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「ついでにもう一つ、我儘を聞いていただけませんか?」
うっとりと微笑むクラウドに、リディアナは聞き返した。
「我儘、ですか?」
「ええ。…騎士の誓いを、貴女に立てたいのです」
騎士の誓い、とは主と認めたものにその心臓を捧げる、というものだ。もちろん王宮騎士は入団時に王族に誓いを立てているはずだ。そして己の魔力を乗せて誓うため、契約を結んでいる間は同じ内容の誓いを別の人と立てる事は出来ない。
そして王宮騎士の誓いの対象は王族。
つまりその血を受け継ぐ者がいる限り、誓いは絶えることはない。
リディアナの困惑をみて、クラウドは安心させるように微笑む。
「リディの考えていることはわかります。勿論、王宮騎士なので心臓はすでに王家に捧げていますが…」
言葉を切ったクラウドにひたりと見据えられる。
「忠誠は誓っていません」
「ちゅ、忠誠?む、無理です!私はそんなことをしてもらうほどの立場では…」
「貴女は素晴らしい人です。この国の王族より遥かに」
「そんなこと言ったら駄目です!不敬になりますよ!それに、私たちはお友達じゃないですか」
「魔力はのせません。所謂"騎士ごっこ"のようなものです。勿論これからも今まで通り一緒に過ごしたいと思っています。ただ、わたしは己に誓い、それを貴女に知っていてほしい。そして出来ることなら、この誓いを許してほしい」
ね?いいでしょう?とねだられて、ぞくりと肌が粟立つ。
気が付けばリディアナは頷いていた。
「で、でも忠誠は駄目です!なにか他の…」
「では、…愛を」
友愛的なそういう意味合いだろう。
わかりました、と頷けば、クラウドの瞳がぎらりと光った気がした。
こちらに、と指示された場所で立つと、クラウドはその前で片膝をついた。
「右手を」
言われた通り右手を差し出すと、同じく右手でそっと取られる。
艶やかに、光を帯びたアメジストの瞳に見つめられ、目がそらせない。
「クラウド・シル・オルゼンベルグは、主リディアナへ我が愛を捧げ、その身に降りかかる全ての災厄を除くことを誓う」
そう言いきると、クラウドはそっと手の甲に唇を落とした。
そしてリディアナを見上げて、満足そうに笑う。
この時点でリディアナはいっぱいいっぱい。
顔は暑いし、心臓は高速で脈を打つ。
座り込みそうになる中で、先程のクラウドの言葉を思い出した。
『わたしは己に誓い、それを貴女に知っていてほしい。そして出来ることなら、この誓いを許してほしい』
リディアナはおずおずと口を開いた。
「ゆ、許します…」
風にかき消されそうなか細い返答になってしまったが、それはしっかりとクラウドに届いたようで。
驚いたように目を見開いた後、破顔した。
それは今までで一番の笑顔で、リディアナは自分の選択が間違っていなかったと嬉しくなる。そして、
腰が抜けた。
クラウドがそっと抱え上げ、リディアナが慌てる隙もなく優しく椅子に座らせてくれた。
―――――――
「ところで、リディの誕生日はいつなのですか?」
顔のほてりも冷めた頃、クラウドが問いかける。
「私は、2月と3日後です!それで成人として認められるようになります!」
「そうなのですね。成人する年の誕生日は盛大に祝わないといけませんね」
この世界での成人は16歳。
私はまだ成人前なので、魔女の弟子という扱いだが、成人をむかえると正式に魔女を名乗ることができるようになる。
「リディの誕生日、わたしにもお祝いさせてくださいね」
「クラウドさんにお祝いしてもらえるなんて、素晴らしい年になりそうです。よろしくお願いします!」
もうすぐ、運命が動き出す。
クラウドが、当初考えていた性格から少しずつ離れてしまったので...
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