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サフィアスが来てから3日、つまり舞踏会が4日後に迫った時だった。
国王陛下が急遽、城を留守にすることになった。
今まで手付かずだった北方の領地を視察する必要ができた、らしい。
クラウドから詳しく聞いた話によると、北方の未開拓地に水晶の洞窟が発見され、そのうえ中には温かい水のでる泉があるそうだ。
日の当たり方によって水晶の洞窟が七色に輝き、泉の近くでみる景色はこの世のものとは思えないほど美しい、という話だ。
その話を聞いた国王陛下がすぐに出立する用意をしろと命じるのは、想像に難くない。
リディアナは部屋のベランダから見える景色に呆れていた。
今まさに、国王陛下の乗った豪華な馬車が少人数の護衛騎士たちを連れて走り出すところだった。
デビュタント間近の今、下手に王宮を留守にするというのは得策ではない。なにせ舞踏会は近隣からゲストを呼ぶほどの大事なイベント、そのうえ今は隣国から王子殿下がすでに訪問しているのだから。
だが、相手は国王陛下。今回も自分の欲を優先させた。
既に他国の王族が滞在していると言う理由から、護衛は少数精鋭ではあるが。
本来であれば騎士団長であるクラウドも護衛に加わるのだが、今回は第三王女の護衛として城に残留することになった。
「大丈夫ですよ、馬車を使えばそんなにかかる距離ではありません。舞踏会には間に合うでしょう」
何時もより心なしかクラウドの声が弾んでいるように感じる。
(機嫌がいいのかな?)
そう思いながらリディアナはクラウドを見上げる。
にこりと優しい笑みを浮かべたクラウドが再び口を開いた。
「…王女殿下は、今でも城は息が詰まりますか?」
「え?」
いきなりの問いかけにリディアナは驚く。
(そういえば、お城に留まることが決まった日にそんなことも言ったっけ)
「そう、ですね。話し相手が増えた分、前よりは気持ちは楽ですけどね」
「そうですか」
そう答えたときのクラウドはいつも通りに戻っていた。
(機嫌が良さそうと思ったけれど、気のせいだったかな)
リディアナは一人納得し、時計をみる。
そろそろサフィアスと会う時間だ。
―――――――
彼はどちらかというとリディアナよりもオズワルドと仲良くなっているようだ。
後から知ったが、サフィアスは25歳。
オズワルドは彼を兄のように慕い、サフィアスもそれを可愛がっているようにみえる。
もちろん、リディアナとサフィアスが一緒に庭園を散歩することもあるし、その時はとても紳士的にエスコートをしてくれる。
リディアナの大好きな花の話も邪険にすることなく耳を傾けてくれた。
おおらかなその性格にリディアナはすぐに打ち解けていた。
「ヒルデリア殿はどの花が一番好きなんだ?」
「花は全部好きだけれど、思い出に残っているのは、日和実草かしら」
「日和実草?」
「あら、ご存知ない?透明な花弁のお花でね――」
まるで久しぶりに会う兄に話すように、リディアナは笑顔である。
「サフィアス殿下はどのお花が、」
言葉を遮るように一際強い風が吹き抜ける。
リディアナは咄嗟に目を瞑った。
「花びらまみれになっている」
声をかけられて目を開けると、リディアナの髪に付いた花びらを一枚摘まんで見せるサフィアスがいた。
もちろん、彼自身も花びらまみれだ。
「サフィアス殿下も」
「本当だ」
肩についたそれを払いながら、お互いに笑う。
(この人となら、恋愛は出来なくてもきっとうまくやっていける)
リディアナはそう感じていた。




