雲ひとつない青い空が広がった朝のこと
雲ひとつない青い空が広がっていた、初夏の朝の出来事だった。
俺はいつも通り出勤しようとしていた。
緩やかなS字カーブと直線道路の交差点をわたろうとし。横目でS字カーブの道路の先を見たら、車道に茜色の塊があった。
ぱっと見は動物の赤身だと思ったが、それにしてはやけに大きかった。その塊は、艶かしく日光を反射していた。
それは今、車道に落ちていた。
何故そこにあるのかはわからない。昨夜激しい雨風だったので、どこから飛んできたのだろうかとも思ったが、どうも軽そうには見えなかった。
よく見ると、その塊は僅かに脈打っているのがわかった。それに、塊は少しずつアスファルトに接する面積が増えているようで、今は幼稚園児が寝転がれば同じくらいの面積を制していた。
平べったくて、影が見えなかったので、その塊が周りから浮いて見えた。
これ以上必要はない。駅は直線道路をまっすぐ歩いていけば辿り着く。このまま素通りすれば良いだけの話だ。
けれどどうしても、ソレから目を離すことができなかった。
塊は、なめくじと同じくらいのはやさで、じんわりと動いていた。なにをしでかそうとしているのかはわからない
。
じっと塊を見ていた。周りに人はいない。自転車や車も通らない。珍しく、雀や鳩の鳴き声も聞こえなかった。
目を離せなかったが、これ以上近づこうとも思えなかった。今はゆっくりと動いていても、近づいた瞬間その寝そべった身体を大きく引き上げ、俺の身体を丸呑みするんじゃないか。
或いは、俺が視線を逸らした途端、塊がとてつもない速さでこちらに近づき、捕食してくるのではないか。
ありもしない想像が頭から浮かんで、身動きが取れなかった。
震えで胴体は崩れ落ちそうだったのに、足は道路と一体化したのではないかと思うくらい、重たかった。
カーブの道路側からトラックが走って来た。
気がつくと渡り途中だった横断歩道の信号は赤に変わっていた。
横断歩道を渡りきり、ハッと交差点の真ん中を見た。トラックは変わらない速度で交差点を走り抜けようとした。
このままだと赤い塊とぶつかる。そうすると、どうなる?
トラックに轢かれた赤い塊は、どうなってしまうのだろうか。ぐちゃりと粘り気のある音を出して潰れるのか、それとも辺り一面に飛び散ってしまうのか。もしかしたら、悲鳴をあげてしまうかしれない。
気になったが、直視はできなかった。俺は思わず目を強くつぶった。
交差点ではなにも音が鳴らず、トラックはそのまま通過した。
過ぎ去ってくるトラックの後ろ姿や、通り過ぎたあとの道路を見たが、なにもくっついてなかった。
すぐに交差点を見た。そこに塊はなかった。
周りに誰もいなかったので、塊があったはずの場所まで近づいた。
近づいたが、破片も形跡もなかった。
脳裏には鮮明に思い出せるのに、はじめからそこになにもなかったようだった。幻覚でも見ていたのだろうか。
空を見上げた。
雲ひとつない、青い、青い空だった。
啝賀です。
なんでもない日常で、急に変なものが見えたら怖いですよね。
最近、自分が認識していた事と、周りの認識や事実が異なることがあります。
数字を見間違えたり、相手と会話してて、全く違う解釈をしていたり、パッと見た曲がり角の先で誰かがいると思ったら、誰もいなかったり。
疲れなのか、寝不足なのかわかりませんが、自分がおかしくなっているのは確かなので、なんだか怖いんですよね。
そんな中、急に自分でもわからない正体不明なものが出てきたら、本当に怖いだろうなと想像しながら書きました。
はたして塊の正体はなんだったんでしょうか。
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
よければまた次の作品で会いましょう。
啝賀でした。




