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魔法香水は秘密の香り07

 聞き取りに協力してくれた職員たちは、最初に集まっていた道具部門の会議室に再集合して自分たちを待っていた。

 じろりとこちらを見る彼らにあえてにこやかに礼をし、ヒオリとニールはクロード所長のところへ歩み寄る。


 リリアンとともに何事か語り合って、熱烈な空気を隠そうともしない所長の前に立つと、二人は深々と頭を下げた。


「本日はお時間を頂きありがとうございました。クロード所長、少々お耳に入れておきたいことがあるのですが」

「うん?」


 小声で告げたヒオリに首を傾げるクロードだったが、こちらがちらりとリリアンの方を見ると何事か察したのか「わかった」と頷く。

 そのまま彼は職員たちに職務に戻るよう言い残し、別室に移動しようとヒオリたちに告げる。

 最後までリリアンが名残惜しそうにニールを見つめていたが、幸いなことに彼女がわがままを言い出すことは無かった。


 三人はヒオリが聞き取り調査をしたミーティングルームに入った。扉を閉めるなりクロードは難しい顔をして、「何があったんだ?」とこちらに向き直る。

 血の気が無く不安そうなその表情は、彼本来の気弱な面持ちと相まって酷く頼りなげに見えた。


 この人、最近ずっとこんな顔をしているなと考えながら、ヒオリは携帯端末を操作し表示されたリリアン宅の画像を彼に差し出す。


「なんだ?これは?どこかの民家か」

「ええ。実はとある方からの情報がありまして。これはリリアン女史の実家の写真なんです」


 ヴェロニカ女史の名前は出さずに告げると、クロードは片眉を跳ね上げてまじまじと画像を睨み見て、次にヒオリを見た。

 これがどうした?とでも言いたげな彼にもわかるように、件の植物が生えている一画を指で刺す。


「こちらの植物ですが、温室に生えていた謎の植物と同じものです」

「え?あ……」

「リリアンさんは最近ご実家に帰りましたか?もしくはご実家から荷物が送られてきたことは?」


 己の言いたいことを察し顔が青くなったクロードに、ニールが穏やかに問いかける。

 年若き所長は幾度か口をぱくぱくと開閉させていたが、やがて視線を下に落とすと低い声で訊ねて来た。


「り、リリアンが種を持ち込んだ犯人だと?君たちはそう言いたいのか?」

「可能性は高いですが、まだ断言できません。どうやら雑草のようですし、別の誰かに付着していたのかもしれません」

「だが……、もしリリアンだったとしたら、どうなる?」


 最初に心配して、言うべきことはそれか。保身のための言い訳の方がまだましだなと言う悪態を、ヒオリは内心ぼやくだけでなく口に出してやりたくなった。

 だがここで言い合いをするつもりはないと何とか堪えて、顔から完全に表情を消して淡々と答える。


「それは貴方が決めるべきことのような気もしますが、厳重注意ののち、始末書の作成。再度ミスを犯さないようにチェックの徹底を職員に指導するのが妥当かと」

「……そ、そうか」

「しかし温室の植物の除去が困難、もしくは時間がかかるような場合は減給や停職の可能性もありますね」


 一瞬安堵の表情が浮かんだクロードだったが、すぐに顔から血の気が失せる。

 それほどリリアンが大事ならしっかり面倒を見ておけと内心で毒づき、ヒオリは「しかしクロード所長」と挑むような口調で続けた。


「言わせてもらいますが、今回のことは貴方にも責任があります。貴方とリリアンさんは温室を私的利用しすぎました」


 辛辣に告げればクロードははっと顔を上げてヒオリを睨みつける。

 先ほどまでの気弱そうな表情は何処へやら、再び見せる憤怒にまみれた表情だった。しかし元の顔が顔なためか威圧感は感じない。


 これならヴェロニカ女史の方がずっと恐ろしかった……などと考えて冷静に所長を見据えていると、じきに彼はぷいっと顔ごと視線を逸らす。

 負けを認めたのかと思ったが、クロードはまだ強気な様子でぽつぽつと語りだした。


「リリアンは可哀想な子なんだ。僕たちが彼女を守らなければ、いったい誰が彼女の心を救ってやれるんだ?話を聞いていただけじゃないか」

「研究に支障が出ているのですよ。そんな同情は捨ててください。それに必要なら研究所内にはカウンセラーも常駐しているでしょう」


 きっぱり言い捨てて肩を竦め、ヒオリは冷たい眼差しのまま踵を返した。

 上記の通り、言い合いをするつもりはない。ニールに軽く声をかけ、靴音を響かせながら部屋を出ていく。


「何かわかったら連絡をお願いします。こちらも調査の結果が出たら、真っ先に貴方にお伝えしますので。リリアンさんのこと、そしてご自身のことはその間によくよく考えておいてください」


 一度だけ振り返ってそう告げた。

 己の顔を刺すように、クロードの鋭い視線が向いていることに気が付いていた。

 気付いてはいたが、特に何かを言うつもりは無い。ただただ疲れる時間だった。

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