2.エモーショナルな炎。
自然教室当日。
バスの中はやけに騒がしかった。
誰かが歌い出して、誰かが笑って、
その空気に乗るようにまた別の誰かが騒ぐ。
自分はというと、適当に笑いながら相槌を打つ。
窓の外を見るふりをしながら
タイミングよく笑う。
間違えないように。
浮かないように。
息を吸うように、簡単にこういうことができるようになった。
ふと前を見ると
六本木さんは一番前の席で本を読んでいた。
あの時から何故かふと目で追ってしまう。
「三玉ー!」
市ヶ谷が後ろから肩を叩く。
「お前なんか静かじゃね?」
「いやいや、そんなことないって」
「六本木さんみたいになってんぞ」
笑いが起こる。
また笑う。
ちゃんと。
またか
心のどこかで引っかかる。
昨日と同じ感覚。
小さい棘みたいなものが残る。
休憩所でバスが止まる。
皆が降りて、売店に向かう。
流れでついていく。
「何買う?」
「適当でいいんじゃね」
「アイス食いてー」
いつも通りの会話。
いつも通りの空気。
でも。
少しだけ、ズレている気がする。
ふと、視界の端に六本木さんが映る。
1人でベンチに座っていた。
何もしていない。
ただ、ぼんやり外を見ている。
話しかけに
いや、なんて話しかける。
そもそも話す必要があるのか?
でも。
気づけば足が動いていた。
「……何してんの?」
自分でも雑な入りだと思う。
六本木さんは少しだけ顔を上げる。
「休んでる」
「そりゃそうだね」
沈黙が流れて
風の音だけがする。
何話そう。
頭の中で言葉を探す。
見つからない。
上手く言葉が出てこない。
「……あのさ」
先に口を開いたのは六本木さんだった。
「三玉くんって、無理してる?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「え?」
「笑い方、ずっと同じだから」
心臓が跳ねる。
何で分かったんだろう。
もしかして皆にもバレている?
「いや、別に……」
反射で否定する。
でも、言葉が続かない。
六本木さんはそれ以上何も言わない。
ただ、こちらを見ている。
逃げ場がない
そう思った。
「……癖...みたいな...」
やっと出た言葉は曖昧だった。
「そっか」
興味があるのかないのか分からない返事。
「悪いことじゃないと思う」
「え?」
「その場が回るなら」
それは肯定だった。
でも。
「でも」
やっぱり続く。
「疲れない?」
言葉が刺さる。
図星だった。
でも、それを認めたら
何かが崩れる気がした。
「……そんなことないよ」
また笑う。
いつもの顔で。
六本木さんは、少しだけ目を細めた。
「そっか」
それだけ言って、立ち上がる。
「戻ろう」
その背中を見ながら動けなかった。
正しいことを言う。
余計なことも言う。
空気も読まない。
でも
彼女は
あの人は
胸の奥が、ざわつく。
さっきの言葉が、頭から離れない。
疲れない?
いや違う。
流石にそんなことはない。
もしも本当にそうだったとしたら
その気持ちを置いて、バスに向かった。




