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妹が憎たらしいのには訳がある  作者: 大橋むつお
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29:『里中ミッション・1』

妹が憎たらしいのには訳がある


29『里中ミッション・1』    




 俺はねねちゃんになってしまった……。


 つまり義体であるねねちゃんに俺の心がインストールされて、いまの俺の体はねねちゃんなのだ。


「インスト-ルは90%に押さえてある。完全にインスト-ルすると、太一は自分の体も動かせなくなるからな。今日は一日オレの家で休んでいてくれ」

「で、ミッションは?」


 声の可愛らしさに自分でたじろぐ(^_^;)。


「言い回しが男だなあ……インストールを95%にしよう」


 里中隊長がタブレットを触って、体に電気が走った。


「ア、アン……」


 変な声が出た。


「そう、その調子だ。ねねの行動プログラムに従って学校に行ってくれ。問題は直ぐに分かる。じゃ、よろしくな」


 そこで車を降ろされた。


 角を曲がって五十メートルも行けばフェリペの正門だ。視界の右下に小さく俺の視界が写っている。まだ、しばらくは車の中なんだろう。


 一歩踏み出すと違和感を感じた。スカートの中で、自分の内股が擦れ合うのって、とても妙な感覚だ。


――女の子って、こんなふうに自分を感じながら生きてるんだなあ……大したことじゃないけど、男女の感受性の根本に触れたような気がした。


「里中さん、ちょっと」


 担任の声で、わたしは……ねねちゃんになっているんで一人称まで、女の子だ。わたしは職員室に入った。


「失礼します」

「こちら、今日からうちのクラスに入る、佐伯千草子さん。慣れるまで大変だろうから、よろしくね」

「チサって呼んでください。よろしく」


 チサちゃんは、立ち上がってペコリと頭を下げた。


「里中ねねです、よろしくね」


 ほとんど自動的に、笑顔が言葉と手といっしょに出た。チサちゃんがつられて笑顔になる。


 で、握手。


「やっと笑顔になった」


 担任の山田先生がホッとした顔をした。デフォルトのねねちゃんは可愛いだけじゃなく、人間関係を円滑にするようにプログラムされているようだ。


 教室に着いた頃、本来のオレは里中さんの家にいた。


 車の中からここまではブラックアウトしている。セキュリティーがかかっているんだろう。たとえ5%とは言え、自我が二重になっているのは、ややこしいので、本来の俺は直ぐにベッドに寝かしつけた。


 朝礼まで時間があるので、わたしはチサちゃんに校内の案内をした。


「ザッと見て回ってるんだろうけど、頭に入ってないでしょ」

「うん……」

「こういうことって、コツがあるのよ」


 わたしは、教室、おトイレ、保健室。そして、今日の授業で使う体育館と美術室を案内した。そして、そこで出会った知り合いやら先生に必ず声をかける。そうすると、場所が人間の記憶といっしょにインプットされるので、場所だけを案内するよりも確かなものになる。


 しかし、行く先々で声を掛ける相手がいるというのは、わたし……ねねちゃんもかなりの人気者なんだ。


「佐伯千草子って言います。父が亡くなったので、伯父さんの家に引き取られて、このフェリペに来ることになりました。大阪には不慣れです。よろしくお願いします」


 短い言葉だったけど、チサちゃんは、要点を外さずに自己紹介できた。最後にペコリと頭を下げて、小さくため息ついて、ハンカチで額の汗を拭った。それが、ブキッチョだけども素直な人柄を感じさせ、クラスは暖かい笑いに包まれた。


「がんばったね」

「うん、どうだろ……」

「最初に『父が亡くなって』と言えたのは良かったと思うわよ」

「そ、そう?」

「うん、家庭の事情とかで済ませたら、いろいろ想像しちゃうでしょ」

「そ、そっか。これで良かったんだ。ありがとう里中さん」

「ねねでいいわよ」

「あ、ありがとう、ねねちゃん!」

「チサちゃん!」


 自然なハグになって、二人は親友になった。


 三時間目が困った……チサちゃんじゃなくて、オレ、いや、わたし。


 体育の時間で、みんなが着替える。女子校なもんで、みんな恥じらいもなく平気で着替えている。わたしは、プログラムされているので、一見平気そうにやれるけど、この情報は寝ている「俺」の方にも伝わる。案の定「俺」は真っ赤な顔をして目を覚ましたようだ。


 美術の時間、チサちゃんは注目の的だった。


 静物画の油絵だけど、チサちゃんはさっさとデッサンを済ませると、ペィンティングナイフで大胆に色を載せていく。そして五十分で一枚仕上げてしまった。



「まるで、佐伯祐三……佐伯さん、ひょっとして!?」

「あ、その佐伯さんとは……」


 それまで絵に集中していたんだろう、先生やみんなの目が集まっていることに恥じらって、俯いてしまった。


 一枚目は習作のつもりだたのだろう、与えられた二枚目のボードを当然の如く受け取った。


 すると、人が変わった。


「そこ、場所開けて」

「は、はい……」


 チサちゃんは堂々と自分の場所を確保。だれもが、それに従順に従った。


「先生、この作品は、まだまだ時間が要ります。放課後も描いていいですか?」

「う、うん、いいわよ」


 チサちゃんは、たった一日で、自分の場所を作ってしまった。まあ、それについては、わたしも少しは寄与している。


――これでいいんでしょ、里中隊長?


 連絡すると意外な答えが返ってきた。


――これからが、本当のミッションなんだ。


 ターゲットは、帰りの地下鉄の駅前の横断歩道にいた……。


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