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リディアナが歪む視界の中で男を睨み付けたとき、今までにたにたしていた男の目が驚愕に見開かれた。
「き、金の瞳――」
瞬間、ゴツっと鈍い音がして男が昏倒した。
続いて拘束が弛み、拘束していた男達も地面に倒れていた。
「っ…リディ…!」
男達を昏倒させたのは、今朝がた送り出した白い軍服姿のクラウドだった。今朝はきっちりと整えられていた髪は見る影もなく乱れているので、相当急いでくれたのだろう。
「くらうど、さん?」
「怪我はありませんか?」
押さえつけられていた体を優しく抱き起こしながら、蒼白な顔で確認される。
土埃がついてはいるけど、押さえつけられていたときの痛みはもう感じない。
リディアナがこくこくと頷くとクラウドは脱力したように息をはいた。
その後、息がつけぬほど抱き締められる。
「…遅くなってすみません、怖かったでしょう」
(なんで、どうしてこの人が…)
疑問と共に感じるのは、確かな安堵だった。
「どうしてたった一人でこんなところに…いえ、今はこの事態を収めるのが先でしょう」
クラウドはリディアナに自身の上着を羽織らせ、ふわりと横抱きに抱え上げ愛馬に跨がる。
そして遅れてきた騎士に城への伝令を頼むと、馬を走らせた。
―――――――
向かった先は公爵家別邸だった。
屋敷についてからも抱き上げられて運ばれる。
落とさないようにしっかりと抱き締める腕の体温に強張っていた体から力が抜ける。
(ああ、自分で思っていたよりも怖かったんだ)
自覚するとなおさら温もりを手放すのが名残惜しくなり、リディアナはクラウドの首に回した両手に力を込め、肩口に顔を埋めた。
応えるように抱えられる腕に力が入り、また安心する。
その後、屋敷に入って事情を聞いたクラウドは静かにぶちギレてた。
「一度リディの部屋へ行きましょう。休息が必要です」
「…クラウドさんは?」
「リディをベッドへ送り届けたら、少しばかり両親と話をしてきます」
「私も、一緒に行ったら駄目ですか?」
「リディ、それは…」
「お願いしますクラウドさん、」
前世25歳、現在16歳。精神年齢41歳のはずなのに、子どものような駄々をこねてしまう自分にリディアナは困惑していた。
(でも、この温もりから今は離れたくない)
もう一度ぎゅうと抱きつくと、クラウドの声が甘さを含む。
「仰せのままに、我が主。危険がないかぎり、わたしが貴女に"否"をいうはずがない。けれど、彼らと会っている間は大人しくわたしの腕の中にいてくださいね」
リディアナが頷くのを確認して、クラウドは応接間へ足を向けた。
―――――――
「クラウド!なぜここにいる?任命式は!パレードは!?」
「トラブルが発生しまして」
公爵の怒鳴るような、捲し立てるような口調に静かに返す。
「まぁ、トラブルなんて部下に任せればよろしいのよ。貴方は団長なのよ」
夫人がここで腕の中にいるリディアナに気づく。
「あら、その娘…」
嫌悪を露にした口調に、リディアナがぴくりと身動いだ。
ゆっくりと視線を向け、瞳の色を目にした夫人は言葉を失う。
「そ、その色は」
公爵が驚愕し、ひとつの可能性に気づく。
第一、第二王女はそれぞれ茶髪と金髪で、すでに他国へ嫁いでいる。
その他に王女がいるという話は聞いたことがなかった。
つまりは。
「まさか、第三王女の…」
そこでリディアナが口を開いた。
「このような姿でお許しください。どうしても、公爵夫人に謝らなければと思って無礼を承知で連れてきていただいたのです」
「あ、謝る、なんてそんな、わたくしは」
「折角公爵夫人が私のような野良の小娘のために教育の機会を与えてくださいましたのに、それを果たすこともできず、こうして言い付けも守れずお屋敷に戻ってきてしまって、本当に自分を情けなく思います」
「いえ、いえ、王女殿下とは知らず、とんだご無礼を」
公爵も夫人もそれぞれ顔を青くしている。
先程までとうってかわってへこへことする姿にクラウドが顔を歪めた。
「本当に、見るに耐えない。リディの目が腐ってしまいます」
くるりと背を向け、背後に言い捨てる。
「どのようなご用でいらしたのかわかりませんが、早急にお取引ください。リディを危険に晒した罪は重いですよ。本邸でお待ちください」
クラウドは今度こそ足を進め、リディアナの部屋へと向かった。




