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「のろまなアデルお兄さんがやっと出てきたー!」
「レディを待たせるなんて、アデルお兄さんのくせに生意気だぞー!」
「生意気だ、生意気だー!」
俺の姿を見つけた、ポピー、ジャスミン、ローズマリーが走って俺のもとへとやって来た。
「すぐに出てきただろ。みんな、そんなに俺に会いたかったのかよ」
俺の言葉を聞いた三人がきゃあきゃあと笑う。
「会いたかったのはアデルお兄さんの方でしょー?」
「ジャスミンたちは可愛いからねー」
「アデルお兄さんのロリコン」
「言わせておけば。このっこのっ!」
俺が三人を捕まえるフリをしながら追いかけると、三人はきゃあきゃあと笑いながら逃げ回った。
「ロリコンが追いかけてくるー」
「否定しないってことはやっぱりロリコンなんだー」
「ロリコン、きもーい♡」
ああ、なんて素晴らしい時間なんだろう。
最高だ。この時間のために俺は寄付をしているんだ!
よこしまな気持ちからの寄付は褒められた行為ではないのかもしれないが、金は金だ。どんな思惑で寄付されたものだったとしても、その金で孤児院の運営を続けられるのだから、寄付をしないよりはした方がずっといいはずだ。
「最近、孤児院を修繕したんだってな。よかったな」
「しゅうぜんって、なにー? ポピーの知らない言葉だよー」
「あー、綺麗にしたってことだよ。割れてた窓ガラスを替えたりさ」
「あのねー、雨漏りもしなくなったんだよー!」
「屋根をとんとんして強くしたんだってー!」
どうやら応接室だけではなく、孤児院全体を修繕したらしい。
メスガキ様たちが快適に暮らせているのなら、願ったり叶ったりだ。顔も知らないパトロン、ありがとう。
「そういえばダリアは? いつも四人で一緒にいただろ?」
ポピー、ジャスミン、ローズマリーは、もう一人の孤児であるダリアといつも四人で遊んでいた。しかし今俺の前にいるのは、ダリアを除く三人だけだ。
庭を眺めてみるが、ダリアの姿はどこにも見えない。
仲良しグループが変わるのはよくあることなのだろうが、他のグループの子どもたちともダリアは遊んでいない。
「ダリアは孤児院を卒業したんだよ」
「寂しいけど、卒業は良いことだから喜ばなくちゃなの」
「でもやっぱり寂しいの。またダリアと一緒に遊びたいよ」
悲しそうな顔をする三人の頭を撫でる。
そうだった。ここが孤児院ということは、ある日突然お別れがやってくることもあるのだ。先月寄付をしに来たときには、ダリアはまだこの孤児院にいたのに。そのときには卒業する様子なんてなかったのに。さよならも言えなかったことが寂しい。
「……生活が落ち着いたら、ダリアが孤児院に遊びに来てくれるかもしれない。そのときにそんな悲しい顔をしてたらダリアが心配しちゃうだろ」
俺は自身の寂しい気持ちを押し殺して、子どもたちに笑いかけた。
「ダリア、遊びに来てくれるかな?」
「あー、えっと、近くに住んでるなら、だが」
あまり希望を持たせすぎてもいけないと思い、曖昧なことを言って茶を濁した。
さすがに遠い国に住む人たちの養子になっていたら、孤児院に来たくてもなかなか来ることが出来ないからだ。
「それならダリア、遊びに来るかも」
「うんうん。だってダリアはサヴィニアさんのところに養子に行ったんだもん」
「サヴィニアさんはよく孤児院に来てるもんね。近くに住んでるんだよ、きっと」
三人は先程までの悲しそうな表情を、ぱあっと楽しそうなものへと変化させた。
「ダリアはサヴィニアさんって人のところに行ったのか。幸せに暮らしてると良いな」
「きっと贅沢してると思う! サヴィニアさんはお金持ちだもん!」
「ここの屋根も窓もサヴィニアさんのおかげで綺麗になったんだって」
「そうそう。サヴィニアさんはパトロン?ってやつなんだって」
なるほど。ダリアを養子にしたサヴィニアさんというのが、この孤児院のパトロンになった人物らしい。
会ったこともない人だが、孤児院に寄付をした上に子どもを引き取るなんて、子ども好きなのかもしれない。
「サヴィニアさんは何人もここの子を引き取ってるから、屋敷が孤児院みたいになってたりして」
「それならジャスミンもサヴィニアさんのところに行きたいな。そうしたら、またみんなと遊べるよね?」
「えーっ! ジャスミンまで孤児院からいなくなっちゃうのはいやだよー」
サヴィニアさんとやらは、たくさんの子どもを引き取っているらしい。異次元の金持ちだ。どれほど大きな屋敷に住んでいるのだろう。
「でもサヴィニアさんのところに行った子は、誰も孤児院に顔を出してくれないんだよね」
「サヴィニアさんの屋敷が快適すぎて、孤児院のことを忘れちゃったのかも」
「いっそ孤児院の全員をサヴィニアさんが引き取ってくれればいいのに。それならローズマリーも寂しくないもん」
何だかずっとサヴィニアさんとやらの話をしていて、俺としてはちょっと面白くない。もっと俺のことを罵ってほしいのに。
……あっ、でも、わざと俺に構ってくれていないのだとしたら、それはそれでアリかもしれない。
お前みたいな雑魚の話はしてやらない、みたいな。
目の前にいるのに軽く扱われている感じがして悪くない。
うん、イイ!




