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10.後藤という女/仁村という男

学校近くのファミレスで、夕方に四人は他愛もない話をしていた。


「お待たせしましたー。ご注文の、えー、これとこれとこれとこれです」


「この店員さん、いつもいるよねー」


「確か、あっちの高校の人らしいよ」


「あ、あの人。確か中学一緒だった」


そんな、どうでもいい話を続けている。


そんな最中。


「三玉さー、六本木さんと付き合ってんの?」


仁村が聞く。


市ヶ谷は少しそわそわする。


大丈夫だろうか。踏み込んでいい話だろうか。

いや、そもそも自分の立場的に、気にせず聞きにいったほうがいいのか。


「いや、付き合ってないよ」


三玉は即答して続ける。


「……自分が好きなだけだよ」


そう言って、目を逸らす。


「あ、響……六本木さんにも、この三人にならいいよって許可もらってるから」


「へえー、なんかこう言っちゃなんだけど真面目だな」


仁村がコーラを飲みながら言う。


「どんなとこが好きなの?」


後藤が聞く。


「自分とは違う強さがあるところ」


それも即答する。

言い切る。迷いなく。


「いいなー、私も恋したーい」


「そんな考えあったの? 後藤」


「俺はまだ無理そうかなー」


そう言って、その日は解散した。


帰り道。


仁村は一人で歩いていた。


二人がどう考えているのか分からんけど、

俺は今の感じから変わろうとは思わない。


楽だし、気楽に生きれるし。

部活もほとんど行ってないから時間はいっぱいある。


「仁村くんってマイペースだよね」


よく言われることで、自分でもそう思う。


何でもほどほどにすることが、

心身をすり減らさないと思ったから。


三玉もそうだと思っていた。


でも。


三玉はそれでも一歩踏み出そうと覚悟したんだ。


俺とは違う。


少しだけ、足が止まる。


それでいいのか、と一瞬だけ思う。


でも。


「……まあ、いいか」


小さく呟いて、また歩き出す。







その頃、


別の道を、後藤は一人で歩いていた。


街灯がぽつぽつと灯り始めている。


「自分とは違う強さがあるところ」


さっきの言葉が、頭に残っている。


少しだけ笑う。


いいな、って思った。


でも。


それだけじゃない。


ずるいな、って思った。


誰かにそんなふうに見てもらえること。

誰かをそんなふうに見れること。


どっちも、よく分からない。


昔からそうだった。


人に何かを話すと、決まって同じ顔をされる。


かわいそう、って顔。

大変だね、って顔。


でも。


それは好きじゃない。


分かってる。


あれは優しさで、間違ってない。


でも。


ずっと、そればっかりだった。


「大丈夫?」

「無理しないでね」


その言葉の奥にあるのは、


同情で、


距離で、


線だった。


だから、


分からない。


人から向けられる感情が、どこまで本当なのか。


「いいなー、私も恋したーい」


自分の言葉を思い出す。


軽かったな、って思う。


もし誰かに好きって言われても。


きっと、まず疑う。


なんで?

どうして?

どこが?


三玉は、すごいと思う。


あんなふうに、まっすぐに誰かを見れること。


六本木も、すごいと思う。


あんなふうに見られて、

ちゃんとそこに立っていられること。


私は、どっちもできない。


足元を見る。


街灯に照らされた影が伸びる。


踏み出せばいいだけなのに。


その一歩が、分からない。


「……恋かあ」


小さく呟く。


したい、とは思う。


でも、


愛される自分なんて想像できない。


少しだけ立ち止まる。


もし。


本当に、誰かが自分を好きだと言ったら。


その時、自分はどうするんだろう。


信じられるのか。


それとも。


壊してしまうのか。


分からないまま、また歩き出す。


同じ帰り道でも。


同じ時間でも。


選ぶものも、

抱えているものも、


まるで違っていた。

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