20 (クラウド視点)
リディアナの誕生日。
心待ちにしていたせいか、予定よりも少し早く到着してしまう。
(待ちきれずに家の前まできたのはいいけれど…)
クラウドは扉の前でノックをしようと手を出したり引っ込めたりを繰り返していた。
(やっぱり出直そうか)
そう思い至り、手を引っ込めたとき。
家の中からがしゃんというガラスが割れる音と、続いて何かが倒れる音がした。
(リディ?)
居ても立ってもいられずに、乱暴な手段をとることにした。
ばきっという音と共に扉を蹴破る。
そして、リディアナが倒れているのをみて心が冷えた。
近くには砕けたポットとカップが散乱している。
「リディ!」
その欠片で間違ってもリディアナが怪我をしないように位置どると、顔を上げたリディアナをみて驚愕する。
金を帯びた緑の瞳。これは…
そこまで考えて、クラウドはその思考を追い払う。
(今はそれよりリディだ、一体何が起こっている?)
「…し、んぞうが、熱い…の、…焼け…てる…みたい…」
リディアナは苦しそうにそう言うと、ふらりと意識を失った。
「リディ!」
とりあえずベッドに運ぼうと抱き上げた時だった。
「リディアナにこれを!」
急に現れた老婆に警戒して殺気を放つ。
「貴殿は」
短く問うと、老婆は叱咤するように言った。
「我が名はサルティア!リディアナを助けたくば早くしないか!」
"サルティア"
その名には覚えがある。
警戒を解き、急ぎ言われた通りに差し出されたブローチを握らせると、リディアナの様子はみるみるうちに落ち着いた。
それをみて、ほっと息をつく。
ベッドに寝かせるため、部屋を見渡す。
(とりあえず、寝室へ…)
「こっちだ」
勝手知り足るように足を進めるサルティアに案内されるまま、クラウドも足を踏み出した。
―――――――
そっとベッドに寝かせたところで、サルティアが口を開いた。
「瞳を、見たね?」
「…ええ」
そう返答すると、サルティアはため息のように息を吐き出した。
「オルゼンベルグ家の坊やだね。リディアナからの便りで"友達ができた"とは聞いていたが…」
貴族とは。苦々しく吐き出される言葉にクラウドは納得する。
以前、一緒にお茶をしていたときに聞いたことがあった。
『おばあさまと住んでいたんだけど、旅に出たきり帰ってこなくて』
(その"おばあさま"ですね)
「わたしをご存知でしたか、元第一級王宮魔術師サルティア殿」
王家の証である金の瞳。
12年前に突如王宮から姿を消した魔術師の存在。
そして、貴族ならば誰でも聞いたことのある第三王女の噂。
クラウドは一つの答えに辿り着いていた。
「心配せずとも、リディが望まないことをするつもりはありません」
そんなことより。
リディアナに目を向けると、サルティアは頷いた。
「リディアナは大丈夫だ。力があるべきところへ戻ったからね」
おそらくは、魔力をブローチに封じることで、王家の血をリディアナの中に眠らせていた。
だが成人を迎え、血が目覚めても魔力がない。それにより魔力回路が乱れ、あの状態になってしまったのだろう。
「もとより前もってブローチを渡していればリディを苦しめることなどなかったはずですが」
「それでは血が目覚める前に魔力のみが戻り、魔力暴走を起こす可能性があった」
サルティアの言い分は理解できる。
それでも不快感が募り、向ける視線が険しくなるのは八つ当たりにも近かった。
クラウドは気持ちを落ち着かせるように一度大きく息を吐き出し、リディアナに視線を戻した。
その瞬間に、先程までの剣呑さは消え去る。
「リディ、眠る姿も美しいけれど…」
汗で張り付いた髪の毛をそっとよける。
視界の端で、サルティアの顔がひきつっているのがわかったが、当然クラウドは気に止めない。
(早く目を覚まして、その声を聞かせて…)




