣の、―――出張で高知に行っておられて、今回一緒に東京に帰ることになりました方の、もう死体でしか帰ることのできないかたを眺めました。
この方は、こちらの方に殺されましたの。
ぼくが、いいましたら高知の刑事さんがいいました。
どうやって、といいますから、ぼく、簡単に示しましたの。
こちらの方が、これで、と。
死体の手に、左の手のひらをかえすようにして手首をつかんでみせましたの。そうしましたら、皆さん後込みして。いやですねえ、死体の手をつかんだだけのことでしょうに。
そうしてみせたものに、東京から来たもうひとりの方が、座席の背凭れ越しに見て目を見張りました。
毒が塗ってあったのですねえ、とぼくは申しました。ですから、これでこちらの方を刺して、死に至らしめたあと、御自分もきっと御存知なかったのですけど、毒にやられて死を向かえましたのですねえ、と。此処へ来られたときにはもう死に掛けておられましたから、きっと最後に崩折れるときに、この座席に座ったのですねえ。
こらえきれなくなって、腰を下ろして。そして、最後を迎えられましたのですねえ。
殺人を犯したあとで。
何も知らずに歩いていたときには、既に死の手につかまれていたのですねえ。この方を殺しに歩いて来たときには、既に死んでいたのですよ。
違う席に座っておられる死体の左手、指の間に挟むようにして、セロテープで止めた針がございました。
あ、さわらないでくださいね。毒がまだ残ってると思いますから。
そう、ぼくがいいましたら、東京の刑事さんたちがぎょっと身を引きました。
致死量が残ってるか如何かは知りませんけど、すこしでも却ってくるしいかもしれませんしねえ。
のんびりぼくがそういいますと、何故だか皆さんが蒼褪めておりました。不思議ですこと。なにがこわかったのかしら。毒針にふれませんでしたら、大丈夫ですのにねえ。
ぼくは首をかしげてから、それからいいましたの。
ですからねえ、殺人はおやめなさいな。
殺すものは殺されるのですよ、と。
ねえ。ひとを殺した処で何になるのかしら。
何にもなりませんのにね。
本当に、何にもなりませんよ。
ぼく、ゆっくりと顔を振り向けました。それから、申しましたのです。
ねえ、目的の方はもう死んでいるのですから、あなた、未遂でございましょう?ですからね、これ以上、罪を犯してはいけませんよ、と。
御自分の命を絶つのも、犯していい罪ではありませんよと。
おみやげを買うのに付き合ってくださいました方が、茫然とわたしを見ておりました。東京の刑事さんに指示して、ぼくはその方のポケットから手を出させました。小さなカプセルが握られてました。つぶさないように注意してとりあげて頂くと、ぼくは高知の刑事さんに謝りました。
ええ、ぼくが犯人ですといって、拘束して頂いておりましたのは、高知の刑事さんでしたの。尤も、先にぼくが合図しておりましたから、あんまり高知の刑事さん自身は驚いておられませんでしたけど。
え、如何いうことなのですって?
おわかりになりません?
ごめんなさいね、ぼく、説明不足だから。このときも、東京の方に詰め寄られましたの。どうなっているんですか、ってね。あんなに真面目にならなくってもいいのに。
あと、先に解決したことについていっておきましょうか。赤い帽子の女性ですけれどね。ええ、赤い服の、消えてしまわれた女の方です。彼女は、きちんと見付かりました。ええ、ひとが消えてしまえるわけはないのですもの。ちゃんと解答はございます。
彼女は、まず席に着いて帽子を脱ぎました。当り前のことでございますから、あまり人目も引きません。そうして、レインコートを着たのですよ。黒い折畳みの、小さいバックに入るものをね。そして、目的を果たしたあと出て行ったのです。赤い服は消えて、黒いレインコートの女性が出ていったのです。ですから誰も、赤い服の女性が出て行った処はみてはいなかったのです。そうして別に荷物を置いていた席に戻り、今度はその席から着替えを取って御不浄で着替えを済ませて席に着いていたのですよ。ですから、赤い服の女性はみつかりませんでしたの。とても単純なお話ですけどね。
ええ、彼女が隣の席に座った方、つまり、違う席に座っていた方を殺しましたの。カプセルにお薬を入れましてね。本当は最後まで見届けるつもりでいたそうですの。けど、相手の方が席を立ったので、仕方なく御自分のもうひとつの席に戻られたそうですよ。そして、彼は彼女の入れた毒で死ぬ前に目的の人物を殺し、そのときもう彼は死にかけておりましたから、多分苦しい身体を座らせようと目に付いた空席に座って、そして死を迎えたのですねえ。
ええ、それで、もうひとりの方が捕まりましたのは何故ですって?
あら、それはねえ。ぼくお腹が空いておりましたからかしら。
え?如何いうことですって?
いえね、あとで騒ぎとかがございましたら、また時間をとりますでしょう?ですからねえ、気の毒でしたのですけど。
え、如何いうことですって?
ええと、…いわなくてはいけません?
はい、申しますけど。
そのう、殺されました、東京から高知へ別の出張で来ておられた方。
あの方、よっぽど恨まれるのがお得意でしたのですねえ。実は、このとき別々の方に、つまりこの場合は、女の方に殺されました方と、おみやげ買うのについて来られた方と、お二人に狙われてましたの。
ええ、東京から来た刑事さんたちが二人共、前の席にいつ殺された方が座ったか、見ていなかったでしょう?眠ってしまうなんてねえ、有り得ませんよ。
薬を盛られていたのですねえ。極少量ですけど、ねむくなるお薬を。勿論、全員に盛っておりました。ええ、前方の席に居たお二人にも、そして、勿論殺すつもりでいました相手にも。ですから、針に刺されたとき、大きな反応も無く眠るまま逝ってしまったのですねえ。それほど恨まれていた方にしては、穏かな死に方ではありませんかしら。
え?わたし?わたしでございますか?
ええ、ですから困ったのですねえ。わたしが、薬を飲みませんから。薬と申しましても、飲み物に入れて皆さんに渡したのですがねえ。空港から、新幹線に行くバスの中で、コーヒーを配ってくれましたの。けどぼく、口がねえ、我が侭に出来ておりまして。珈琲でしたら、入れたてでなくてはいやでしたの。ですからね、あの方慌てましてねえ。ぼくが犯行現場で起きていないように、連れ出していたのです。
それと、少しは御自分のアリバイ造りでもあったでしょうねえ。アリバイといいますのはね、犯行が行われたその場に、いなかったという証明のことですの。ええ、その場にいませんでしたら、大抵の犯行は不可能でございましょう?尤も、このときこの方が選んだ手段は毒殺でしたので、結局は席を外していた処であまり積極的な証明にはなりませんけれどねえ。毒は、先に渡しておいて、後で飲ませることも出来るでしょう?実際、この方が選んだのは、錠剤でした。頭痛に効くと騙して渡していたようです。そして、コップにそれが溶けていたのが、座席のテーブルにみつかりましたの。もうすぐ呑む処でしたのですねえ。もっとも、そのまえに殺されてしまいましたけど。
ですから、未遂となったのでございますよ。高知の方をつかまえて頂いたのは、目を逸らせて、自殺されるのをふせぐ為でございます。御自分が犯人と思われていないのでしたら逃げもいたしませんでしょうし。それに、実際毒をあおって死なれる可能性は高うございましたからねえ。それにしても、眠り薬まで用意して、完全犯罪を目指しましたのに、他人に先を越されてしまうなんて如何なんでしょうねえ。
何れにしても、殺人などしても、本当に何にもなりませんよ。
ねえ?
さて、ぼくは無事列車を降りまして、消えた女の方も無事逮捕されましたし。ええ、女の方は着替えたのでしょうとぼくいいまして、探していただきました。車両の端に近い通路側の座席で、地味な服を着ている小柄な方。そうして、大きな荷物を持っておられる方を。
ええ、如何してそういうことがわかるのですって?
それに、それで如何して犯人だとわかるのか、ですって?
あら、わかりますよ。
車両の端に座るのは、御不浄が近い席を取りたいからですよ。通路側なのも同じでございます。席を立ちたいのに、奥に座っておりますと不便でございましょう?席を立つのを、隣の方に覚えられてしまうかもしれません。通路側ですと、すぐに立てますもの。車両の端に近ければ、歩く距離が短くて済みます。少しでも目立ちたくない、歩く距離を少しでも減らしたいという思いがそうした処を選ばせるのですねえ。本当は真ん中でもそうかわるものではないのですけれど。そういう気持が働くのですねえ。やはり、そういうものらしいですよ。
地味な服は、やはりそうして、目立たなくしたいという反動でございましょうねえ。もともとその格好で一度席に座られまして、別の御不浄で赤い服に着替えられて、犯行現場に行かれたのですねえ。それから、戻って今度はその座席に近い御不浄で服を改められた。
小柄な方といいますのは、ええ。わたし、見ておりましたもの。赤いヒールの靴と、帽子から割引ました身長をね。ほっそりとした方なのもみておりましたし。体格はその観察からでございます。
ええ、それで大きな荷物でございますけど。ええ、女性の方でございますのですね。
ああいう、つばの広いお帽子は、とても良いお値段がすることをぼく、存じ上げておりました。それに、お値段に関わらず、御婦人方というのはああいったお帽子を大切にされます。服でしたらともかくねえ、ああしたお帽子を運びますには、大きな箱がいりますから。ですから、大きな荷物を持った方を探していただいたのでございます。
はい、お荷物から帽子は見付かりました。きれいに荷物に入っていたそうですよ。
やはり如何しても、曲げてしまうということは出来ませんでしたのでしょうねえ。実際、一度見せる為に着るときには曲がっているわけにはいかないでしょうからもともと大きな荷物でしたのでしょうし。けれど、犯行が終りましてからも捨てずに持っておられたのは、やはり、捨てられなかったのでしょうねえ。御婦人のああした帽子への思いを考えますと、納得できるような気が致します。
さて、赤いお帽子が見付かりまして、確保ということになりました。
無事、犯人が総て見付かりましてぼくたちは列車を降りました。しばらく、事情をお話する必要があるということで、駅員さんたちがおります部屋に待つことになりまして。
ぼく、お弁当を食べることにしましたの。
列車の中では鑑識さんとかが居て、落ち着いて食べられませんしねえ。
ええ、はやく解決したかったのは、お弁当を食べたかったからですの。あの方もねえ。未遂ということでしたら、見逃してもよかったのですけれど。自殺されましたら、またお時間をくうでしょう?そうしましたら、いつお弁当が食べられますかわかりませんもの。
東京から来た方が、お弁当食べられるんですか、と蓋をあけましたぼくにいいますから、ぼく、晴れやかにこういいました。
列車の中で食べるのは我慢したんです、って。だって、鑑識さんとか―――ああ、鑑識さんというのは、事件が起こりましたら、現場に残された証拠が無いか調べる方のことをいうんですの。ごはんつぶとか余計に零していたら、調べるのが面倒になってしまうでしょう?
お腹空いてたんですか、といいますから、ぼく、ええ、と答えました。
お腹空きましたから、我慢ができなくて。ですから犯人を指摘して解決することにいたしましたの、といいましたら、珍妙な顔をしておりました。そんなに不思議なこといいましたかしら?お顔が面白くて印象に残ってるのですけど。
さて、そうしてぼくがご飯を食べておりましたら、聞きますの。如何して犯人が三人だとわかったのかって。
ですから、答えました。お腹が空きまして突っ伏しましたときに、おみやげのおもちゃが目に入ったからですよ、と。わからない顔をして見返しておりますから、言葉を継ぎました。
おもちゃが三つ、ございますでしょう?と。
それは、ひとりひとりに別々にぼくが買ったものでした。ひとつまとめて袋に入ってしまっておりますけど。ですから、ぼく、今度の犯人も別々にいるのではないかと思いましたの。同時に死体が二つ見付かりましたら、犯人は一人もしくは一組と考えてしまいがちですけれどねえ。一件づつ、別の犯人でしたら、と考えましたの。そうしましたら、するりと解けたのでございますよ。
赤いお帽子の女の方がそのお隣りに座っていた方を殺し、その方が通路を挟んだお隣の方を殺して、御自分も亡くなられて。
ええ、赤いお帽子の隣の方が、何故違う席で死んでいた方だと気付いたのかは、簡単でございます。だって、どなたが気付かなくても、赤いお帽子のお隣りに座られた方は、気付かなくてはいけないはずでしょう?彼女が消えることに気がついていなくてはいけませんもの。ですのに、その席は空で、彼女は消えてました。ですから、結論はひとつしかないのです。
彼女が席でレインコートに着替える単純な手を使う気になれましたのも、彼を、証言の出来るかれを其処で殺してしまえる確信があったからでした。本来、彼女の予定でしたら、その方はその席で、彼女の隣りで息絶えていたのでしょうねえ。ですから、彼女の隣りに居た方は死んでいなくてはなりませんし、本来死んでいるべき彼女の隣りが空で、違う席に座っている死体があるのですから。死んでいるはずの席が空で、違う席に死体があるのでしたら、そう考えるのが簡単でございますよ。そうして、如何して違う席まで行ったのかと考えれば、後は簡単でございます。目的がありましたから。目的が何かと考えましたなら、隣りに死体がございます。偶然と考えますより、目的が死体を造ることでしたと、殺人が目的だと考えた方が、辻褄が合うのでございますよ。
あら、もうひとりの犯人ですか?
如何してわかったのですって?
ええ、そうするとあまりますの。
何がといって、あの東京の刑事さんたちがお眠りになってしまわれたことですよ。そんなこと、ありえませんからねえ。そして、殺された方も随分と静かに、抵抗もせずにね、最後を迎えたようでした。確かに毒は即効性でしたけれど。そのまえに眠らされていたという方が自然でしたでしょうねえ。
そうしましたら、何処かに眠らせた犯人がいなくてはいけませんよ。犯人がいるのでしたら、さらに目的は何かを考えなくてはなりません。ええ、人を眠らせるのだけが目的ですって、そんな方はおりませんよ。
あとは推測でございます。ぼくが席を立つのについて来ましたこと。ぼくがお二人が死んでいることを告げましたときに大層驚かれましたこと。そんな小さなことでございます。
それから、席をぼくに譲って立っていたこと。
座ってしまいますと、立っているときよりも、僅かですけれど、逃げにくいですからね。
ええ、そんなことでございますよ。
それで気がついたのでございます。
いつもは気が付いてもお話はしないのですけどねえ。こうして、如何してっ、て沢山聞かれまして面倒ですし。けど、このときは本当にお腹が空いておりましたの。何しろ現場が列車でございますしねえ。乗客が拘束されることになりましたら、時間がとんでもなく掛かりますもの。
そんなに待てませんでしたの、ぼく。
お腹が空いておりましてねえ。
ああ、みつめ、でございますか?
如何してもお聞きになりたいの?
いえねえ、確かにそれでお話を始めましたけど。最初から、事件のお話だけにすればよかったかしら?
ええでも、事件のお話だけでしたら不思議でも奇妙でもございませんでしたしねえ。特に不思議なこともありませんでしたもの。三つの殺人が重なりましたけど。ええ、ひとつは未遂で二つの死体が同じ現場から出ましたとはいえ、特に不思議なこともない事件でございましたよ。
ええ、最後に、あれだけがなければねえ。
本当にお聞きになりたいのですか?
困りましたね。けど、話し始めたのはわたしですし。
あれはねえ、一体如何してあのようなことになったのかしら。
現場から遺体が運ばれたり、東京の刑事さんとかは血液を取られたりとしておりました。体内に残留しております睡眠薬を調べる為です。薬といいますのはね、呑んだあとにも、身体の中に成分が残っていたりしますの。それが証拠になるのです。
わたしと差し向かいに座っている方も血液を取られました。注射にぼやいておりましたねえ。それだけで、何もかも終るはずでしたよ。あとは地元の警察の方に付き合ってお話をしてねえ。
何もかも、其処で終わりにする筈でしたのに。
わかったのですか、とその方はいいました。
ぼく、お弁当食べ終わりましたんですよ、っていいました。
ですからねえ。
高知へは、ぼく公安部の方御二人と、警視庁から刑事さん御二人と御一緒に出張してたのです。目の前に座っておられますのは、当時の公安部の方でした。
同行していて殺されましたのは、当時の警備局に勤めておられた方で、高知にある内偵関係で出張しておりましたの。
話が前後致しますけれど、殺された方が帰りを一緒にしました理由は、内偵の結果を報告する為でしたの。どんな内容を報告するつもりでしたのか。何か書き記したのものなどがあればわかりますけれど。何も書き記していなければ、何もわからないままになるのでしょうねえ。
眠らなかったのだ、といいました。
ええ、ぼくの前で、あの方そういいました。部下の行動を監視する為に、眠らなかったのだ、と。いやですねえ、ひとは信じなくちゃ。
眠られませんでしたの、とぼくは答えました。
ね、いやなものでございます。ぼくはねえ、刑事ではありませんもの。検察でもありませんし。ひとの罪を量る為にいるのではありません。
ぼく、いいましたの。
ね、あの方にもいいましたけど、御自分の命を絶つのも、犯してもいい罪ではございませんよと。もう銃口が目の前にありましたけれどねえ。
ええ、ぼく、銃口を前に話をしておりましたの。
黒々とした銃口が、ね。奇妙なくらいに大きく見えました。公安の方ですからねえ。服務規程が如何かは知りませんけど、この方、銃を携帯しておりましたの。ぼくの護衛も兼ねておられましたから、当然なのですけれど。
いけませんよ、とぼく、申しました。
あなたが亡くなられて、あなたの命令で行動された部下さんは如何なるのです?と。
ええ、そう申しましたの。
あなたを撃つとは思わないのか、といわれました。ええ、とぼく答えましたよ。だって、あなたはそんな方ではありませんもの。そう申しあげたら、かれはとても辛そうな顔をされて。
銃口を、額に。




