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月が明るい満月の夜。
リディアナはひとり、破魔や除災の力を持つ月花と呼ばれる植物を集めていた。
(この時期でよかった)
リディアナは3日前のクラウドとの会話を思い出す。
※※
「リディ、急な話にはなりますが、王都に戻らなければならなくなりました」
「騎士団のお仕事ですか?」
悲痛な表情でクラウドが頷く。
話を聞くと、こういうことだった。
毎年恒例、王宮で開催される騎士演武会。
騎士たちがそれぞれ、己の得意な得物を使用し模擬戦をする。
ルールは殺さないこと、ただ一つのみ。
もともと王族を楽しませるために始まったらしく、現在でも演武会の日は王宮内の仕事は全て停まるほどの大行事となっている。
優勝者には国王より褒賞が与えられ、またそれ以外にも気に入られれば近衛騎士に命じられることもあるらしい。
つまりはエリート街道仲間入り。
地位や爵位を持たない騎士にとって、人生大逆転の大チャンス、というわけだ。
それが、先日行われた。
そして乗馬騎士の試合中に、何を思ったのか急に王太子殿下がその馬の前に飛び出し、それを身を呈して庇った仲間が全治6ヶ月の大怪我を負った。
療養する仲間の代わりに、家の都合で帰省していたクラウドが戻ることになったという訳だ。
「命に別状がなくてよかったですね…」
「まぁ、そうですね。(死んでしまうと次の団長を決めなければならないので面倒ですからね)」
そういうわけで、とクラウドは続けた。
「しばらくこちらへ来ることができなくなります」
「ええと、いつ頃王都へ向かうんですか?」
「5日後です。色々準備があり、出立日まで顔を出せなさそうなので…」
クラウドと会って1月も経っていないのに、なんともいえない寂しさが込み上げる。きっと3日と開けずクラウドが会いに来てくれていたからだろう。だが今まで頻繁に会っていたことの方が奇跡に近いのだ。
「出発の日はお会いできるんですよね?」
「ええ、顔を出しに来ます」
クラウドは本当に忙しそうで、この日も用件を伝えると悲しげに瞳を揺らしながら小さな魔女の家を後にした。
※※
リディアナが作っているのは月花のアンクレットだった。
アンクレットの作り方は簡単で難しい。
満月のうちに月花を摘み取り、花弁を浮かべた冷水の中で茎を解きほぐす。しばらくすると細く繊維のみが得られるため、それらを紡ぎ、糸にする。あとはこの糸からアンクレットを作れば出来上がりだ。
ただし、糸にするまでは月の光を浴びせ続けなければならない。
雲に遮られたり、少しでも光が当たらなければ効力を失くしてしまうのだ。
そこで月光を途切れさせないように、唄を歌う。
月紡ぎの唄。
月の精霊はこの唄を好み、歌い手を見守るという。
そのため、雲はかからない。
魔女にのみ伝わる、秘伝である。
クラウドは王都を好ましく思っていないようにみえた。
(これで少しでも、穏やかに過ごしてほしいな)
小さな歌声は一夜を徹して、夜の空へと溶けていった。




